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相続分の譲渡とは?手続き方法から税金、注意点まで司法書士が解説

2026-02-05

相続トラブルから抜け出す選択肢「相続分の譲渡」とは?

「他の相続人との話し合いが、一向に進まない…」「正直、実家の財産にはあまり関心がない。手続きから解放されたい」「お世話になった長男のお嫁さんに、自分の相続分を渡すことはできないだろうか?」

大切なご家族が亡くなられた悲しみの中、遺産分割協議が難航すると、心身ともに疲弊してしまうことは少なくありません。このような複雑な状況を解決する一つの選択肢として、「相続分の譲渡」という制度があることをご存じでしょうか。

相続分の譲渡とは、ご自身が持つ遺産相続の権利(相続分)を、他の相続人や第三者に譲り渡す手続きのことです。この制度をうまく活用することで、面倒な遺産分割協議から離脱したり、特定の人に財産を集中させたりといった、柔軟な対応が可能になります。

しかし、手軽に見えるこの制度には、知らずに進めると後悔しかねない重要な注意点も存在します。特に、故人の借金(債務)の問題や、税金の問題は慎重な検討が不可欠です。

この記事では、相続問題に日々向き合っている司法書士の視点から、相続分の譲渡という制度の全体像を分かりやすく解説します。手続きの流れ、メリット・デメリット、そして最も重要な「あなたの場合は利用すべきか」という判断基準まで、具体的に掘り下げていきます。この記事を読み終える頃には、ご自身の状況で取るべき次の一歩が明確になっているはずです。

なお、相続財産を分ける基本的な方法については、「遺産分割3つの方法|現物・換価・代償分割を司法書士が比較解説」で体系的に解説していますので、併せてご一読ください。

「相続放棄」とはどう違う?それぞれの特徴を比較

「相続に関わりたくない」と考えたとき、多くの方がまず思い浮かべるのが「相続放棄」でしょう。相続分の譲渡と相続放棄は、どちらも相続財産を受け取らないという点では似ていますが、その法的な効果や目的は全く異なります。特に故人に借金がある場合の取り扱いが決定的に違うため、両者の違いを正確に理解しておくことが極めて重要です。

相続分の譲渡と相続放棄の主な違いを比較した図解。財産を渡す相手、借金の扱い、手続きの期限、手続きの相手の4項目でそれぞれの特徴を解説。
比較項目相続分の譲渡相続放棄
財産を渡す相手選べる(他の相続人・第三者)選べない(次の順位の相続人に権利が移る)
プラスの財産権利が譲受人に移る初めから相続人でなかったことになる
マイナスの財産(借金)支払い義務は残る支払い義務がなくなる
手続きの相手方譲受人(財産を譲り受ける人)家庭裁判所
手続きの期限特にない(遺産分割協議成立前まで)原則、相続開始を知った時から3ヶ月以内
相続分の譲渡と相続放棄の比較

最大の違いは、相続分の譲渡をしても、債権者に対する借金の支払い義務が当然に消えるわけではないという点です。譲渡人(あなた)と譲受人(財産を受け取った人)の間で「借金も引き継ぐ」と合意したとしても、それはあくまで当事者間の約束に過ぎません。貸主などの債権者は、譲渡の合意とは別に、状況に応じて譲渡人に返済を求めることがあり得るため注意が必要です。

もし故人に借金がある可能性が少しでもあるなら、安易に相続分の譲渡を選択するのではなく、まずは正確な債務調査を行い、相続放棄を検討することが重要になります。

【判断基準】相続分の譲渡をすべきケース・すべきでないケース

相続分の譲渡は、メリットも大きい反面、使い方を間違えると予期せぬトラブルを招きかねません。ここでは、司法書士としての実務経験から、どのような場合に利用を検討すべきか、逆にどのような場合は慎重になるべきか、具体的な判断基準を解説します。

メリットを活かせる!譲渡を前向きに検討すべき3つの状況

以下のような状況に当てはまる場合、相続分の譲渡は有効な解決策となる可能性があります。

1. 遺産分割協議のトラブルから早期に離脱したい

相続人同士の関係が良くない、あるいは意見が対立して遺産分割協議が全く進まないというケースは少なくありません。特に、遠方に住んでいたり、仕事が多忙であったりすると、何度も話し合いに参加すること自体が大きな負担となります。このような場合、特定の相続人(例えば、最も財産状況を把握している長男など)に自分の相続分を譲渡してしまえば、その後の遺産分割協議に参加する必要がなくなり、精神的な負担から解放されます。少額の対価(ハンコ代など)を受け取る形で有償譲渡にすることも可能です。

2. 特定の人に財産を渡したい(相続人以外も可)

「父の介護を一身に引き受けてくれた長男のお嫁さんに、感謝の気持ちとして財産を渡したい」といったご相談を受けることがあります。しかし、長男の妻は法定相続人ではないため、通常は遺産分割協議に参加して財産を受け取ることはできません。このようなケースで相続分の譲渡が役立ちます。あなたがご自身の相続分を長男の妻に譲渡すれば、彼女は譲受人として遺産分割協議に参加し、財産を取得することが可能になるのです。このように、法定相続人以外の人に財産を渡したいという意思を実現できるのは、相続分の譲渡の大きなメリットと言えるでしょう。

3. 事業承継などで遺産を特定の相続人に集約させたい

故人が会社を経営していたり、アパートなどの収益物件を所有していたりする場合、財産を複数の相続人で細かく分けてしまうと、経営が不安定になる恐れがあります。後継者となる特定の相続人に経営権や財産を集中させたいと他の相続人が考えている場合、後継者以外の相続人がその後継者に対して相続分を譲渡する方法が有効です。これにより、遺産分割協議をスムーズに進め、事業の安定的な承継を実現しやすくなります。中には、連絡が取れない相続人がいる場合でも、他の相続人間で譲渡を行うことで協議を進めやすくする効果も期待できます。

要注意!安易な譲渡が危険な3つの状況

一方で、以下のような状況で安易に相続分の譲渡を行うと、かえって事態を悪化させる危険性があります。

故人に借金がある可能性があり、相続分の譲渡をすべきか悩んでいる男性のイメージ写真。

1. 故人に借金(債務)がある可能性が高い

これは最も注意すべき点です。前述の通り、相続分の譲渡をしても、あなたは相続人であることに変わりはなく、債権者に対する支払い義務は免れません。もし故人に多額の借金があることを知らずにプラスの財産だけを譲渡してしまうと、「財産はもらえないのに、借金の督促だけが来る」という最悪の事態に陥る可能性があります。借金の有無が不明な場合は、まず専門家に相談し、債務調査を行った上で、相続放棄を検討するのが鉄則です。

2. 相続人以外の第三者への譲渡を考えている

相続分は、相続人ではない全くの第三者にも譲渡できます。しかし、これは慎重の上にも慎重な判断が必要です。見ず知らずの第三者が遺産分割協議に参加してくることに対し、他の相続人が強い不快感や警戒心を抱くのは当然でしょう。これにより、まとまる話もまとまらなくなり、親族間の関係が修復不可能なほど悪化してしまうリスクがあります。また、民法では、他の相続人がその第三者から相続分を買い戻せる「取戻権」という権利を認めていますが、これも新たな金銭トラブルの火種になりかねません。第三者への譲渡は、よほどの事情がない限り避けるべきでしょう。

3. 遺言で特定の財産の取得が決まっている

「長男に自宅不動産を相続させる」といった内容の遺言がある場合、その不動産は原則として長男が取得することになります。この状況で、あなたが自分の相続分を第三者に譲渡したとしても、その第三者が自宅不動産の権利を主張することは基本的にできません。相続分の譲渡は、あくまで遺産全体に対する割合的な権利を譲渡するものであり、特定の財産を指定して譲渡するものではないからです。遺言の内容と矛盾するような譲渡は、無用な混乱を招くだけでなく、法的に無効と判断される可能性もあるため注意が必要です。

相続分譲渡の具体的な手続きと必要書類

相続分の譲渡は、当事者間の合意のみで成立しますが、後のトラブルを防ぐためには、必ず書面を作成し、決められた手順を踏むことが重要です。ここでは、具体的な手続きの流れを3つのステップで解説します。

ステップ1:譲渡人・譲受人間の合意形成

まず、譲渡する側(譲渡人)と譲り受ける側(譲受人)の間で、譲渡の内容について明確に合意する必要があります。口約束は絶対に避け、以下の点について認識をすり合わせておきましょう。

  • 譲渡する相続分の範囲:自分の相続分の全部を譲渡するのか、一部(例:2分の1)だけを譲渡するのか。
  • 対価の有無(有償か無償か):無償で譲るのか、それとも一定の対価を受け取るのか。
  • 対価の金額と支払方法:有償の場合、金額はいくらにするのか、いつ、どのように支払うのか。

この段階での曖昧な点が、後のトラブルの元になります。特に金銭が絡む場合は、慎重に話し合い、合意内容をメモなどに残しておくことが望ましいです。

ステップ2:「相続分譲渡証明書」の作成と押印

ステップ1で合意した内容を証明するために、「相続分譲渡証明書」という書面を作成します。法律で定められた決まった書式はありませんが、以下の項目は必ず記載してください。

  • 被相続人の情報:氏名、本籍、最後の住所、死亡年月日
  • 譲渡人の情報:氏名、住所(印鑑証明書のとおり)、実印の押印
  • 譲受人の情報:氏名、住所
  • 譲渡の事実:「譲渡人は、被相続人〇〇の相続における自己の相続分全部を、譲受人に譲渡したことを証明する」といった文言
  • 譲渡日:契約日

特に重要なのが、譲渡人の押印は必ず実印で行い、印鑑証明書を添付することです。相続財産に不動産が含まれる場合、後の相続登記手続きでこの実印と印鑑証明書が必須となります。これが不足していると、登記申請で補正(書類の追完・補充)を求められるなど、手続きが滞る原因になります。これは、遺産分割協議書を作成する際と同様、手続きの根幹に関わる重要なポイントです。

ステップ3:他の相続人への「相続分譲渡通知」

譲渡が完了したら、その事実を他の相続人全員に通知する必要があります。これを「相続分譲渡通知」と呼びます。この通知を怠ると、誰が遺産分割協議の当事者なのかが分からなくなり、協議が混乱してしまいます。

通知の方法は、口頭や普通郵便でも法律上は問題ありませんが、トラブルを確実に防ぐためには、「いつ、誰が、どのような内容の通知を受け取ったか」を郵便局が証明してくれる「内容証明郵便」を利用することを強くお勧めします。これにより、「そんな通知は聞いていない」といった後の言い逃れを防ぐことができます。

遺産分割調停中に相続分の譲渡が行われた場合など、手続きについてご不明な点があれば、以下の裁判所の資料も参考になります。
参照:~遺産分割調停に関するよくある質問~

【税理士監修】相続分譲渡で発生する税金の種類と注意点

相続分の譲渡は、税金の問題が複雑に絡み合います。「誰に(譲渡相手)」「どうやって(対価の有無)」の組み合わせによって、かかる税金の種類が変わるため、慎重な検討が必要です。

相続分譲渡で発生する税金の種類をパターン別に解説した図解。譲渡相手と対価の有無によって、譲渡人と譲受人にどの税金がかかるかを示している。
パターン譲渡人(あなた)にかかる可能性のある税金譲受人(相手)にかかる可能性のある税金
他の相続人へ・無償で譲渡課税なし相続税(基礎控除を超えた場合)
他の相続人へ・有償で譲渡譲渡所得税(譲渡益が生じる場合。原則として「譲渡収入−取得費−譲渡費用」で判定)相続税(基礎控除を超えた場合)
第三者へ・無償で譲渡相続税(基礎控除を超えた場合)贈与税
第三者へ・有償で譲渡相続税(基礎控除を超えた場合) +譲渡所得税(不動産等で譲渡益が生じる場合)課税なし(ただし著しく低額な対価等の場合は別途検討が必要)
相続分譲渡における課税関係のパターン

特に注意が必要なのは以下の2点です。

  1. 第三者への無償譲渡は要注意
    相続人ではない第三者に無償で譲渡した場合、譲受人には「贈与税」が課されるのが一般的です。また、譲渡人側は相続税の課税関係(基礎控除超過の有無等)を踏まえて検討が必要になります。結果として、当事者間で税負担が重くなりやすいため、第三者への無償譲渡は極めて慎重に検討すべきです。
  2. 有償譲渡では「譲渡所得税」が発生する可能性
    相続分を有償で譲渡し、原則として「譲渡収入−(取得費+譲渡費用)」で計算した結果、譲渡益(利益)が生じる場合には、その利益に対して譲渡所得税が課されます。特に不動産など、取得時より価値が上がっている資産が含まれる場合は注意が必要です。このようなケースは、親族間売買における税務上の論点とも共通する部分があります。
    税金の計算は非常に専門的であり、個別の事情によって大きく異なります。必ず税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
    参照:国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

司法書士が解説!相続分の譲渡が不動産登記に与える影響

相続財産の中に不動産が含まれている場合、相続分の譲渡は登記手続きにも影響を及ぼします。司法書士の専門分野である登記の観点から、その影響を解説します。

登記手続きは、譲渡相手が「他の相続人」か「第三者」かによって流れが異なります。

  • 譲渡相手が他の相続人の場合
    この場合、手続きは比較的シンプルです。相続分の譲渡があったことを証明する「相続分譲渡証明書」を遺産分割協議書と併せて法務局に提出することで、被相続人から財産を取得した相続人へ直接、所有権を移転する相続登記が可能です。中間の登記を省略できるため、登録免許税などの費用を抑えることができます。
  • 譲渡相手が相続人以外の第三者の場合
    手続きは複雑になります。まず、一旦、法定相続分どおりに共同相続人全員の名義で相続登記を行う必要があります。その上で、相続分を譲渡した相続人から、譲り受けた第三者へ「持分移転登記」を申請するという、2段階の手続きが必要になるのです。
    この方法は、登記が2回必要になるため、登録免許税や司法書士報酬などの費用が余計にかかってしまいます。登記費用の観点からも、安易な第三者への譲渡は得策ではないと言えるでしょう。

まとめ:相続分の譲渡は慎重な判断を。まずは専門家へご相談ください

この記事では、相続分の譲渡について、その概要から手続き、税金、注意点までを網羅的に解説しました。

相続分の譲渡は、遺産分割協議の膠着状態を打開したり、特定の意図を実現したりするための有効な手段です。しかしその一方で、

  • 借金の支払い義務は残る
  • 税金の問題が複雑に絡む
  • 第三者への譲渡は新たなトラブルの火種になりかねない
  • 不動産がある場合、登記手続きが複雑化・費用増になる可能性がある

など、専門的な知識なしに進めると大きなリスクを伴う手続きでもあります。

「自分の場合は、相続放棄とどちらが良いのだろう?」「このまま進めて、後で思わぬ税金がかかったりしないだろうか?」少しでもこのような不安や疑問を感じたら、ご自身の判断だけで手続きを進める前に、ぜひ一度、相続の専門家である司法書士にご相談ください。

えなみ司法書士事務所では、お客様一人ひとりのご事情を丁寧にお伺いし、相続分の譲渡が本当に最善の選択肢なのか、他の方法はないのかを共に考え、最適な解決策をご提案いたします。初回のご相談は無料ですので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

相続分の譲渡・相続放棄のご相談

所有不動産記録証明制度とは?専門家が目的や注意点を解説

2026-01-31

所有不動産記録証明制度とは?相続登記義務化で重要となる新制度

「親が亡くなったけれど、どこに不動産を持っているか分からない…」「相続手続きを進めたいのに、財産の全体像がつかめない」。
これまで、相続が始まると多くの方がこのような悩みに直面してきました。故人が所有していた不動産を正確に把握するのは、実は非常に手間のかかる作業だったのです。

