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法定後見人申立て完全ガイド|司法書士が流れ・費用を解説

2026-09-14

法定後見の申立て、何から始める?まず全体像を把握しましょう

「お父さんの預金が口座凍結でおろせない」「介護施設との入所契約を誰が結べばいいのか…」
ご家族の判断能力が低下し、預金の払戻しや施設入所契約などの手続きが難しくなったとき、多くの方が「成年後見」という言葉を意識し始めます。しかし、調べ始めると「申立て」「家庭裁判所」「審判」といった専門用語が多く、何から確認すればよいのか分かりにくい場合があります。

法的な手続きに不慣れな場合、不安や疑問を感じることは少なくありません。

この記事では、法定後見の申立てに必要な手続きの全体像、流れ、費用、準備すべき事項を順に整理します。手続きを段階ごとに確認することで、現在の状況に応じた対応を検討しやすくなります。

まずは肩の力を抜いて、ご自身の状況と照らし合わせながら読み進めてみてください。この記事が、法定後見の申立てを検討する際の参考になれば幸いです。
成年後見制度を利用すべきかどうかの判断基準については、成年後見制度の利用判断と代替策で体系的に解説しています。

法定後見申立て手続きの7ステップ|準備から後見開始まで

法定後見の申立ては、準備を始めてから実際に後見が開始されるまで、一般的に2ヶ月から4ヶ月程度の期間がかかります。ここでは、その全プロセスを7つのステップに分けて、時系列で見ていきましょう。全体の流れを掴むことで、今どの段階にいるのか、次に何をすれば良いのかが明確になります。

法定後見申立て手続きの7ステップを図解したフローチャート。相談から後見登記までの流れをアイコン付きで示している。

ステップ1:事前相談と方針決定

最初の一歩は、本当に成年後見制度を利用するのが最善なのか、申立ての方針を固めることです。この段階では、市区町村の高齢者福祉課などの窓口や地域包括支援センターが身近な相談先になります。

また、私たちのような司法書士にご相談いただければ、ご家族の状況や財産内容を丁寧にお伺いした上で、成年後見制度のメリット・デメリットを具体的にお伝えできます。場合によっては、任意後見や家族信託など、他の選択肢が適しているケースもあります。この最初の段階でしっかりと方針を決めることが、後の手続きをスムーズに進めるための最も重要な鍵となるため、ご本人様の状況を把握するため、ご本人様との面談をさせていただくこともございます。

ステップ2:必要書類の収集と申立書の作成

方針が決まったら、申立てに必要な書類の準備に取り掛かります。これは手続き全体で最も時間と手間がかかる部分かもしれません。特に重要なのが「医師の診断書」と「親族の同意書」です。

  • 診断書:かかりつけ医に作成を依頼しますが、必ず家庭裁判所指定の書式でお願いする必要があります。医師によっては作成に数週間かかることもあるため、早めに依頼しましょう。
  • 親族の同意書:申立人以外の相続人など、主要な親族から「後見を開始すること」や「候補者」について同意書をもらっておくと、手続きがスムーズに進みます。この段階でしっかり話し合い、協力を得ておくことが後のトラブルを防ぎます。また、この同意書を家庭裁判所に提出することにより、希望の候補者が選ばれることが多くなると言われております。

この他にも戸籍謄本や住民票、財産に関する資料など、集めるべき書類は多岐にわたります。私たち司法書士にご依頼いただければ、必要書類の収集や裁判所提出書類の作成をサポートできます。

ステップ3:家庭裁判所への申立て

書類一式が揃ったら、ご本人(後見を受けられる方)の住所地を管轄する家庭裁判所に申立書を提出します。申立人であるあなたのお住まいの地域の裁判所ではないので、注意が必要です。提出方法は、裁判所に直接持参するか、郵送でも構いません。申立てが受理されると、原則として取り下げることは難しくなりますので、提出は慎重に行いましょう。
管轄の裁判所がどこになるかは、家庭裁判所の管轄検索ページで確認できます。

ステップ4:家庭裁判所での面談(審問)

申立て後、必要に応じて家庭裁判所の調査官等が、申立人・本人・後見人候補者などから事情を聴くことがあります。面談の有無、時期、方法、出席者は家庭裁判所や事案によって異なります。この面談は、申立てに至った経緯やご本人の生活状況、財産の様子、候補者の適格性などを確認するために行われるものです。「何を話せばいいんだろう」と不安に思われるかもしれませんが、特別な準備は必要ありません。ありのままの事実を誠実に伝えることが何より大切です。

この面談は、手続きの中でも特に重要なポイントです。どのようなことが聞かれるかについては、後の章で詳しく解説しますね。

ステップ5:親族への意向照会と鑑定

面談後、家庭裁判所はいくつかの調査を進めます。一つは、申立てに同意していない親族(主に推定相続人)への意向照会です。裁判所から「成年後見の申立てがされていますが、ご意見はありますか?」といった内容の書面が