そんな相続人の負担を劇的に軽くする、画期的な新制度が2026年2月2日から始まります。それが「所有不動産記録証明制度」です。

この制度を使えば、ある特定の人が日本全国に所有している不動産を、法務局で一覧として取得できるようになります。これは、2024年4月1日から始まった相続登記の義務化とも深く関係しており、登記漏れによる過料のリスクを避けるためにも、非常に重要な意味を持つ制度といえるでしょう。

この記事では、相続手続きを控えた方が安心して準備を進められるよう、所有不動産記録証明制度の目的から具体的な使い方、そして専門家だからこそ指摘できる注意点まで、分かりやすく解説していきます。

制度が創設された目的と背景にある「所有者不明土地問題」

「なぜ今まで、全国の不動産をまとめて調べられなかったの?」と不思議に思う方もいるかもしれません。その理由は、日本の登記制度が「物的編成主義」という考え方を採用しているからです。これは、人(所有者)を基準にするのではなく、土地や建物一つひとつに番号(地番・家屋番号)を付けて管理する仕組みです。そのため、これまでは市区町村ごとに、地番や家屋番号を頼りに一つずつ不動産を探し出すしかありませんでした。

この仕組みが、長年にわたる相続登記の放置と相まって、深刻な「所有者不明土地問題」を引き起こしました。登記簿を見ても所有者が誰か分からない、分かっても連絡がつかない土地が、日本中に増え続けてしまったのです。これは、公共事業の妨げや、災害復旧の遅れ、周辺環境の悪化など、社会全体にとって大きな問題となっています。

そこで国は、相続登記を義務化すると同時に、相続人が不動産を調査しやすくするための仕組みとして、この所有不動産記録証明制度を創設しました。単に個人の手続きを便利にするだけでなく、社会問題の解決という大きな目的も担っているのです。
中には、相続したものの管理できずに困ってしまう不要な土地の問題もありますが、まずは所有している財産を正確に把握することが第一歩となります。

参照:国土交通省「所有者不明土地の 実態把握の状況について」

いつから始まる?施行日と利用できる人

この新しい制度は、2026年(令和8年)2月2日からスタートします。

誰でも利用できるわけではなく、プライバシー保護の観点から、請求できる人は限定されています。具体的には、以下の方々です。

  • 不動産の登記名義人本人
  • 相続人(法定相続人など)
  • 上記の方から依頼を受けた代理人(司法書士、弁護士など)

このように、本人や正当な権利を持つ相続人、そしてその専門家だけが情報を取得できる仕組みになっています。

所有不動産記録証明制度のメリットと具体的な請求方法

この制度を利用することで、相続手続きはどのように変わるのでしょうか。具体的なメリットと、実際に証明書を取得するための手順を見ていきましょう。

メリット:全国の不動産を一括把握し、登記漏れを防ぐ

この制度がもたらす最大のメリットは、「これまで気付けなかった不動産を発見できる」点にあります。

例えば、こんなケースを想像してみてください。

  • 親が若い頃に投資目的で購入し、家族も知らない遠方の山林
  • 昔、共有名義で取得した地方の土地の持分
  • 固定資産税が課税されない「非課税」の私道や墓地

これまでの調査方法では、こうした不動産の存在を突き止めるのは非常に困難でした。しかし、所有不動産記録証明制度を使えば、これらの不動産も一覧でリストアップされるため、財産調査の精度が飛躍的に向上します。

その結果、以下のような多くのメリットが生まれます。

  • 相続登記の漏れを防げる:すべての不動産を把握できるため、意図せず登記を怠り、過料を科されるリスクを回避できます。
  • 遺産分割協議がスムーズに進む:相続財産の全体像が初めから明確になるため、後から新たな財産が見つかって協議をやり直すといった手間がなくなります。円満な遺産分割の前提を整えることができます。
  • 生前の財産整理(終活)にも活用できる:ご自身が所有する不動産を一覧で確認し、将来の相続に備えて整理しておく際にも役立ちます。

請求手順と必要書類:どこで、何を用意すればいい?

実際に所有不動産記録証明書を請求する際の手順と必要書類は以下の通りです。

所有不動産記録証明制度の請求手順を4つのステップで示した図解。1.全国の法務局へ、2.交付請求書を提出、3.戸籍謄本などの添付書類を用意、4.手数料を納付、という流れをアイコン付きで解説。

  1. どこで?
    法務局(法務大臣が指定する登記所)で請求できます。窓口での請求のほか、郵送による請求も可能とされています。
  2. 何を使って?
    法務局に備え付けられる「交付請求書」に必要事項を記入します。
  3. 何を添付して?(相続人が請求する場合)
    相続人が請求する場合、主に以下の書類が必要になります。
    • 被相続人(亡くなった方)の戸籍謄本または除籍謄本:被相続人が亡くなったことと、その死亡年月日を証明します。
    • 請求者の戸籍謄本:請求者が被相続人の相続人であることを証明します。
    • 請求者の本人確認書類:運転免許証、マイナンバーカードなどが必要です。
    • (被相続人の最後の住所が登記上の住所と異なる場合)被相続人の住民票の除票または戸籍の附票:登記簿上の住所と死亡時の住所のつながりを証明します。
  4. いくらで?(手数料)
    証明書の発行には手数料がかかります。例えば、窓口での請求の場合、1通あたり1,600円が必要とされています。

具体的な請求書の書き方などは、制度開始までに法務省のウェブサイトで公開される予定です。
参照:法務省:所有不動産記録証明制度について

【専門家が指摘】制度の限界と本当に注意すべき点

全国の不動産を一覧化できる非常に便利な制度ですが、決して万能ではありません。むしろ、この制度の仕組みを正しく理解していないと、かえって不動産を見落とす危険性すらあります。ここでは、専門家の視点から、特に注意すべき2つのポイントとその解決策を解説します。

注意点1:登記上の住所・氏名が古いと不動産が”見つからない”!?

この制度で最も注意すべき点は、検索の仕組みにあります。
制度は、請求書に記載された氏名・住所と、登記簿に記録されている氏名・住所が「完全に一致」した場合にのみ、不動産をリストアップします。

これが何を意味するかというと、もし登記簿に記録された情報が古いまま更新されていない場合、現在の氏名や住所で検索しても、その不動産は「存在しない」ものとして扱われてしまうのです。

  • 結婚や離婚で姓が変わったが、登記名義は旧姓のまま
  • 若い頃に不動産を取得し、その後何度も引っ越しているが、登記上の住所は昔のまま

このようなケースは、決して珍しくありません。特に、何十年も前に取得した不動産ほど、現在の情報と異なっている可能性が高くなります。この制度の結果だけを信じて「不動産はこれだけだ」と判断してしまうと、重大な財産を見落とし、後々大きなトラブルに発展する恐れがあります。

住所変更登記は2026年4月から義務化されますが、それ以前の変更がなされていないケースは非常に多いのが実情です。

解決策:司法書士は「戸籍の附票」で過去の住所を洗い出す

では、どうすれば調査の漏れを防げるのでしょうか。
私たち司法書士がこのような調査を行う場合、必ず「戸籍の附票(こせきのふひょう)」という書類を取得します。

戸籍の附票とは、その人がその戸籍に入ってから現在(または出るまで)の住所の履歴がすべて記録されている公的な証明書です。本籍地の市区町村役場で取得できます。

この戸籍の附票を取り寄せることで、その戸籍に記載された日から除籍される日までの住所の履歴を把握できます。そして、判明した過去の住所すべてを検索条件に加えて所有不動産記録証明書を請求するのです。これにより、登記簿上の住所が古くても、不動産を捕捉できる確率が格段に高まります。

これは専門家ならではのノウハウであり、確実な財産調査を行うための生命線ともいえる手法です。

司法書士が戸籍の附票を使い、過去の住所から不動産を調査しているイラスト。専門的なノウハウで問題を解決する様子を表現。

注意点2:未登記の建物や先代名義の不動産は対象外

もう一つの重要な限界は、この制度があくまで「登記情報」を基にしているという点です。

つまり、以下の不動産は検索の対象外となり、証明書には記載されません。

  • 未登記の建物:昔からある古い家屋や納屋、増築した部分などが登記されていないケース。
  • 先代名義のままの不動産:例えば、祖父名義の土地を父が相続したものの、相続登記をしないまま父が亡くなってしまったケース。この場合、父の名前で検索してもその土地はヒットしません。

したがって、所有不動産記録証明書を取得したからといって、それが所有財産のすべてだと断定することはできません。未登記の建物の存在などは、他の調査方法と組み合わせる必要があります。

他の調査方法との違いは?名寄帳・固定資産税通知書との比較

所有不動産記録証明制度は強力なツールですが、完璧ではありません。確実な調査のためには、従来からある調査方法と適切に組み合わせることが重要です。ここでは、代表的な2つのツールと比較してみましょう。

調査範囲と精度で比較する3つのツール

「所有不動産記録証明書」「名寄帳(なよせちょう)」「固定資産税納税通知書」の3つには、それぞれ得意なことと不得意なことがあります。

所有不動産記録証明書名寄帳固定資産税納税通知書
調査範囲全国市区町村ごと市区町村ごと
データソース登記情報課税情報課税情報
非課税不動産記載される原則記載されない記載されない
未登記建物記載されない記載される場合がある記載される場合がある
長所広範囲を一度に調査できる。私道なども把握可能。未登記の家屋を発見できる可能性がある。手元にあればすぐに財産の概要を把握できる。
短所登記情報が古いとヒットしない。未登記建物は不明。市区町村ごとに請求が必要。非課税不動産は不明。課税されている不動産しか分からない。情報の網羅性はない。
不動産調査ツールの比較

このように、調査できる範囲や情報の元となるデータが全く異なることが分かります。
名寄帳は市区町村が固定資産税を課税するために作成している台帳で、その市区町村内にある不動産を所有者ごとにまとめたものです。課税情報が元になっているため、登記されていない建物でも課税対象になっていれば記載されていることがあります。

【結論】確実な調査のためには複数の方法の組み合わせが不可欠

では、プロはどのようにこれらのツールを使い分けるのでしょうか。
結論から言うと、「これらの方法を戦略的に組み合わせること」が、より網羅的な不動産調査につながります。

理想的な調査フローは以下のようになります。

  1. ステップ1:所有不動産記録証明書で全国の当たりをつける
    まず新制度を活用し、日本全国にある登記された不動産を広範囲に洗い出します。ここで、これまで知らなかった不動産の所在地(市区町村)が判明します。
  2. ステップ2:判明した市区町村で名寄帳を取得する
    次に、ステップ1で判明した市区町村の役場で名寄帳を取得します。これにより、その市区町村内にある未登記の建物や、課税されている不動産の詳細を確認し、調査の精度を高めます。
  3. ステップ3:固定資産税納税通知書で補完する
    手元にある固定資産税納税通知書と照らし合わせ、課税状況などを確認します。

この流れで調査を進めることで、それぞれのツールの長所を活かし、短所を補い合いながら、調査の網羅性を最大限に高めることができるのです。

まとめ:新制度を賢く活用し、確実な相続手続きを

2026年2月2日から始まる「所有不動産記録証明制度」は、相続人の財産調査の負担を大きく軽減する、非常に強力なツールです。これまで発見が難しかった不動産も全国規模で調査できるようになり、相続登記の義務化に対応するうえで心強い味方となるでしょう。

しかし、この記事で解説したように、この制度には限界もあります。

  • 登記情報が古いと、不動産が検索結果に表示されないリスクがある。
  • 未登記の建物や、先代名義のままの不動産は対象外。
  • 確実な調査のためには、名寄帳など他の方法との組み合わせが不可欠。

特に、過去の住所をすべて洗い出して検索をかけるといった専門的な作業は、一般の方には難しい場合も多いかもしれません。制度を過信してご自身で調査を完結させてしまうと、かえって財産を見落とすことにもなりかねません。

「うちの場合は大丈夫だろうか?」「できる限り漏れなく財産を把握したい」
もし少しでもご不安があれば、ぜひ一度、相続の専門家である司法書士にご相談ください。私たちは、戸籍の附票をはじめとする様々な公的書類を駆使し、新制度を最大限に活用して、皆様の大切な財産を正確に把握するお手伝いをいたします。
丁寧な調査で、安心できる相続手続きの第一歩を踏み出しましょう。

相続手続きに関するご不安やお悩みは、お気軽にご相談ください。
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叔父・叔母の相続放棄|甥・姪の起算点はいつから?専門家が解説

2026-01-08

突然の連絡… 叔父・叔母の相続、まず落ち着いて状況を確認しましょう

ある日突然、役所や見知らぬ会社から手紙が届き、「亡くなった叔父(叔母)の相続人になりました」と告げられたら、誰でも驚き、混乱してしまうことでしょう。特に、長年疎遠だった場合には「なぜ自分が?」「これからどうなってしまうのか…」と、大きな不安を感じていらっしゃるのではないでしょうか。

相続を承認するのか、それとも放棄するのか。この判断には「3ヶ月」という期限がありますが、だからといって焦る必要はありません。大切なのは、慌てて行動する前に、ご自身の状況を正しく理解することです。

この記事では、あなたと同じように、突然叔父・叔母の相続人となった甥・姪の方に向けて、相続放棄の期限が「いつから」始まるのか、そして「いつまでに」「何をすべきか」を、司法書士が一つひとつ丁寧に解説していきます。読み終える頃には、きっとご自身の状況が整理され、次の一歩を落ち着いて踏み出せるはずです。

なぜ私が相続人に?甥・姪が相続する仕組み

「叔父(叔母)には子どもがいたはずなのに…」「兄弟姉妹は他にもいるのに、なぜ私に連絡が?」多くの方が、まずこの疑問に突き当たるはずです。あなたが相続人になったのには、法律で定められた相続のルールが関係しています。少し複雑に感じるかもしれませんが、ご自身の立場を理解するために、ここで基本を押さえておきましょう。

甥・姪が叔父・叔母の相続人になる代襲相続の仕組みを図解したインフォグラフィック。相続順位が第3順位まで下がり、親が亡くなっている場合に甥・姪が相続権を引き継ぐ流れを示している。

相続には優先順位がある(法定相続人)

法律では、誰が遺産を相続するのか、その優先順位が決められています。これを「法定相続人」といいます。

  • 第1順位:亡くなった方の子ども(や孫)
  • 第2順位:亡くなった方の親(や祖父母)
  • 第3順位:亡くなった方の兄弟姉妹

相続は、この順位の高い人から権利を得ます。つまり、第1順位の人が一人でもいれば、第2順位や第3順位の人に相続権は移りません。今回の場合、叔父様・叔母様に第1順位の子どもや第2順位の親がおらず、初めて第3順位である兄弟姉妹(あなたのお父様やお母様など)に相続権が回ってきた、という状況が考えられます。

親が亡くなっているとなぜ?「代襲相続」とは

「なるほど、相続権は第3順位の兄弟姉妹にあるのか。でも、私の親はもう亡くなっているのに…」
ここでもう一つ、重要な「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」という仕組みが登場します。

これは、本来相続人となるはずだった人(この場合は、あなたのお父様やお母様)が、相続が始まる前に亡くなっていた場合に、その子どもが代わりに相続権を引き継ぐという制度です。つまり、あなたのお父様(お母様)が受け取るはずだった相続人としての立場を、あなたがそのまま引き継ぐ形になった、ということです。これが、甥・姪であるあなたが相続人になった理由です。

あなたの相続放棄の期限はいつから?起算点の3パターン

さて、ここからが本題です。相続放棄の手続きは、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に行わなければなりません。この3ヶ月の期間を「熟慮期間」といい、この期間のスタート地点を「起算点」と呼びます。

重要なのは、この「知った時」というのが、単に「叔父・叔母が亡くなった日」ではないということです。具体的には、以下の2つの事実を両方とも知った時点が、あなたの起算点となります。

  1. 叔父(叔母)が亡くなったという事実
  2. その結果、自分が相続人になったという事実

甥・姪の方が相続人になるケースは、この起算点がいつになるのか分かりにくいことが非常に多いです。ご自身の状況がどれに当てはまるか、確認してみましょう。

原則:「自分が相続人だと知った時」から3ヶ月

法律(民法915条1項)で定められている、熟慮期間の起算点の基本は、前述のとおり「自分が相続人になったことを知った時」です。疎遠であった叔父・叔母の相続では、亡くなった事実さえしばらく知らないケースも少なくありません。そのため、死亡日から3ヶ月が過ぎていても、慌てる必要はないのです。

ケース1:役所や債権者からの通知で初めて知った場合

甥・姪の方にとって、最も多いのがこのパターンではないでしょうか。ある日突然、金融機関や役所、債権回収会社などから督促状や照会書が届き、そこで初めて叔父・叔母が亡くなったこと、そして借金を残しており自分が相続人になっていることを知るケースです。

この場合、起算点は「その通知などにより、叔父・叔母の死亡と、自分が相続人であることを知った時」となるのが一般的です。3ヶ月のカウントは、その日からスタートします。届いた通知書は、起算日の重要な証拠となりますので、絶対に捨てずに保管しておきましょう。

突然届いた叔父の相続に関する通知書を読み、驚きと不安を隠せないでいる女性。相続放棄の起算点となる瞬間を表している。

ケース2:他の親族(いとこ等)からの連絡で知った場合

叔父・叔母の子ども(いとこ)など、他の親族から「父(母)が亡くなり、私(たち)は相続放棄をしました。そのため、あなたが相続人になります」といった連絡を受けるケースもあります。

この場合、起算点は「その連絡などにより、叔父・叔母の死亡と、自分が相続人であることを知った時」となるのが一般的です。具体的には、そのいとこから相続放棄をした旨の通知のあった日が起算点となります。したがって、電話などの口頭での連絡だった場合は、後々のトラブルを防ぐためにも、いつ、誰から、どのような内容の連絡があったのかを、必ずメモに残しておくようにしましょう。そして、自分が相続放棄をする際の裁判所に提出する書類にもなる為、いとこが裁判所から受け取った「相続放棄申述受理通知書の写し」も貰っておきましょう。

ケース3:先順位の相続人がいると思っていた場合

叔父・叔母に子ども(いとこ)がいることは知っていたので、当然自分は相続人ではないと思っていた。しかし、後になって、その子どもたちが全員相続放棄を済ませていたことを知った、という複雑なケースもあります。

この場合の起算点は、「先順位の相続人が相続しない結果として、自分が相続人となったことを知った時」となるのが一般的です。先順位の相続人がいることを知っているだけでは、まだ熟慮期間は始まりません。その人たちが誰も相続しなかった結果、自分に順番が回ってきたと知った日がスタートになるのです。

参照:相続の承認又は放棄の期間の伸長 | 裁判所

期限内に相続放棄を判断するための2つのステップ

ご自身の起算点がいつになるか、おおよそ見当がついたでしょうか。次に、3ヶ月という限られた時間の中で、的確に判断・行動するために必要な2つのステップをご紹介します。特に疎遠だった親族の場合、これらは同時並行で、できるだけ早く始めることが重要です

ステップ1:財産調査|プラスとマイナスの財産を把握する

相続放棄をするかどうか決めるには、まず叔父・叔母がどのような財産を残したのかを把握する必要があります。財産には、預貯金や不動産といった「プラスの財産」だけでなく、借金やローンといった「マイナスの財産」も含まれます。

特に重要なのが、マイナスの財産の調査です。心当たりのある金融機関がないか、故人の自宅に契約書や督促状などが残されていないか確認しましょう。また、信用情報機関に情報開示請求を行うことで、故人の借入状況を調べることができます。詳しい故人の借金調査の方法については、別の記事で詳しく解説しています。

ステップ2:必要書類の収集|戸籍集めは時間がかかる

相続放棄は、家庭裁判所に「相続放棄の申述」という手続きを行う必要があり、そのためには多くの書類を集めなければなりません。特に大変なのが、戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)の収集です。

甥・姪が相続放棄をする場合、単にご自身の戸籍謄本だけでは足りません。なぜ自分が相続人になったのかを証明するために、

  • 亡くなった叔父・叔母の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
  • 本来の相続人(あなたのお父様・お母様)の死亡が記載された戸籍謄本
  • 先順位である第1順位・第2順位の相続人がいないことを証明するための戸籍謄本

など、膨大な量の戸籍が必要になるケースがほとんどです。本籍地が各地に点在していることも多く、郵送での取り寄せには数週間かかることも珍しくありません。財産調査と並行して、できるだけ早く戸籍の収集に着手することをお勧めします。

もし期限に間に合わない・過ぎてしまったら?

「財産調査が終わらない」「戸籍がなかなか集まらない」…3ヶ月という期間は、意外とあっという間に過ぎてしまいます。もし期限に間に合いそうにない場合や、すでに過ぎてしまった場合でも、まだ打つ手は残されています。

まだ間に合う!「熟慮期間の伸長(延長)」という選択肢

どうしても3ヶ月以内に相続放棄の判断ができない正当な理由がある場合には、家庭裁判所に「熟慮期間伸長の申立て」を行うことで、期間を延長してもらえる可能性があります。

例えば、以下のような理由が考えられます。

  • 相続財産の種類が多く、評価や調査に時間がかかっている
  • 相続人が多数おり、連絡や調整に時間がかかっている
  • 海外に住んでいるため、書類の取り寄せに時間がかかる

ただし、この申立ては3ヶ月の熟慮期間が過ぎる前に行う必要があります。「間に合わないかも」と感じたら、すぐにこの手続きを検討しましょう。

期限切れでも諦めないで!3ヶ月経過後の相続放棄

原則として、熟慮期間(3ヶ月)を経過すると相続を承認した(単純承認)とみなされ、相続放棄は認められにくくなります。しかし、例外的に期限後でも相続放棄が認められるケースがあります。

それは、「相続財産が全くないと信じるに相当な理由があった」と裁判所に認めてもらえた場合です。例えば、「長年音信不通で、叔父に借金があるとは夢にも思わなかったのに、死亡から1年後に突然、債権者から多額の請求書が届いた」といったケースが考えられます。ただし、これが認められるハードルは非常に高く、専門的な主張が必要不可欠です。もし期限後の相続放棄を検討されているのであれば、すぐに専門家へ相談することをお勧めします。

甥・姪の相続放棄でよくある質問

ここでは、甥・姪という立場の方から特によくいただくご質問にお答えします。

Q. 叔父・叔母に子供(いとこ)がいる場合でも相続放棄は必要?

A. 必要になる可能性があります。

叔父様・叔母様にお子さん(あなたから見たいとこ)がいる場合、その方が第1順位の相続人です。しかし、そのいとこが相続放棄をした場合、相続権は次の順位に移ります。もし第2順位の相続人(祖父母など)もいなければ、第3順位である兄弟姉妹、そして代襲相続により甥・姪であるあなたに相続権が回ってくることになります。

叔父様・叔母様にお子さんがいるからといって、必ずしも安心はできません。いとこから「相続放棄をした」という連絡が来たときは、それがあなたの熟慮期間のスタートになる可能性があることを覚えておいてください。

Q. 相続放棄したら、自分の子供に借金は引き継がれる?

A. いいえ、引き継がれません。

ご自身が相続放棄をすると、法律上「初めから相続人ではなかった」とみなされます。そのため、あなたのお子さん(叔父・叔母から見れば大甥・大姪)に相続権がさらに移る(再代襲する)ことはありません。ご自身の代で借金の連鎖を断ち切ることができますので、ご安心ください。

Q. 相続放棄の手続き費用はどのくらいかかりますか?

A. ご自身で行う場合、実費として数千円程度かかります。

家庭裁判所に納める収入印紙(申述人1人につき800円)や、連絡用の郵便切手(裁判所により必要額が異なります)、そして戸籍謄本などの取得費用が必要です。戸籍の取得費用は、集める通数によって変動しますが、数千円から1万円程度になることもあります。
司法書士に依頼する場合は、これに加えて報酬が必要となります。当事務所の相続放棄のサポートでは、複雑な戸籍収集の支援から申述書類の作成・提出手続のサポートまで、一括して対応可能です。費用や手続きの詳細は、お気軽にお問い合わせください。

手続きが複雑で不安なときは、専門家への相談も検討しましょう

ここまで、叔父・叔母の相続人となった甥・姪の方の相続放棄について解説してきました。ご自身の状況と、これから何をすべきかが見えてきたでしょうか。

甥・姪の方が相続人となるケースは、

  • 疎遠で財産状況が全く分からない
  • 集めるべき戸籍謄本が非常に多く、複雑になる
  • 起算点の判断が難しい

など、ご自身で手続きを進めるにはハードルが高い場合が少なくありません。特に、熟慮期間の期限が迫っている場合や、債権者から督促を受けているような状況では、精神的なご負担も大きいことでしょう。

もし少しでも手続きに不安を感じたり、ご自身で進めるのが難しいと感じたりしたときには、私たち司法書士のような専門家を頼ることも一つの大切な選択肢です。相続に関するお悩みは、一人で抱え込まず、ぜひ一度ご相談ください。

相続放棄に関するご相談や手続きのご依頼は、下記よりお気軽にお問い合わせいただけます。

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連絡が取れない相続人との遺産分割|司法書士が解決策を解説

2025-12-23

「連絡が取れない相続人」にお困りではありませんか?

「亡くなった親の遺産について、他の相続人と話し合いたいのに、一人だけどうしても連絡が取れない…」「昔から疎遠だった兄弟に手紙を送っても、返事すらもらえず無視されている」「相続人の一人がどこで何をしているのか、全くわからない」

大切なご家族を亡くされた悲しみの中、遺産分割という大きな手続きを進めなければならないだけでも大変な負担です。それに加えて、一部の相続人と連絡が取れない、あるいは協力を拒否されるといった事態に直面すると、途方に暮れ、お一人で抱え込んでしまう方も少なくありません。

しかし、ご安心ください。このような状況は、決して珍しいことではありません。そして、法律には、このような困難な状況を乗り越えるための正式な手続きがきちんと用意されています。

この記事では、相続手続きを専門とする司法書士が、連絡が取れない相続人がいる場合の遺産分割について、状況別の具体的な解決策を分かりやすく解説します。読み終える頃には、ご自身の状況で次に何をすべきかが明確になり、問題解決への第一歩を踏み出せるはずです。

大原則:相続人全員の参加なくして遺産分割協議はできない

まず、相続手続きにおける最も重要な大原則からお伝えします。それは、遺産分割協議は、必ず相続人全員の参加のもとで行わなければならないということです。

「面倒だから」「どうせ反対するだろうから」といった理由で、連絡が取れない相続人を除外して協議を進め、遺産分割協議書を作成しても、その協議は法的に無効となります。無効な協議書では、以下のような手続きが一切進められません。

  • 不動産の名義変更(相続登記)
  • 預貯金の解約・払い戻し
  • 株式などの有価証券の名義変更
  • (注意)相続税の申告は遺産分割が未了でも期限までに必要です(未分割として法定相続分等で申告し、分割後に更正の請求等で調整することがあります)。

つまり、連絡が取れない相続人を無視して手続きを進めようとすることは、時間と労力を無駄にするだけでなく、さらなるトラブルの原因になりかねません。遠回りに思えても、まずは法的なルールに則って、一人ひとりの相続人と向き合うことが、解決への最も確実な道筋となります。

(参考)遺産の管理と遺産分割に関する見直し

あなたの状況はどれ?3つのケース別・解決へのロードマップ

「相続人全員の参加が必要なのは分かったけれど、具体的にどうすれば…?」という疑問にお答えするため、ここからは状況を3つの典型的なケースに分けて、それぞれの解決策を解説します。ご自身の状況がどれに当てはまるかを確認し、読み進めてみてください。

連絡が取れない相続人がいる場合の3つのケース(連絡先不明、無視・拒否、行方不明)とそれぞれの解決策(住所調査、遺産分割調停、不在者財産管理人)を示した図解。

ケース1:疎遠で「連絡先がわからない」

過去に交流があったものの、現在は住所や電話番号がわからなくなってしまった、というケースです。この場合、まずはその相続人の現在の住民票上の住所を特定することから始めます。

もちろん、他の親族に心当たりを尋ねてみるのも一つの方法ですが、一般的には、戸籍や戸籍の附票等を確認して住所情報をたどる方法が有力です(状況により特定できない場合もあります)。

具体的には、まず亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等を取得し、相続人を確定させます。その後、連絡を取りたい相続人の戸籍謄本を取得し、さらにその戸籍に紐づく「戸籍の附票(ふひょう)」という書類を取得します。戸籍の附票には住所の履歴が記載されているため、手掛かりとして現住所の確認につながることがあります(状況により特定できない場合もあります)。

これらの戸籍収集はご自身でも可能ですが、複数の役所を跨ぐことも多く、非常に手間と時間がかかります。司法書士が受任し、正当な業務目的・必要性が認められる範囲で、職務上請求により戸籍等の収集を行い、住所情報の調査を進めることが可能です(取得可否・特定可否は事情により異なります)。

ケース2:連絡は取れるが「無視・拒否される」

住所はわかっており、手紙を送るなど連絡はできるものの、返信がない、あるいは明確に遺産分割協議への参加を拒否されている、というケースです。これは、当事者間の感情的な対立も絡むことが多く、精神的なご負担が最も大きい状況かもしれません。

このような場合、感情的に何度も連絡を取ろうとすると、かえって相手の態度を硬化させてしまう可能性があります。そこで有効となるのが、家庭裁判所を利用した「遺産分割調停」という手続きです。

遺産分割調停とは、裁判官と民間の有識者からなる調停委員が間に入り、相続人全員から公平に話を聞きながら、話し合いによる円満な解決を目指す手続きです。当事者同士では冷静な対話が難しくても、中立的な第三者が関わることで、お互いが譲歩し、合意に至るケースは少なくありません。詳しくは遺産分割調停 | 裁判所のウェブサイトもご参照ください。

もし調停でも話がまとまらない場合は、自動的に「遺産分割審判」という手続きに移行し、裁判官が一切の事情を考慮して、遺産の分け方を法的に決定します。これにより、相手の協力が得られなくても、遺産分割を最終的に確定させることが可能です。

ケース3:生死も不明で「完全に行方不明」

住所調査をしても見つからず、長年にわたって音信不通で、生きているかどうかさえ定かではない、というケースです。この場合は、行方不明の相続人に代わって遺産分割協議に参加する代理人を選任する必要があります。

そのための手続きが、家庭裁判所への「不在者財産管理人」の選任申立てです。不在者財産管理人とは、行方不明者の財産を管理し、家庭裁判所の許可を得て、その人に代わって遺産分割協議などの法律行為を行う権限を持つ人のことです。詳しくは不在者財産管理人選任 | 裁判所のウェブサイトもご参照ください。

この不在者財産管理人が選任されれば、その人が行方不明の相続人の代理人として遺産分割協議に参加するため、手続きを進めることができます。不在者財産管理人は不在者の利益を害しないように財産を管理・保存し、家庭裁判所の許可を得て遺産分割等に関与します。分割方法や管理の扱いは、事情と裁判所の判断により異なります。

なお、行方不明になってから7年以上が経過している場合は、「失踪宣告」の申立てという選択肢もあります。失踪宣告が認められると、その人は法律上死亡したとみなされ、遺産分割協議に参加する必要がなくなります。どちらの手続きが適切かは、状況によって異なりますので、専門家への相談をおすすめします。

司法書士があなたの「次の一歩」を具体的にサポートします

司法書士が相談者の悩みに耳を傾け、丁寧に解決策を説明している相談風景。

ここまで読んで、「手続きが複雑で自分だけでは難しそう…」と感じられたかもしれません。まさに、このような複雑な相続問題こそ、私たち司法書士が専門家としてお力になれる場面です。

えなみ司法書士事務所では、横浜市・川崎市を中心に、相続でお困りの方々へ「ご安心」をお届けすることを第一に考えております。初回のご相談は無料ですので、まずはお気軽にお話をお聞かせください。

相続人調査から裁判所への書類作成まで一括サポート

連絡が取れない相続人がいる場合の手続きは、多岐にわたります。当事務所にご依頼いただければ、以下のような煩雑な手続きをまとめて代行し、皆様のご負担を大幅に軽減いたします。

  • 戸籍謄本等の収集による相続人調査・確定
  • 正確な相続関係説明図の作成
  • 他の相続人への連絡文書の作成・発送、手続案内の窓口(紛争性のある交渉・代理は事案により弁護士対応となります)
  • 遺産分割調停の申立書作成
  • 不在者財産管理人選任の申立書作成
  • 遺産分割協議書の作成
  • 不動産の相続登記(名義変更)

これらの手続きには、専門的な知識と正確性が求められます。一つ一つのステップを、専門家である司法書士が責任を持ってサポートいたします。

相手の感情に配慮した円満な解決を目指すアプローチ

当事務所が大切にしているのは、単なる手続きの代行ではありません。可能な限り、円満な解決を目指すためのアプローチです。

特に、連絡を無視・拒否している相続人に対しては、いきなり法的な手続きを進めるのではなく、まずは司法書士という第三者の専門家から、丁寧な手紙をお送りすることを検討することがあります。

ご親族からの連絡には感情的に反応してしまう方でも、司法書士からの連絡により、事情によっては相手方が状況を整理し、話合いに応じるきっかけになる場合があります。実際に、私が司法書士としてお手紙を作成し、送付したことで、それまで全く返事がなかった方から連絡があり、無事に協議がまとまったという経験は少なくありません。

高圧的な態度ではなく、相手の感情にも配慮しながら、粘り強く対話の糸口を探っていく。それもまた、私たち専門家の重要な役割だと考えています。

もし、どのように連絡を取ればよいか、何から手をつければよいか分からずお困りでしたら、ぜひ一度当事務所にご相談ください。平日はもちろん、土日祝日も21時まで対応しており、ご自宅などへの無料訪問面談も実施しております。まずは無料相談でお話をお聞かせください

まとめ:一人で悩まず、まずは専門家にご相談ください

遺産分割協議を進める中で、一部の相続人と連絡が取れないという問題は、精神的にも時間的にも大きな負担となります。しかし、この記事で解説したように、法的な手続きを踏むことで、解決に向けて前進できる可能性があります。

重要なポイントを振り返ります。

  • 遺産分割協議は、相続人全員の参加が絶対条件です。
  • 状況に応じて、「住所調査」「遺産分割調停」「不在者財産管理人選任」といった適切な手続きを選択する必要があります。
  • これらの複雑な手続きは、専門家である司法書士に任せることで、スムーズかつ確実に進めることができます。

最も大切なことは、この問題を一人で抱え込まないことです。不安な気持ちのまま時間だけが過ぎてしまうと、相続税の申告期限などの問題も生じかねません。

えなみ司法書士事務所は、いつでも相談できる、皆様に一番近い法律の専門家でありたいと願っています。最初の一歩を踏み出すお手伝いをさせていただきますので、どうぞお気軽にご連絡ください。

成年後見人を選ぶべき?専門家が判断基準と代替策を解説

2025-12-21

ご家族のことでお悩みではありませんか?成年後見制度の判断は慎重に

※本記事は、えなみ司法書士事務所による成年後見等に関する情報提供(広告・PRを含みます)です。制度の適用可否は個別事情で異なるため、詳細は専門家・関係機関へご確認ください。

「最近、親の物忘れがひどくて心配…」「銀行窓口で、本人でないと預金が引き出せないと言われてしまった」「介護施設に入所したいのに、契約手続きが本人でないと進められない」

大切なご家族の判断能力に不安を感じ始めると、このような切実な問題に直面することがあります。どうすればいいのか分からず、インターネットで調べて「成年後見制度」という言葉にたどり着いた方も多いのではないでしょうか。

しかし、制度について調べれば調べるほど、「一度始めるとやめられない」「費用がかかり続ける」「財産の使い道が制限される」といったデメリットばかりが目につき、かえって不安が大きくなってしまう…。そんな悪循環に陥っていませんか?

この記事は、まさにそのようなお悩みと不安を抱えるあなたのために書きました。成年後見制度は、ご家族の財産と生活を守るための強力な仕組みですが、万能ではありません。ご家庭の状況によっては、別の方法が最適な選択となることもあります。

この記事を最後までお読みいただければ、成年後見制度を利用すべきかどうかの判断基準が明確になり、あなたのご家族にとって最善の選択肢は何か、その道しるべを見つけることができるはずです。

まずは現状を整理しよう-成年後見制度を検討するかの判断基準

成年後見制度を検討する最初のステップは、「ご自身の家族が今、どのような状況にあるのか」を客観的に把握することです。感情的になったり、焦ったりする気持ちは一旦横に置いて、以下のチェックリストで現状を整理してみましょう

【セルフチェック】成年後見人の選任が必要な可能性が高いケース

以下の項目に一つでも当てはまる場合、成年後見制度の利用を積極的に検討する必要があるかもしれません。これらの状況は、放置してしまうとご家族が経済的な不利益を被ったり、生活に支障が出たりする可能性が高いからです。

  • 預貯金が凍結され、医療費や介護費の支払いに困っている
    金融機関は、口座名義人の判断能力低下を把握すると、詐欺被害などを防ぐために口座を凍結することがあります。こうなると、たとえ家族であっても預金を引き出すことはできません。成年後見人には、ご本人に代わって預貯金の管理や払い戻しを行う法的な権限(代理権)があるため、この問題を解決できます。
  • 不要な高額商品を繰り返し購入してしまうなど、悪質な訪問販売の被害にあっている
    判断能力が不十分な状態で行った契約は、後から取り消せる場合があります。成年後見制度では、本人の判断能力が不十分な状態で行った契約について、後見人が取消しを主張できる場合があります(取消権)。※契約類型によっては、成年後見制度以外にも取消し・解除が認められる制度があります。
  • ご本人が所有する不動産の売却や、施設の入所契約を進めたい
    不動産の売買契約や、介護施設の入所契約といった重要な法律行為は、ご本人の明確な意思確認ができないと進めることができません。成年後見人がいれば、ご本人に代わってこれらの契約手続きを法的に有効に進めることが可能になります。
  • 相続が発生したが、相続人の一人であるご本人の意思確認ができず、遺産分割協議が進まない
    遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要です。相続人の一人に判断能力が不十分な方がいる場合、その方が署名・押印した協議書は法的に無効となる可能性があります。この場合、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立て、後見人がご本人に代わって協議に参加する必要があります。

【要注意】選任を慎重に検討すべき・不要かもしれないケース

一方で、以下のようなケースでは、成年後見制度の利用が必ずしも最適な解決策とは限りません。制度の厳格さが、かえってご家族の希望を妨げてしまう可能性もあるため、慎重な検討が必要です。

  • 財産が公的年金と、日常生活費程度の預貯金のみである
    ご本人の財産が少なく、日々の金銭管理をご家族が問題なく行えている場合、費用や手間をかけてまで後見制度を利用する実益は小さいかもしれません。
  • 将来の相続税対策として、生前贈与や不動産の有効活用を考えている
    成年後見制度の第一目的は「ご本人の財産を厳格に保護すること」です。そのため、相続税対策のための生前贈与や、収益化を目的とした積極的な資産運用(アパート建築など)は、ご本人の財産を減らす行為とみなされ、家庭裁判所から許可されない可能性が非常に高いです。
  • ご家族の間で、財産の管理方針について意見が対立している
    「施設に入所させたい」「いや、在宅で介護すべきだ」など、ご家族の間で意見が割れている場合、後見人の選任申立てが親族間の対立をさらに深めてしまうことがあります。また、家庭裁判所が親族間の対立を懸念し、候補者として挙げた親族ではなく、中立的な立場の専門家(司法書士や弁護士)を後見人に選任するケースも少なくありません。

成年後見制度のメリットと、知っておくべき6つのデメリット

制度を利用するかどうかを最終的に判断するためには、メリットとデメリットの両方を正しく理解しておくことが不可欠です。ここでは、それぞれの側面を詳しく見ていきましょう。

メリット:大切な家族の財産と生活を守るための強力な仕組み

成年後見制度の最大のメリットは、法律に基づいた強力な権限によって、ご本人の財産と生活を包括的に守れる点にあります。

  1. 確実な財産管理と保全
    後見人は、預貯金の管理、不動産の管理、年金の受領などを一括して行います。すべての収支は家庭裁判所に報告する義務があるため、透明性が高く、財産の不正利用を防ぐことができます。
  2. 不利益な契約からの保護(取消権)
    前述の通り、ご本人が悪徳商法などで結んでしまった不利益な契約を、後から取り消すことができます。成年後見制度では、本人の判断能力が不十分な状態で行った契約について、後見人が取消しを主張できる場合があります(取消権)。※契約類型によっては、成年後見制度以外にも取消し・解除が認められる制度があります。
  3. 必要な契約手続きの代行(代理権)
    介護サービスの利用契約、入院手続き、要介護認定の申請など、ご本人の生活に必要な様々な手続きをスムーズに進めることができます。これにより、ご家族の負担も大きく軽減されます。

デメリット:知らずに始めると後悔する6つの注意点

一方で、成年後見制度には知っておかなければならない注意点も多く存在します。これらは制度の目的が「本人の財産保護」を最優先に設計されているために生じるものです。

  1. 継続的な費用がかかる
    申立て時に数万円程度の実費がかかるほか、司法書士などの専門家が後見人に選任された場合、家庭裁判所が事務内容や財産額等を踏まえて報酬を決定し、本人財産から支払われます(目安として月額2万~6万円程度とされることがあります)。親族後見では報酬を申立てない(結果として0円となる)場合もあります。支払いは、後見が終了するまで(多くは本人死亡までですが、判断能力の回復等で終了する場合もあります)継続します。
  2. 申立ての手続きに手間と時間がかかる
    申立てには、戸籍謄本や財産目録、診断書など多くの書類が必要です。申立てから後見が開始されるまで、一般的に2~3ヶ月程度の時間がかかります。
  3. 財産の柔軟な活用ができない
    相続税対策の生前贈与や、株式投資、収益不動産の購入といった積極的な資産活用は、本人の財産を減らすリスクがあるため、原則として認められません。
  4. 親族が後見人になれるとは限らない
    申立ての際に親族を後見人の候補者として希望しても、財産額が大きい場合や親族間に争いがある場合などは、家庭裁判所の判断で中立的な専門家が選任されることがあります。
  5. 一度始めると、原則として途中でやめられない
    成年後見制度は、ご本人の判断能力が回復しない限り、ご本人が亡くなるまで続きます。「財産活用のために一時的にやめたい」といったことは認められません。
  6. 家庭裁判所への報告義務など、負担が大きい
    親族が後見人になった場合でも、定期的に家庭裁判所へ財産目録や収支状況を報告する義務があり、事務的な負担は決して軽くありません。

成年後見制度を使わないという選択肢|家族信託・任意後見という代替策

「成年後見制度は、うちのケースには合わないかもしれない…」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。ご安心ください。ご本人の判断能力がまだしっかりしているうちであれば、他の選択肢を検討することが可能です。ここでは代表的な2つの代替策をご紹介します。

成年後見制度の代替策である家族信託と任意後見制度を比較する図解

柔軟な財産管理・承継を実現する「家族信託」

家族信託とは、ご本人が元気なうちに、信頼できるご家族(受託者)に財産の管理や処分を託す契約のことです。成年後見制度のデメリットである「財産の柔軟な活用ができない」点をカバーできるのが大きな特徴です。

  • 特徴:契約内容をオーダーメイドで自由に設計できます。例えば、「アパート経営を長男に任せる」「自宅を売却して、その資金で施設費用を支払う」「自分が亡くなった後は、財産を妻に、妻が亡くなった後は孫に渡す」といった、資産の活用から承継までを指定できます。
  • 注意点:あくまで財産管理の仕組みであり、成年後見人のような「取消権」はありません。また、契約を結ぶためには、ご本人に十分な判断能力があることが大前提となります。

将来の後見人を自分で決めておく「任意後見制度」

任意後見制度とは、ご本人が元気なうちに、将来自分の判断能力が低下したときに備えて、あらかじめ後見人になってもらう人(任意後見人)と、その人に任せる仕事の内容を公正証書で決めておく制度です。

  • 特徴:法定後見と違い、「誰に」「何を」お願いするかを自分で決められるのが最大のメリットです。信頼できるご家族や専門家を、ご自身の意思で将来の後見人として指名できます。
  • 注意点:実際に効力が発生するのは、ご本人の判断能力が低下し、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任してからです。任意後見監督人(多くは司法書士などの専門家)への報酬が継続的に発生します。

【比較表】成年後見・任意後見・家族信託、あなたに合うのは?

ここまでご紹介した3つの制度について、それぞれの特徴を一覧表にまとめました。ご自身の状況と照らし合わせて、どの方法が最も適しているか検討する際の参考にしてください。

法定後見任意後見家族信託
開始時期判断能力の低下後判断能力があるうち(契約時)判断能力があるうち(契約時)
目的本人の財産保護・身上監護本人の意思に基づいた財産管理・身上監護柔軟な財産管理・承継
財産管理の柔軟性低い(厳格な保護)契約の範囲内高い(契約次第)
身上監護可能可能不可
取消権ありなしなし
裁判所の関与常に関与(監督)関与(監督人の選任・監督)原則なし
費用申立費用+継続的な専門家報酬契約費用+継続的な監督人報酬契約費用(初期費用が中心)
成年後見・任意後見・家族信託の比較

どの選択をすべきか迷ったら、司法書士へご相談ください

ここまで、成年後見制度の判断基準や代替策について解説してきましたが、「うちの家族の場合は、結局どれが一番いいのだろう…」と、さらに迷いが深まってしまった方もいらっしゃるかもしれません。それも当然のことです。ご家族の状況は一つとして同じものはなく、最適な解決策もそれぞれ異なります。

そんな時こそ、私たち司法書士のような専門家にご相談ください。専門家にご相談いただくことで、以下のようなメリットがあります。

  • 現状の法的な問題点が明確になる
    お話を伺うことで、ご家族が抱える問題の本質を法的な観点から整理し、今何をすべきかを明確にします。
  • ご家族の状況に合った最適な解決策の提案が受けられる
    成年後見制度、家族信託、任意後見など、様々な選択肢の中から、ご家族のご希望や財産状況に最も合ったプランをご提案します。
  • 複雑な手続きを安心して任せられる
    どの手続きを選択するにしても、専門的な書類の作成や役所とのやり取りが必要です。必要書類の作成支援や申立て準備、関係機関とのやり取り等をサポートすることで、ご家族の精神的・時間的負担の軽減につながります(※手続の性質上、ご本人・ご家族にご準備・ご協力いただく事項があります)。

えなみ司法書士事務所では、ご自宅などご指定の場所への無料訪問相談(横浜市・川崎市内に限る/要予約)を実施しております。また、お仕事でお忙しい方でもご相談いただきやすいよう、平日・土日祝日問わず21時まで対応しております。

一人で抱え込まず、まずはお話をお聞かせください。あなたとご家族が安心して未来へ進むための一歩を、私たちが全力でサポートいたします。

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海外在住の相続人がいる相続登記|署名証明書・在留証明書などの特別な必要書類

2025-12-20

相続人に海外在住者が…手続きが進まずお困りではありませんか?

ご親族が亡くなられ、相続手続きを進める中で「相続人の一人が海外に住んでいる」という状況に直面し、途方に暮れてはいませんか?

  • 海外にいる相続人と連絡は取れるが、必要書類が日本と違うため、何をどう準備してもらえば良いのかわからない。
  • 「署名証明書(サイン証明書)」や「在留証明書」といった聞き慣れない書類が必要と言われたが、どこで取得できるのか、種類があるのかも不明確だ。
  • 手続きが滞ってしまい、不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約が進まず、焦りを感じている。

このようなお悩みは、決して珍しいことではありません。国際化が進んだ現代において、海外在住の相続人がいらっしゃるケースは年々増加しています。

この記事では、海外在住の相続人が関わる相続登記手続きに焦点を当て、特に手続きの要となる「署名証明書」「在留証明書」について、司法書士が専門家の視点から分かりやすく解説します。

本記事をお読みいただくことで、主な手続きの全体像や初めに取るべき対応が分かるように努めました。個別事案については、詳細な確認が必要ですので、必要に応じて専門家にご相談ください。

海外在住の相続手続き、基本の必要書類はこの2つ

海外在住の相続手続きで必要となる署名証明書と在留証明書のイメージ。

海外にお住まいの場合、日本国内のように市区町村役場で印鑑登録をしたり、住民票を取得したりすることはできません。そのため、相続手続き、特に不動産の名義変更(相続登記)とくにその際必要となる遺産分割協議書(特殊な場合は上申書)においては、それらに代わる公的な証明書が必要となります。まずは、基本となる2つの書類の役割を理解しましょう。

印鑑証明書の代わり「署名証明書(サイン証明書)」とは

署名証明書(サイン証明書)とは、「本人が書類に署名(サイン)したことを証明する」ための公的な書類です。日本では遺産分割協議書などの重要書類に実印を押し、印鑑証明書を添付しますが、海外では印鑑登録の制度がありません。そこで、実印と印鑑証明書の代わりに、本人の署名(サイン)とその署名が本人のものであることを証明する署名証明書が用いられます。署名証明書は通常、在外公館(大使館・領事館)が発行しますが、居住国の公証人等が発行する署名証明書も、不動産登記手続の添付書面として代替が認められる場合があります(法務省案内)。提出先の法務局の確認を推奨します。

この証明書は、お住まいの国にある日本の大使館や領事館(在外公館)で、領事の目の前で本人が署名することによって発行されます。遺産分割協議の内容に相続人本人が同意したことを公的に証明する、非常に重要な役割を担っています。

住民票の代わり「在留証明書」とは

在留証明書とは、「海外のどこに住所を定めて住んでいるかを証明する」ための書類で、日本の住民票に相当するものです。在留証明は在外公館で取得できますが、発行要件や記載様式、当日交付の可否等は公館により異なります。提出先(法務局や金融機関)で必要な記載事項を事前に確認し、該当在外公館の発行要領を確認してください。

特に、不動産を相続して新しい登記名義人になる場合、登記簿に新しい所有者の住所・氏名を記載する必要があるため、この在留証明書が住所を証明する書類として必須となります。

【重要】署名証明書は2種類!登記で原則必要なのはどっち?

ここで非常に重要なポイントがあります。実は、署名証明書には2つのタイプが存在し、どちらを取得するかによって、手続きがスムーズに進むか、あるいは法務局で受理されずやり直しになるかが決まってしまう可能性があるのです。その違いをしっかり理解しておきましょう。

署名証明書の「貼付型(合綴型)」と「単独型」の違いを比較する図解。

原則はこれ!遺産分割協議書と一体化させる「貼付型(合綴型)」

貼付型(がちょうがた)、または合綴型(がってつがた)と呼ばれるこのタイプは、海外在住の相続人が署名した遺産分割協議書そのものに、証明書を貼付して、一体化させる形式のものです。

実務上、不動産の相続登記では遺産分割協議書と証明書が一体化している(貼付・契印された)形態が望まれる場合が多く、貼付(合綴)形式を求められることがあります。最終的な可否は提出先の登記所(法務局)にご確認ください。

金融機関手続きで使う「単独型」

単独型とは、日本の印鑑証明書のように、「本人の署名(サイン)である」ということだけを単独で証明する形式の証明書です。特定の書類とは一体化されておらず、A4用紙1枚で発行されます。

この形式は、預貯金の解約など金融機関での手続きでは広く利用されています。複数の金融機関で手続きが必要な場合など、使い勝手が良いというメリットがあります。しかし、前述の通り、不動産登記においては遺産分割協議書との一体性が証明できないため、原則として認められにくいのが実情です。安易に単独型を取得してしまうと、登記申請の際に問題となる可能性があるため、注意が必要です。

相続登記で「上申書」が必要になるケースとは?

ここからは、さらに専門的な内容に踏み込みます。相続登記の手続きでは、通常は戸籍謄本や住民票、遺産分割協議書といった公的な書類で権利関係を証明していきます。しかし、時にはこれらの書類だけでは証明が不十分なケースが存在します。その際に登場するのが「上申書(じょうしんしょ)」です。

上申書とは、公的な証明書が不足している場合に、その事情を説明し、「間違いなく事実に相違ありません」と相続人全員で法務局(登記官)に申し立てるための書類です。海外在住の相続人が関わるケースでも、この上申書が必要になることがあります。

登記簿上の古い住所と最終住所が繋がらないことを示す書類のイメージ。

登記簿の住所と最終住所が繋がらない…そんな時に

上申書が必要になる最も典型的な例が、亡くなられた方(被相続人)の登記簿上の住所と、死亡時の最終住所が、公的な書類(住民票の除票や戸籍の附票など)で繋がらず、で権利証も紛失したケースです。

例えば、何十年も前に不動産を購入し、その後何度か引っ越しをしたものの、住所変更の登記をしないまま亡くなられた場合、登記簿には古い住所が記載されたままです。役所で取得できる書類だけでは、登記簿上の人物と亡くなった方が同一人物であることを証明できない状態になってしまうのです。

このような場合に、「登記簿に記載されているAという人物と、今回亡くなったBは、住所の変遷は追えませんが間違いなく同一人物です」ということを、相続人全員で申し立てるために上申書を作成します。    尚、住所等の変更登記は2026年4月1日から義務化され、義務化に伴う施策(スマート変更登記等)により、登記簿上の住所と死亡時住所が不整合となるケースの解消が図られる見込みです(法務省・政府広報)。関連情報として「検索用情報の申出とは?住所変更登記義務化の負担を軽くする新制度」もご参照ください。

上申書に添付する必要書類と記載内容のポイント

海外在住の相続人を含む相続人全員で上申書を作成する場合、以下の点がポイントとなります。

  • 署名と証明書:上申書には相続人全員が署名します。日本在住の相続人は実印を押し、印鑑証明書を添付します。海外在住の相続人は署名(サイン)をし、署名証明書を添付します。場合によっては、上申書に添付する署名証明として単独型が受理されることがありますが、最終的な可否は当該管轄の法務局の判断によるため、事前に確認することをおすすめします。また、住所を証明するために在留証明書も必要です。
  • 記載内容:上申書には、①なぜ公的書類で住所の繋がりが証明できないのかという経緯、②他に証明できる公的な書類が存在しないこと、③登記簿上の名義人と被相続人が間違いなく同一人物であること、などを記載し、相続人全員でその内容を証明する旨を申し立てます。

【当事務所の取り扱い事例】単独型の署名証明書で相続登記が認められたケース

海外在住の相続人が関わる手続きは、原則通りに進まない複雑な事案が少なくありません。ここでは、当事務所が実際に取り扱い、専門的な対応によって無事に登記を完了できた事例をご紹介します。

専門家の視点:法務局との事前協議が鍵!上申書と追加書類で登記を完了

ご依頼いただいたのは、仮登記(本登記の順位を確保するために行われる仮の登記)の相続登記という、非常に専門的な案件でした。ご状況を伺うと、被相続人の登記簿上の住所と最終住所が一致しないうえ、不動産の権利証(登記識別情報)も見当たらないという、まさに上申書が必要となる典型的なケースでした。

さらに、相続人の一人が海外にお住まいのため、署名証明書を取得していただく必要があったのですが、原則として不動産登記では認められない「単独型」の署名証明書しかご用意いただけない状況でした。

 管轄の法務局の登記官と事前協議を開始し、貼付型が難しいのかという事情を丁寧に説明し、どうすれば登記官に「登記の真正性が担保できる」と判断してもらえるか、相談をしました。その結果、「不在籍・不在住証明書(その住所に本籍も住民登録もなかったことを証明する書類)」や「在留証明書」といった他の書類を追加で添付することを条件に、例外的に単独型の署名証明書で登記を受理してもらえるという内諾を得ることができました。その仮登記が古いものですぐに抹消する予定であった事情も対応に影響があったかもしれません。

この事例のように、原則論だけでは乗り越えられない壁に直面したとき、法律や実務の知識を基に法務局と的確な協議を行い、代替策を提示できるかどうかが、専門家の真価が問われる場面だと思います。

海外在住の相続手続きは司法書士への相談が安心です

ここまでご覧いただいたように、海外在住の相続人が関わる手続きは、必要書類の準備一つをとっても、国内での手続きとは異なる注意点が数多く存在します。特に、上申書が必要になるようなイレギュラーなケースでは、法務局との専門的な協議が不可欠となる場面も少なくありません。

ご自身で判断して書類を取得した結果、それが使えずに海外にいるご親族に再度書類取得をお願いするのは、時間的にも精神的にも大きな負担となります。

私たち司法書士は、相続手続きと登記の専門家です。どのような書類が必要か、どの種類の証明書を取得すべきかを的確に判断し、複雑な手続き全体をスムーズに代行することが可能です。

えなみ司法書士事務所(代表:司法書士 榎並慶太/神奈川県司法書士会所属 第2554号/所在地:〒220-0004 横浜市西区北幸1丁目11番1号 水信ビル7階)では、「いつでも相談できる、いつでも来てもらえる」をモットーに、横浜・川崎エリアを中心に、お客様のご自宅などへの無料訪問面談を実施しております。平日・土日祝日を問わず21時まで対応しておりますので、日中お忙しい方や、海外との時差がある方でも、ご都合の良い時間にご相談いただけます。

海外在住の相続人がいらっしゃる手続きでお困りの際は、一人で悩まず、まずは当事務所の無料相談をご利用ください。専門家が、あなたの状況に合わせた最適な解決策をご提案いたします。

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遺産分割3つの方法|現物・換価・代償分割を司法書士が比較解説

2025-12-09

遺産分割でお悩みですか?まずは3つの方法を知ることから始めましょう

「親が遺してくれた大切な財産、どうやって分ければいいのだろう…」
「兄弟と揉めることなく、みんなが納得できる方法はないかな…」

ご家族が亡くなられ、遺産分割について考え始めたとき、多くの方がこのような不安や疑問を抱えていらっしゃいます。特に、これまで相続を経験したことがない方にとっては、何から手をつけて良いのか分からず、途方に暮れてしまうのも無理はありません。

遺産分割は、単に財産を分けるという事務的な手続きではありません。ご家族それぞれの想いや今後の生活設計が関わる、非常にデリケートな話し合いです。

でも、ご安心ください。まずは、遺産分割の基本的な「3つの方法」を知ることから始めましょう。この記事では、私たち司法書士が実務で取り扱う代表的な3つの分割方法について、それぞれの特徴やメリット・デメリットを、できるだけやさしい言葉で解説していきます。

この記事を読み終える頃には、ご自身の状況にどの方法が合いそうか、その糸口が見つかるはずです。あなたとご家族が、円満な遺産分割への第一歩を踏み出すお手伝いができれば幸いです。

遺産分割の基本3つの方法|現物・換価・代償分割を比較

遺産分割には、大きく分けて「現物分割(げんぶつぶんかつ)」「換価分割(かんかぶんかつ)」「代償分割(だいしょうぶんかつ)」という3つの方法があります。どの方法が良い・悪いということはなく、遺産の内容や相続人の方々のご希望によって、最適な方法は異なります。それぞれの特徴を比較してみましょう。

遺産分割の3つの方法「現物分割」「換価分割」「代償分割」をアイコンと簡単な説明で比較した図解。
分割方法概要メリットデメリット
現物分割財産をそのままの形で分ける・手続きがシンプル・特定の財産を残せる・価値を完全に公平にするのが難しい・財産の種類が少ないと不公平感が出やすい
換価分割財産を売却し、現金で分ける・公平に分けやすい・誰も使わない財産を整理できる・売却の手間と費用がかかる・譲渡所得税がかかる可能性がある
代償分割一人が多く相続し、差額を他の相続人に現金で支払う・事業や家業を継ぐ場合に有効・特定の財産を分けずに維持できる・財産を相続する人に十分な資力が必要・不動産の評価額で揉めることがある
遺産分割3つの方法の比較表

①現物分割:財産をそのままの形で分ける最もシンプルな方法

現物分割とは、遺産をその物理的な形のまま、それぞれの相続人に分配する方法です。例えば、「実家の土地と建物は長男に、預貯金は次男に、有価証券は長女に」といった分け方がこれにあたります。

メリット
この方法の最大のメリットは、手続きが比較的シンプルであることです。財産を売却したり、金銭のやり取りをしたりする必要がないため、手間や費用を抑えやすい傾向にあります。

デメリット
一方で、それぞれの財産の価値が異なるため、法定相続分通りにぴったり公平に分けることが難しいというデメリットがあります。例えば、土地の価値が預貯金の額より大幅に高い場合、預貯金を受け取った相続人に不公平感が生まれる可能性があります。

また、一つの土地を複数の相続人で分ける「分筆」という方法もありますが、分筆によって土地の形が悪くなり価値が下がってしまったり、分筆のための測量や登記に費用がかかったりすることもあるため、慎重な検討が必要です。

②換価分割:財産を売却して現金で公平に分ける方法

換価分割とは、不動産などの遺産を売却して現金に換え、その現金を相続人間で分配する方法です。「実家を売却し、その売却代金を兄弟で半分ずつ分ける」といったケースが典型例です。

メリット
この方法のメリットは、なんといっても公平性を保ちやすい点です。1円単位で正確に分割できるため、相続人間の不満が出にくいと言えるでしょう。また、誰も住む予定のない不動産などを円満に整理できるという利点もあります。

デメリット
デメリットとしては、まず財産を売却するための手間と時間がかかることが挙げられます。不動産会社への依頼、買主探し、契約手続きなどが必要です。また、仲介手数料や登記費用などの諸経費がかかります。さらに、売却によって利益(譲渡所得)が出た場合、譲渡所得税・住民税が課税される可能性がある点にも注意が必要です。

ただし、税金については一定の要件を満たせば利用できる特例制度もあります。換価分割を検討する際は、税理士などの専門家と連携して進めることが大切です。

③代償分割:特定の人が多く相続する代わりに差額を現金で支払う方法

代償分割とは、相続人の一人が法定相続分を超える財産(例えば実家の不動産すべて)を相続する代わりに、他の相続人に対してその超えた部分に相当する現金(代償金)を支払う方法です。「長男が実家をすべて相続する代わりに、次男に法定相続分に相当する1,000万円を支払う」といった形です。

メリット
この方法は、家業で使っている土地や工場、ご家族が住み続けるご自宅など、分割することが難しい、あるいは望ましくない財産がある場合に非常に有効です。特定の財産を維持しながら、他の相続人との公平性も確保することができます。

デメリット
最大の課題は、財産を多く取得する相続人に、代償金を支払うだけの十分な資力(預貯金など)が必要となる点です。また、代償金の額を決める基礎となる不動産の評価額をいくらにするかで、相続人間の意見が対立しやすいという側面もあります。この方法は専門的な判断を要する場面が多いため、専門家を交えて慎重に話し合いを進めることが重要です。

【状況別】あなたに最適な遺産分割方法は?ケーススタディで解説

ここまで3つの方法を見てきましたが、ご自身の状況にどれが当てはまるか、具体的なイメージを掴んでいただくために、いくつかのケーススタディをご紹介します。

リビングで遺産分割について話し合いをしている相続人たち。ケーススタディを想起させる。

ケース1:財産が不動産のみで、誰も住む予定がない場合

→ 換価分割が有力な選択肢です。

相続財産がご実家の不動産のみで、相続人の誰もがそこに住むことを希望していない、というケースは少なくありません。このような場合、不動産をそのままにしておくと、固定資産税や管理の負担だけが相続人にのしかかってしまいます。

換価分割を選べば、不動産を売却して現金化し、その現金を公平に分配できます。これにより、管理の負担から解放され、各相続人がそれぞれの生活のために資金を活用できるようになります。私たち司法書士は、売却の前提となる相続登記から、不動産会社との連携、売買の決済立会いまで、スムーズな売却手続きをサポートいたします。

ケース2:長男が親と同居していた実家と、少しの預貯金がある場合

→ 代償分割が有力な選択肢です。

長年ご両親と同居し、今後もその家に住み続けたいと長男が希望している一方で、他の兄弟にも公平に財産を分けたい、というご希望がある場合です。

この場合、長男が実家をすべて相続し、他の兄弟には法定相続分との差額を代償金として支払う「代償分割」が適しています。これにより、長男は生活の基盤を失うことなく、他の兄弟も金銭で相続分を受け取ることができ、全員の納得を得やすくなります。

課題となる不動産の評価については、相続税路線価や固定資産税評価額、不動産会社の査定額などを参考に、相続人全員で話し合って決定するのが一般的です。代償金の支払いに遺産の預貯金を充て、それでも不足する分は長男個人の資金から支払うといった方法が考えられます。

ケース3:複数の不動産と預貯金があり、相続人がそれぞれ希望する場合

→ 現物分割と代償分割の組み合わせが有効です。

例えば、ご実家の土地建物、賃貸アパート、預貯金といった複数の財産があり、「長男は実家に住みたい」「次男はアパート経営を引き継ぎたい」といったように、相続人それぞれの希望があるケースです。

このような場合は、まずそれぞれの希望に沿って「現物分割」を行います。その上で、各人が取得した財産の評価額を算出し、法定相続分との間に生じた差額(不公平)を、多くもらった人が少なくもらった人へ現金を支払う「代償分割」で調整します。

このように複数の方法を組み合わせることで、柔軟な解決が可能になります。ただし、計算や手続きが複雑になりがちですので、専門家が間に入ることで、各財産の評価から公平な分割案の作成、協議書の作成まで、話し合いを円滑に進めるお手伝いができます。

分割方法が決まったら|遺産分割協議書の作成ポイント

相続人全員で話し合い、分割方法がまとまったら、その内容を「遺産分割協議書」という書面に残します。この協議書は、後の不動産登記や預貯金の解約手続きで必要となる非常に重要な書類です。

そして、選択した分割方法によって、協議書に記載すべき内容には特有のポイントがあります。ここを疎かにすると、後々のトラブルの原因になったり、手続きがスムーズに進まなくなったりする可能性があります。

司法書士より一言:遺産分割協議書は「未来の安心」への契約書です

遺産分割協議書は、単なる話し合いの記録ではありません。相続人全員が合意した内容を法的に確定させ、将来起こりうる「言った、言わない」のトラブルを防ぐための、ご家族間の大切な契約書です。特に、不動産が含まれる場合や、換価分割・代償分割のように金銭のやり取りが発生する場合は、その内容を正確かつ明確に記載することが、ご家族の未来の安心に繋がります。私たち専門家は、お客様それぞれの状況に合わせ、最適な分割方法をご提案するだけでなく、その合意内容を法的に不備のない形で書面に残すお手伝いをしています。それが、私たちの考える「ご安心」の提供です。

現物分割の場合:「誰が」「どの財産を」特定して記載する

現物分割の協議書では、「どの相続人が、どの財産を取得するのか」を誰が見ても一義的に明らかになるように記載することが最も重要です。

特に不動産については、登記簿謄本(登記事項証明書)に記載されている通りに、一字一句正確に書き写す必要があります。「所在、地番、地目、地積」といった情報を省略せずに記載します。なぜなら、この協議書を使って法務局に相続登記を申請する際、登記簿の情報と協議書の情報が一致していないと、申請が受理されないからです。

換価分割の場合:売却担当者と代金の分配割合を明記する

換価分割を行う場合は、現物分割の記載に加えて、換価分割特有の取り決めを明記する必要があります。具体的には、以下のような内容です。

  • 対象となる財産を売却(換価)し、その代金を分配すること
  • 相続人の代表として、誰が売却手続きを行うのか(売却担当者)
  • 売却にかかった費用(仲介手数料、税金など)を差し引いた後の代金を、どのような割合で分配するのか

これらの点をあらかじめ書面で明確にしておくことで、「売却活動に協力的でない人がいる」「経費の負担で揉める」といった売却後のトラブルを防ぐことができます。

遺産分割協議書に署名している様子。法的に有効な書類を作成する重要性を示している。

代償分割の場合:代償金の金額、支払期日、支払方法を定める

代償分割の協議書で最も重要なのが、「代償金に関する条項」です。後々のトラブルを避けるため、以下の項目を具体的かつ明確に記載することが不可欠です。

  • 代償金の具体的な金額(例:金1,000万円)
  • 支払期日(例:令和〇年〇月〇日まで)
  • 支払方法(例:〇〇が所有する下記銀行口座へ振り込んで支払う)

「後で払うから」といった口約束だけでは、万が一支払いが滞った際に法的な証明が難しくなります。協議書にこれらの条項をきちんと定めることで、契約書としての効力を持たせ、約束を確実なものにすることができます。場合によっては、支払いが遅れた場合の遅延損害金について定めることもあります。

遺産分割協議書の作成については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
遺産分割協議書の作成

遺産分割で迷ったら、まずは司法書士にご相談ください

ここまで遺産分割の3つの方法と、遺産分割協議書の作成ポイントについて解説してきました。どの方法にもメリット・デメリットがあり、どの方法が最適かは、ご家族の状況によって本当に様々です。

遺産分割には、法律や税金の問題が複雑に絡み合います。相続人の方々だけで話し合いを進め、法的に不備のない書類を作成するのは、精神的にも時間的にも大きなご負担となることでしょう。

そんなときこそ、私たち司法書士のような専門家を頼ってください。えなみ司法書士事務所では、まずお客様のお話をじっくりと伺うことから始めます。ご家族の状況、財産の内容、そして何より皆様の「想い」を丁寧にお聞きした上で、ご家族にとって最も円満な解決に繋がる分割方法をご提案いたします。

そして、話し合いがまとまった後の遺産分割協議書の作成、その後の不動産の名義変更(相続登記)まで、責任を持って一貫してサポートさせていただきます。

「いつでも相談できる、いつでも来てもらえる」をモットーに、横浜・川崎エリアを中心に無料での訪問相談も行っております(要事前予約)。平日はもちろん、土日祝日も夜21時までご相談に対応しておりますので、お仕事でお忙しい方も、どうぞお気軽にご連絡ください。あなたとご家族が、一日も早く「ご安心」いただけるよう、全力でお手伝いさせていただきます。
えなみ司法書士事務所
代表司法書士:榎並 慶太
所在地:〒220-0004 横浜市西区北幸1丁目11番1号 水信ビル7階
所属:神奈川県司法書士会(第2554号)

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故人の借金調査|信用情報開示請求の費用・手続きを司法書士が解説

2025-11-30

「親に借金が?」相続の不安、まずやるべきは債務調査です

「亡くなった親の部屋を整理していたら、見慣れないカードローンの明細書が出てきた」「生前、お金に困っているような話をしていた気がする…」

大切なご家族を亡くされた悲しみに暮れる間もなく、このような不安に襲われる方は少なくありません。もし故人に多額の借金があった場合、何も知らずに相続してしまうと、その返済義務まで引き継いでしまうことになります。

そうした事態を避けるため、相続手続きの第一歩として絶対に欠かせないのが「債務調査」です。特に、金融機関からの借入状況を正確に把握できる「信用情報開示請求」は、相続の方向性を決める上で極めて重要な手続きとなります。

この記事では、相続手続きを専門とする司法書士が、故人の借金を調べるための信用情報開示請求について、手続きの流れから必要書類、費用、そして注意点まで、一つひとつ丁寧に解説していきます。この記事を読み終える頃には、ご自身の状況で次に何をすべきかが明確になっているはずです。ご不安な点は丁寧にご説明いたします。まずは無料相談で状況をお伺いします。

故人の遺品から借金の明細書を見つけてしまい、不安な表情を浮かべる相続人

当事務所にも寄せられる、故人の借金に関するご相談

司法書士が見た、相続の現実

先日、当事務所にいらっしゃったAさんも、同じような不安を抱えていました。「父が亡くなったのですが、相続財産をどうすればよいか分からず…」と話し始めたAさん。詳しくお話を伺うと、お父様が遺した財産よりも、むしろ借金の有無を心配されていました。

「生前の父の様子から、もしかしたら借金があるかもしれない。もし借金の方が多いなら、相続放棄をしたい。でも、財産があるならきちんと相続したいんです。」

このようにおっしゃるAさんのように、相続放棄すべきか、それとも相続登記(不動産の名義変更)などを進めるべきか、その判断のために故人の正確な債務額を調査したいというご依頼は、決して珍しくありません。

※以下の事例は、ご依頼者のプライバシーに配慮し、内容を一般化した典型的な相談例です。

私たちは、まずAさんのお気持ちに寄り添い、正確な状況を把握するために「信用情報開示請求」から始めましょうとご提案しました。事例では信用情報開示により状況が明確になり、依頼者が次の対応を検討できる状況になりました。結果は個別の事情により異なります。

故人の借金調査の第一歩「信用情報機関」とは?

故人の借金を調べる際、最も信頼性が高く、効率的な方法が「信用情報機関」への情報開示請求です。

信用情報機関とは、個人のクレジットカードやローンの契約内容、返済状況といった信用情報を、金融機関から集めて管理している第三者機関です。金融機関は、私たちがローンなどを申し込む際に、この信用情報を照会して返済能力を審査しています。

つまり、信用情報機関に記録されている情報を確認すれば、故人がどの金融機関から、いくら借金をしていたのかを客観的なデータで把握できるのです。遺品整理だけでは見つけられなかった借金が判明することも多く、債務調査の要と言えるでしょう。

日本に存在する3つの信用情報機関とその特徴

日本には、以下の3つの信用情報機関が存在します。それぞれ加盟している金融機関の種類が異なるため、故人の借金を漏れなく調査するには、原則として3機関すべてに開示請求を行う必要があります。

機関名略称主な加盟金融機関
株式会社日本信用情報機構JICC消費者金融会社、信販会社、流通・銀行・保証系のクレジットカード会社など
株式会社シー・アイ・シーCIC信販会社、百貨店、専門店内会、流通系・銀行系・家電メーカー系クレジットカード会社、保証会社、リース会社など
全国銀行個人信用情報センターKSC銀行、信用金庫、信用組合、農協、政府系金融機関など
3つの信用情報機関の特徴

例えば、消費者金融からの借入はJICC、クレジットカードの利用はCIC、銀行のカードローンはKSCといったように、契約先によって情報が登録されている機関が異なります。どれか一つでも欠けてしまうと、借金の全体像を見誤る可能性があるため注意が必要です。

日本の3つの信用情報機関であるJICC、CIC、KSCのそれぞれの特徴と加盟金融機関の違いをまとめた図解。

参考:全国銀行個人信用情報センター | 全銀協の活動を知りたい方

【実践】故人の信用情報開示請求|手続きの流れと必要書類

それでは、実際に故人の信用情報を開示請求する際の手続きについて、具体的に見ていきましょう。ここでは、相続人が郵送で手続きを行う場合を想定して解説します。

ステップ1:開示請求に必要な書類を揃える

開示請求で最も重要なのが、必要書類を不備なく揃えることです。不備があると手続きが滞り、貴重な時間をロスしてしまいます。一般的に、以下の書類が必要となります。

  • 信用情報開示申込書:各信用情報機関のウェブサイトからダウンロードできます。
  • 本人確認書類:請求する相続人の方の運転免許証、マイナンバーカード、健康保険証などのコピー。
  • 故人との相続関係がわかる書類:故人の死亡の事実と、あなたが相続人であることがわかる戸籍謄本(除籍謄本)などが必要です。
  • 手数料:各機関所定の手数料分の「定額小為替証書」を郵便局で購入します。(定額小為替等の手数料は機関や請求方法により変動しますが、目安として1機関あたり1,000円〜1,500円程度です。最新の料金は各機関の公式サイトでご確認ください。)

特に戸籍謄本は、故人の出生から死亡までの一連のものが必要になる場合など、収集に手間がかかることがあります。どの範囲の戸籍が必要か、事前に各機関のウェブサイトでしっかり確認しましょう。

ステップ2:申込書を正確に記入する

申込書には、故人の氏名、生年月日、最後の住所、電話番号などを正確に記入します。情報が不正確だと、正しく故人を特定できず、情報が開示されない可能性があります。故人の住民票の除票などを参考に、間違いのないよう丁寧に記入しましょう。

また、相続人として請求する旨を明記し、ご自身の情報も正確に記入する必要があります。記入方法で不明な点があれば、各機関のウェブサイトを確認するか、問い合わせ窓口に電話で確認することをおすすめします。

ステップ3:開示報告書の見方とチェックポイント

請求後、1週間から10日ほどで「開示報告書」が郵送されてきます。この報告書を正しく読み解くことが、債務調査のゴールです。

信用情報開示報告書で確認すべき重要な3つのポイント(契約内容、残高、返済状況)を示した図解。

報告書には専門的な用語も含まれますが、特に以下の項目に注目してください。

  • 契約内容:どこの会社(金融機関)と、どのような契約(カードローン、キャッシングなど)を結んでいたかがわかります。
  • 契約年月日・契約額:いつ、いくらの契約をしたかが記載されています。
  • 残高:現在、借金がいくら残っているかを示す最も重要な項目です。
  • 返済状況:支払いの遅延(延滞)の有無などが記号で示されています。

これらの情報を機関ごとに集計し、故人の借金の総額を正確に把握します。もし見慣れない会社名があれば、インターネットで検索してどのような業者かを確認しましょう。

司法書士への依頼も選択肢に|費用とメリット・デメリット

「仕事が忙しくて手続きする時間がない」「戸籍集めが複雑で難しそう」「開示報告書の内容を正しく理解できるか不安…」

このような方には、司法書士に一連の手続きを依頼するという選択肢があります。ご自身で行う場合と専門家に依頼する場合、それぞれの特徴を理解し、ご自身の状況に合った方法を選びましょう。

司法書士に依頼した場合の費用相場と当事務所の料金

えなみ司法書士事務所(代表 司法書士 榎並慶太)
【所属】神奈川県司法書士会
【所在地】横浜市西区北幸1丁目11番1号 水信ビル7階

当事務所での費用の目安は以下の通りです。
目安:3機関への開示代行(報酬+実費) 約100,000円
(戸籍取得枚数や実費の増減により変動します)
これは、相続の方向性を決めるための重要な調査にかかる費用です。事前のお見積もりで詳細な内訳をご提示し、ご納得いただいた上で手続きを進めますのでご安心ください。

一般的な司法書士事務所でも同様の料金体系が多いですが、事務所によっては別途実費がかかる場合もありますので、依頼前には必ず総額費用を確認することが大切です。

時間と手間を削減!専門家に任せる4つのメリット

費用はかかりますが、専門家に依頼することで得られるメリットは非常に大きいものがあります。

  1. 複雑な戸籍収集から解放される
    相続手続きで最も時間と手間がかかるのが戸籍謄本の収集です。本籍地が遠方にある場合など、ご自身で集めるのは大変な労力ですが、司法書士がご依頼に基づき、お客様に代わって戸籍等の取得を代行いたします。
  2. 書類の不備なく迅速に手続きが進む
    専門家が手続きを行うため、書類の不備や記入ミスでやり直しになる心配がありません。相続放棄を検討している場合など、時間的な制約がある中で、迅速かつ確実に手続きを進めることができます。
  3. 開示結果を専門家が分析し、的確なアドバイスをもらえる
    開示報告書の結果を正確に分析し、借金の総額を確定します。その上で、「相続放棄すべきか」「このまま相続手続きを進めても問題ないか」など、お客様の状況に合わせた最善の選択肢を法的な観点からアドバイスいたします。
  4. 精神的な負担が大幅に軽減される
    慣れない手続きや借金の不安からくる精神的なストレスは、想像以上に大きいものです。すべてを専門家に任せることで、安心して日常生活を送ることができます。

自分で手続きする場合の注意点とデメリット

もちろん、ご自身で手続きを行うことで費用を抑えられるというメリットはあります。しかし、以下のようなデメリットやリスクも考慮する必要があります。

  • 時間がかかりすぎるリスク
    戸籍の収集や書類の準備に手間取り、相続放棄の期限である「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月」を過ぎてしまう危険性があります。期限を過ぎると、原則として借金も相続しなければならなくなります。詳しくは一部の相続財産の認識がある場合の熟慮期間の起算点の繰下げ(相続放棄⑦)でも解説していますが、この期間管理は非常に重要です。
  • 書類の不備で手続きが停滞する
    何度も書類のやり取りが発生し、かえって時間と費用がかかってしまうことがあります。
  • 開示結果の解釈を誤る可能性
    報告書の内容を正しく理解できず、借金の総額を少なく見積もってしまうなど、相続の判断を誤るリスクがあります。

これらのリスクを考えると、特に相続放棄の可能性がある場合には、初めから専門家に相談する方が安全かつ確実と言えるかもしれません。

調査後にやるべきこと|借金が見つかった場合の選択肢

信用情報開示請求によって故人の債務状況が明らかになったら、その結果に基づいて次の行動を選択します。主な選択肢は以下の3つです。

故人の借金調査後に相続人が取れる3つの選択肢(単純承認、相続放棄、限定承認)とその条件を比較した図解。

プラスの財産が多い場合:単純承認と相続手続き

調査の結果、借金が全くない、あるいは預貯金や不動産といったプラスの財産で十分に返済できることがわかった場合は、「単純承認」として通常の相続手続きに進みます。具体的には、遺産分割協議を行い、不動産があれば相続登記についての手続きなどを進めていくことになります。もちろん、これらの手続きも当事務所で一貫してサポート可能です。

借金の方が多い場合:相続放棄という選択

明らかに借金がプラスの財産を上回る「債務超過」の状態であれば、「相続放棄」を選択するのが一般的です。相続放棄とは、家庭裁判所に申述することで、初めから相続人ではなかったとみなされる手続きです。これにより、借金の返済義務を一切負わずに済みます。
前述の通り、相続放棄には3ヶ月という期限がありますので、債務超過が判明したら速やかに手続きを進める必要があります。当事務所では、相続放棄についての申述書作成サポートも行っておりますので、お急ぎの場合もご相談ください。

判断が難しい場合:限定承認という方法も

「借金はあるが、プラスの財産とどちらが多いか微妙」「自宅だけはどうしても手放したくない」といった、判断が難しいケースでは「限定承認」という方法もあります。これは、相続したプラスの財産の範囲内でのみ借金を返済し、もし財産が残ればそれを引き継げるという制度です。
ただし、手続きが非常に複雑で、相続人全員で共同して行わなければならないなど制約も多いため、利用されるケースは多くありません。限定承認を検討する場合は、必ず専門家のアドバイスを受けるようにしてください。

まとめ:故人の借金調査でお悩みなら、えなみ司法書士事務所へ

今回は、故人の借金を調べるための信用情報開示請求について解説しました。

相続は、時に予期せぬ問題に直面することがあります。特に故人の借金問題は、相続放棄の期限も関わるため、迅速かつ正確な対応が求められます。その第一歩となる債務調査は、今後の方向性を決めるための羅針盤のようなものです。

もし、ご自身で手続きを進めることに少しでも不安を感じたり、お仕事などで時間が取れなかったりする場合は、一人で抱え込まずに私たち専門家にご相談ください。

えなみ司法書士事務所は、横浜・川崎エリアを中心に、相続に関するお悩みに寄り添ってまいりました。無料訪問面談(横浜・川崎エリア内、要予約)も実施しております。事前のご予約により平日・土日祝日問わず21時まで対応しておりますので、日中お忙しい方でもご相談いただきやすくなっております。

原則として追加費用のない総額表示を心がけていますが、戸籍の追加取得や第三者機関の実費等、事案により実費が発生する場合があります。詳細はお見積りでご確認ください。故人の借金でお悩みの方は、まずはお気軽に当事務所の無料相談・お問い合わせはこちらをご利用ください。あなたのご不安を「ご安心」に変えるお手伝いをさせていただきます。

相続登記の費用が払えない!司法書士報酬や税金の対処法を解説

2025-11-30

相続登記の費用が払えない…まずは落ち着いて状況を整理しましょう

「親が亡くなって不動産を相続したけれど、相続登記にかかる費用が払えそうにない…」
「2024年から義務化されたと聞いたけど、お金がないからどうしようもない…」

今、この記事を読んでくださっているあなたは、このような深刻な悩みを抱え、強い不安と焦りを感じていらっしゃるかもしれません。

大切なご家族を亡くされたばかりで、精神的にも大変な時期に、お金の問題まで重なってしまうのは本当にお辛いこととお察しいたします。

ですが、どうかご安心ください。費用がすぐに用意できなくても、利用できる制度や選択肢が存在する場合があります。

この記事では、相続登記の費用が払えないときに使える公的な制度や、費用を抑えるための具体的な方法を、相続の専門家である司法書士が一つひとつ丁寧に解説していきます。

まずは落ち着いて、ご自身の状況を整理することから始めましょう。この記事を最後までお読みいただければ、何が問題で、どんな選択肢があり、次の一歩をどう踏み出せば良いかがきっと明確になるはずです。

なぜ費用が払えない?原因は「登録免許税」と「司法書士報酬」

相続登記の費用は「登録免許税」と「司法書士報酬」の2つで構成されていることを示す図解。

相続登記の費用が「高い」と感じるのには理由があります。費用は主に、国に納める「登録免許税」という税金と、手続きを専門家に依頼した場合の「司法書士報酬」の2つで構成されています。

登録免許税
不動産の名義変更(登記)をする際に、法務局へ納める税金です。税額は、不動産の「固定資産税評価額」の0.4%と法律で定められています。例えば、評価額が2,000万円の土地と建物であれば、8万円の登録免許税がかかります。

司法書士報酬
戸籍謄本の収集や遺産分割協議書の作成、法務局への登記申請など、複雑で専門的な手続きを司法書士に依頼した場合にかかる手数料です。事務所によって報酬は幅があります。事例によっては数万円〜数十万円程度となることがあるため、詳しくはお見積りをご確認ください。

これらの費用が一度に必要となるため、負担が大きく感じられるのです。ちなみに、えなみ司法書士事務所では、お客様の負担を少しでも軽減できるよう、相続登記77,000円(税込み)というご利用いただきやすい価格でサポートしております。

放置は危険!相続登記義務化と10万円以下の過料リスク

「費用が払えないから、しばらく放置しておこう…」と考えてしまうお気持ちも分かります。しかし、残念ながらその選択は大きなリスクを伴います。

2024年4月1日から法律が改正され、相続登記が義務化されました。これにより、「相続の開始及び所有権を取得したことを知った日から3年以内」に相続登記を申請しなければなりません。

正当な理由がないにもかかわらず、この義務を怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。

単に「お金がない」だけでは正当な理由として認められない場合が多い点に注意が必要です。ただし、重篤な病気や多数の相続人など個別の事情がある場合は正当な理由と認められることがあります。だからこそ、ただ放置するのではなく、今からご自身の状況に合った対策を一緒に考えていくことがとても大切なのです。

参考:相続登記の申請義務化特設ページ

【公的制度】費用負担を軽減する4つの選択肢

ご安心ください。経済的な理由で相続登記ができない方をサポートするための公的な制度が用意されています。ここでは、代表的な4つの選択肢をご紹介します。ご自身の状況に合うものがないか、確認してみましょう。

①法テラスの民事法律扶助(費用の立替制度)を利用する

経済的に余裕がない場合に、まず検討したいのが法テラス(日本司法支援センター)の「民事法律扶助制度」です。これは、司法書士の報酬や登録免許税などの実費を一時的に立て替えてくれる制度です。

利用できる方の条件
この制度を利用するには、収入や資産が一定の基準以下である必要があります。例えば、単身者の場合、手取り月収の目安が18万2,000円以下(大都市の場合20万200円以下)といった基準が設けられています。

立替と返済について
審査が通ると、法テラスが司法書士報酬や登録免許税を立て替えてくれます。立て替えてもらった費用は、原則として月々5,000円~10,000円程度の分割払いで返済していくことになります。また、生活保護を受給されている方など、事情によっては返済が免除される場合もあります。

詳しい利用条件や手続きについては、法テラスの公式サイトで確認したり、直接問い合わせてみることをお勧めします。法テラス利用の可否は収入・資産等の審査により判断されますので、まずはご相談ください。
無料法律相談・弁護士等費用の立替

【司法書士の視点】法テラスの立替制度は、本当に心強い味方です

司法書士として仕事をしている中で、経済的なご事情からご相談をためらってしまう方にお会いすることがあります。そのような場合に、法テラスの立替制度は心強い味方となり得ます。例えば、経済的な理由で手続きが難しい状況にある方が、この制度を利用して無事に相続登記を進められたというケースもございます。

この制度の素晴らしい点は、単にお金を立て替えるだけでなく、専門家へのアクセスのハードルをぐっと下げてくれるところにあります。経済的な不安が、法的な権利を守るための行動を妨げてしまうのは、非常にもったいないことです。もしあなたが「自分も対象になるかも?」と少しでも感じたら、諦めずに、まずは相談するという一歩を踏み出してほしいと心から願っています。

②登録免許税の免税措置|100万円以下の土地なら非課税に

固定資産税評価額が100万円以下の土地は、相続登記の登録免許税が免税になることを示す図解。

登録免許税の負担をゼロにできる可能性のある制度です。特に地方の土地などで利用できるケースが多くあります。

具体的には、以下の2つの条件を両方満たす場合、土地の相続登記にかかる登録免許税が非課税になります。

  1. 相続により土地を取得した方が、その土地について相続登記を受けること。
  2. その土地の不動産の価額(固定資産税評価額)が100万円以下であること。

不動産の価額は、市区町村から送られてくる固定資産税の納税通知書や、役所で取得できる固定資産評価証明書で確認できます。この免税措置を受けるには、登記申請書に免税の根拠となる法令の条文を記載する必要があります。当事務所では、この非課税措置を積極的に利用し、減税に努めております。

参考:相続登記の登録免許税の免税措置について – 法務局

③数次相続の登録免許税の免税措置

少し複雑なケースですが、該当する方には大きなメリットがある制度です。

例えば、「祖父名義の不動産を父が相続したが、登記をしないうちに父も亡くなってしまい、最終的に自分が相続することになった」というようなケースを「数次相続」といいます。

通常であれば、祖父から父へ、父から自分へ、と2回分の登記が必要になり、登録免許税も2回分かかります。しかし、一定の要件を満たす場合、1回目の「祖父から父へ」の相続登記については登録免許税が免税となる特例があります。心当たりのある方は、専門家である司法書士に相談してみることをお勧めします。

④相続人申告登記で、ひとまず義務を履行する

「すぐに費用全額は用意できない」「遺産分割の話し合いがまとまらない」といった事情で、3年以内に相続登記を完了するのが難しい場合、「相続人申告登記」という新しい制度を利用する方法があります。

これは、「私が相続人の一人です」と法務局に申し出るだけの簡易な手続きです。この手続きをしておけば、相続登記の義務を果たしたことになります。

  • メリット: 数千円程度の費用で済み、戸籍謄本など最低限の書類で手続きできる。
  • デメリット: 不動産を売却したり、担保に入れてお金を借りたりすることはできない。あくまで一時的な対応であり、最終的には正式な相続登記が必要。

相続人申告登記は、あくまで過料を避けるための一時的な措置と理解しておきましょう。

司法書士に直接相談するという選択肢|費用を抑えるポイント

公的な制度だけでなく、私たち司法書士に直接ご相談いただくことでも、解決の糸口が見つかる場合があります。費用がないからと諦めずに、まずは専門家の話を聞いてみませんか。

自分で相続登記をして費用を節約できる?メリット・デメリット

「司法書士に頼まず、自分でやれば報酬がかからないのでは?」と考える方もいらっしゃるでしょう。もちろん、ご自身で手続きを行うことは可能です。

  • メリット: 司法書士報酬がかからないため、費用を最も安く抑えられる可能性がある。
  • デメリット: 膨大な時間と手間がかかる。戸籍謄本の収集や書類作成は非常に複雑で、一つでも不備があると法務局で何度もやり直しを求められる。平日に何度も役所や法務局へ足を運ぶ必要があり、かえって交通費や時間がかかり、精神的な負担も大きい。
司法書士に相続登記の相談をし、安心している夫婦の様子。

特に、お仕事で忙しい方や、書類の作成に慣れていない方にとっては、ご自身で手続きを行うのは想像以上に大変な作業です。結果的に専門家に依頼する方が、時間的・精神的な負担が少なく、スムーズに解決できるケースも少なくありません。

司法書士報酬の分割払いや後払いに応じてくれる事務所を探す

司法書士事務所によっては、費用の支払い方法について柔軟に対応してくれる場合があります。

私たち、えなみ司法書士事務所では、費用に関するご相談を積極的にお受けしております。ご事情をお伺いした上で、司法書士報酬の分割払いや、相続した不動産を売却した代金からお支払いいただく後払いなど、お客様の状況に合わせたお支払い方法をご提案できる場合があります。

「手元にまとまったお金がないから…」と一人で抱え込まずに、まずはその状況を正直にお話しください。私たちはお客様に寄り添い、一緒に最善の方法を考えます。

【最終手段】相続不動産を売却して費用を捻出する

どうしても現金が用意できず、その不動産に住む予定もない、という場合には、相続した不動産を売却し、その売却代金から登記費用や税金を支払うという方法もあります。これを「換価分割」といいます。

この方法をとる場合、相続登記の手続きと並行して不動産の売却活動を進める必要があります。そのため、信頼できる不動産会社との連携が不可欠になります。

当事務所では、必要に応じて提携している不動産会社をご紹介することも可能です。相続から売却までの一連の流れをスムーズに進められるよう、ワンストップでサポートさせていただきますので、ご安心ください。

費用が払えなくても諦めないで!まずは無料相談をご利用ください

司法書士が相談者の自宅を訪問し、無料相談に乗っている様子。

相続登記の費用が払えないという問題は、決してあなた一人だけの悩みではありません。そして、ここまでお読みいただいたように、解決するための選択肢はいくつも存在します。

大切なのは、一人で抱え込んで諦めてしまうのではなく、「まずは専門家に相談してみる」という一歩を踏み出すことです。

えなみ司法書士事務所は、横浜市・川崎市にお住まいの皆様にとって「いつでも相談できる、いつでも来てもらえる」身近な法律の専門家でありたいと考えています。お客様のご負担を少しでも軽くするために、私たちは3つのことをお約束します。

  1. 無料の訪問面談: ご自宅や最寄りのカフェなど、ご指定の場所まで無料で伺います。
  2. 土日祝・21時まで対応: 平日お忙しい方でもご相談いただきやすいよう、柔軟に対応します。(面談は原則予約制です。担当司法書士の都合によりお受けできない場合があります。)
  3. 相続登記の報酬例: 当事務所の標準的な料金は77,000円(税込み)からです。料金は不動産の価格が高額の場合や相続人の数が多い場合は増える場合があります。詳細は個別のお見積りでご案内します。追加料金のない総額表示で安心です。

「自分の場合はどの制度が使えるの?」「まずは話だけ聞いてみたい」どんな些細なことでも構いません。費用のご心配も含め、あなたの状況を丁寧にお伺いし、最適な解決策をご提案します。

どうか一人で悩まず、私たち専門家を頼ってください。ご連絡をお待ちしております。

まずは無料相談でご状況をお聞かせください


えなみ司法書士事務所
代表 司法書士 榎並慶太
所属:神奈川県司法書士会(第2554号)
住所:〒220-0004 横浜市西区北幸1丁目11番1号 水信ビル7階

身寄りのない友人が認知症に…成年後見の申立ては誰ができる?

2025-11-24

「友人のために何かしたい」そのお気持ち、まずはお聞かせください

「もし、身寄りのない親しい友人が認知症になってしまったら…」
「財産の管理や日々の契約は、一体誰が支えてくれるのだろう…」

ご友人を大切に想うからこそ、このような不安に駆られ、ご自身の責任のように感じていらっしゃるかもしれません。そのお気持ちは、決して他人事ではなく、非常に切実な問題です。どうすれば友人を守れるのか、自分に何ができるのか、情報が少ない中で一人で抱え込んでしまうのは本当にお辛いことと思います。

以前、当事務所にも、ご友人のことで深く悩まれた方からのご相談がございました。

ご相談事例:配偶者やお子さんのいないご友人の将来について

ご相談者様は、長年親しくされてきたご友人(70代・お一人暮らし)の物忘れがひどくなってきたことを心配されていました。ご友人には配偶者もお子さんもおらず、頼れる親族も遠方にいるとのこと。「このままでは悪質な業者に騙されてしまうかもしれない」「何か法的な手続きで友人のお金や生活を守ることはできないだろうか」と、藁にもすがる思いで当事務所の初回無料相談(要予約)をご利用されました。

このご相談者様のように、ご自身の問題ではないからこそ、どこに相談すれば良いのか分からず、途方に暮れてしまう方は少なくありません。しかし、その「友人のために何かしたい」という温かいお気持ちこそが、解決への最も大切な第一歩なのです。

この記事では、成年後見制度の専門家である司法書士として、身寄りのないご友人のためにあなたができること、法的な手続きの流れ、そして費用の不安を解消するための公的な支援制度について、一つひとつ丁寧に解説していきます。

どうか一人で悩まず、まずは正しい知識を得ることから始めてみませんか。この記事が、あなたの心の負担を少しでも軽くし、大切なご友人を守るための次の一歩を踏み出す道しべとなれば幸いです。

成年後見の申立て、友人でもできる?原則と例外を解説

ご友人を心配するあまり、「自分が成年後見の申立人になれないだろうか?」とお考えになるのは自然なことです。しかし、法律上のルールはどのようになっているのでしょうか。ここでは、専門家の立場から明確にお答えします。

成年後見制度に関する法律書類のクローズアップ写真。「成年後見」の文字がはっきりと写っている。

原則:申立てができるのは法律で定められた人のみ

結論から申し上げますと、原則として、ご友人が成年後見の申立てを行うことはできません。

成年後見制度は、ご本人の財産やプライバシーに深く関わる非常に強力な制度です。そのため、誰でも自由に申立てができるわけではなく、民法という法律によって申立てができる人(申立人)の範囲が厳格に定められています。

具体的には、以下の人たちに限られています。

  • 本人
  • 配偶者
  • 四親等内の親族(子、親、兄弟姉妹、甥・姪、いとこ等)
  • 未成年後見人、未成年後見監督人
  • 保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人
  • 検察官
  • 市町村長

このように申立人の範囲が限定されているのは、ご本人の意思を尊重し、制度の濫用を防ぐためです。残念ながら「友人」はこの範囲に含まれていないため、直接の申立人になることはできないのが現状です。

友人だからこそできる大切な役割とは

「申立てができないなら、自分は無力なのか…」と落胆される必要は全くありません。むしろ、ご本人を最も身近で見てきたご友人だからこそ果たせる、非常に重要な役割があります。

それは、行政や専門家への「橋渡し役」です。

  • 情報提供者として:ご本人の日々の生活の様子、困っていること、性格やお金の使い方など、親族以上に詳しく知っているのはご友人かもしれません。その情報は、後述する「市町村長申立て」の必要性を判断する上で、行政にとって極めて貴重なものとなります。
  • 本人の意思の代弁者として:ご本人が何を望んでいるのか、どのような生活を送りたいのか。判断能力が低下していく中で、その想いを汲み取り、代弁できるのは、信頼関係のあるご友人ならではの役割です。
  • 支援へのきっかけ作り:ご本人が一人で公的な窓口に相談に行くのは困難な場合が多いでしょう。ご友人が付き添って相談の場を設け、手続きがスムーズに進むようサポートすることは、大きな助けとなります。

直接の申立人にはなれなくても、ご友人の存在がなければ、ご本人が必要な支援にたどり着けないケースは少なくありません。あなたの行動が、ご友人を守るための大きな力になるのです。

身寄りのない友人のために「市町村長申立て」という選択肢

では、ご友人のような身寄りのない方が成年後見制度を利用したい場合、具体的にどうすればよいのでしょうか。その最も現実的で強力な解決策が「市町村長申立て」です。

市町村長申立てとは?身寄りのない方のための公的支援

市町村長申立てとは、その名の通り、市区町村の長が申立人となって家庭裁判所に成年後見の開始を申し立てる制度です。これは、老人福祉法などの法律に基づいており、まさに身寄りがなくご自身で申立てができない方のための公的なセーフティネットとして機能しています。

特に、以下のような状況にある方々を保護することを目的としています。

  • 身寄りのない一人暮らしの高齢者の方
  • 親族がいても疎遠であったり、協力を得られなかったりする方
  • 虐待を受けている、または財産を不当に侵害されている恐れがある方

この制度を利用することで、本来申立人になれないご友人に代わって、行政が法的な手続きを進めてくれるのです。

地域包括支援センターの相談窓口で、専門スタッフに友人の状況を相談している様子。

最初の相談窓口は「地域包括支援センター」です

市町村長申立てを検討するにあたり、あなたが最初に向かうべき場所は「地域包括支援センター」です。

地域包括支援センターは、高齢者の暮らしを地域で支えるための総合相談窓口で、各市区町村に設置されています。ここには、社会福祉士、保健師、主任ケアマネジャーといった専門職が常駐しており、成年後見制度に関する相談にも無料で対応してくれます。

相談に行く際は、ご友人の状況について、分かる範囲で情報をまとめておくと話がスムーズに進みます。

【まとめておくと良い情報】

  • ご友人の基本情報:氏名、年齢、住所、家族構成など
  • 現在の生活状況:どのようなことで困っているか(金銭管理、契約手続きなど)、最近の様子の変化など
  • 財産に関する情報:預貯金、不動産、年金収入など、おおまかな状況
  • 健康状態::かかりつけの病院、診断されている病名など

まずは「身寄りのない友人のことで相談したい」と電話をしてみてください。専門家が親身に話を聞き、市町村長申立てを含め、ご友人に最適な支援策を一緒に考えてくれるはずです。

費用が心配な方へ|申立費用と後見人報酬の負担について

成年後見制度を利用する上で、多くの方が心配されるのが費用面の問題です。「友人のためとはいえ、自分がお金を負担するのは難しい」「本人に支払い能力がなかったらどうしよう」といった不安は当然のことです。ここでは、費用の全体像と、負担を軽減するための公的制度について解説します。

申立てにかかる費用は誰が負担する?

成年後見の申立てには、家庭裁判所に納める実費がかかります。主な内訳は以下の通りです。

費目金額の目安
収入印紙代800円
郵便切手代3,000円~5,000円程度
登記手数料(収入印紙)2,600円
医師の診断書作成費用数千円~数万円
(鑑定が必要な場合)鑑定費用5万円~10万円程度
成年後見申立てにかかる主な実費

これらの費用は、原則として申立人が一時的に立て替えることになります。しかし、市町村長申立ての場合、市町村が申立費用や後見人報酬の一部または全部を助成する制度(成年後見制度利用支援事業)を実施している自治体があります。ただし助成の有無・対象範囲・要件や上限は市町村により異なるため、詳細は該当市区町村に確認してください。

後見人への報酬は本人の財産から支払われます

成年後見人(司法書士などの専門家が選ばれることが多いです)が選任されると、その業務に対する報酬が発生します。この報酬は、申立人やご友人が支払うものではなく、家庭裁判所がご本人の財産状況に応じて金額を決定し、ご本人の財産の中から支払われます。

報酬額の目安は、管理する財産の額にもよりますが、報酬は家庭裁判所が本人の財産状況や業務量に応じて決定します。目安としては月額数千円〜数万円程度とされることが多いですが、個別事案で上下します。

重要なのは、後見人報酬はあくまでご本人が負担するものであり、あなたが肩代わりする必要はないということです。

資力がない場合は「成年後見制度利用支援事業」を活用

「本人の財産がほとんどなく、申立て費用や後見人報酬の支払いが難しい」というケースも少なくありません。そのような経済的に困窮している方を支えるために、「成年後見制度利用支援事業」という公的な助成制度があります。

これは、各市区町村が主体となって実施している事業で、資力が乏しい方に対して、申立てにかかる費用や後見人への報酬の一部または全部を助成するものです。

  • 対象となる方:生活保護を受給している方や、それに準ずる低所得の方など、市町村が定める要件を満たす方。
  • 助成の内容:申立費用(収入印紙、切手代、診断書料など)や、後見人等への報酬。
  • 相談・申請窓口:お住まいの市区町村の高齢者福祉担当課や、地域包括支援センターなど。

この制度があるため、経済的な理由だけで成年後見制度の利用を諦める必要はありません。ご友人の資力に不安がある場合も、まずは地域包括支援センターで相談してみることが大切です。

認知症になる前の対策「任意後見制度」という備え

これまで解説してきた成年後見制度(法定後見)は、すでにご本人の判断能力が低下した後に、家庭裁判所が後見人を選ぶものです。しかし、もしご友人の判断能力がまだしっかりしている段階であれば、「任意後見制度」という、よりご本人の意思を尊重できる備えがあります。

友人同士が任意後見契約を結び、公証役場で安心した表情で握手をしている場面。

本人が後見人を選べる任意後見契約とは?

任意後見制度とは、ご本人が元気で判断能力が十分なうちに、「将来、もし自分の判断能力が衰えたら、この人(任意後見人)に、このような支援(財産管理や身上監護)をお願いします」という内容の契約を、公証役場で公正証書によって結んでおく制度です。

【任意後見制度の主なメリット】

  • 自分で後見人を選べる:信頼できる友人や専門家など、ご自身が最も信頼する人を後見人に指定できます。
  • 支援内容を決められる:どのような財産管理をしてほしいか、どのような介護サービスを希望するかなど、支援の内容を自由に設計できます。
  • 本人の意思が最大限尊重される:ご自身の将来をご自身の意思で決める「自己決定権の尊重」という理念に基づいた制度です。

友人として任意後見人になる際の注意点

ご友人から「あなたに任意後見人になってほしい」と頼まれることもあるかもしれません。それは大変光栄なことですが、引き受ける際にはいくつかの注意点があります。

任意後見人になるということは、ご友人の財産を守り、生活を支えるという非常に重い責任を長期間にわたって負うことを意味します。具体的には、以下のような点を慎重に考慮する必要があります。

  • 責任の重さ:他人の財産を預かることには、正確な収支管理や定期的な報告義務が伴います。万が一、不適切な管理があれば法的な責任を問われる可能性もあります。
  • 長期的な負担:後見業務は、ご友人が亡くなるまで続く可能性があります。ご自身の生活や健康状態の変化も踏まえ、長期間にわたり責任を果たせるかを考える必要があります。
  • 他の親族との関係:もしご友人に疎遠な親族がいる場合、後から財産管理について意見されたり、トラブルになったりする可能性もゼロではありません。

友情だけで安易に引き受けるのではなく、その責任の重さを十分に理解することが不可欠です。場合によっては、ご自身がなるのではなく、私達のような司法書士などの専門家を任意後見人とすることも選択肢の一つとしてご友人に提案することも、本当の意味でご友人を思うことであり、賢明な判断と言えるでしょう。

まとめ:一人で悩まず、まずは専門家にご相談ください

身寄りのないご友人が認知症になった場合、ご友人としてできることはたくさんあります。この記事の要点を振り返ってみましょう。

  • 友人が直接、成年後見の申立人になることは原則としてできない。
  • しかし、行政や専門家への「橋渡し役」として、非常に重要な役割を担うことができる。
  • 具体的な解決策として「市町村長申立て」があり、最初の相談窓口は「地域包括支援センター」である。
  • 申立費用や後見人報酬は、本人の資力がない場合、公的な助成制度(成年後見制度利用支援事業)を利用できる。
  • 判断能力があるうちなら、本人の意思で後見人を選べる「任意後見制度」も有効な選択肢となる。

何よりも大切なのは、あなたが一人で全ての責任を背負い込まないことです。ご友人を思うそのお気持ちを、ぜひ公的な支援機関や私達のような専門家につないでください。

えなみ司法書士事務所は、横浜市・川崎市を中心に、相続や成年後見に関するご相談に力を入れています。「いきなり役所に相談するのは少し不安」「専門家の意見を一度聞いてみたい」という方も、どうぞご安心ください。

当事務所では、ご自宅などご指定の場所への無料訪問相談(横浜市・川崎市内に限る。要予約)も実施しており、平日・土日祝日を問わず21時までご対応可能です。まずはあなたのお話をお聞かせいただくことから始めさせてください。大切なご友人を守るため、私達が全力でサポートいたします。

えなみ司法書士事務所
代表 司法書士 榎並慶太(神奈川県司法書士会所属 第2554号)
〒220-0004 横浜市西区北幸1丁目11番1号 水信ビル7階

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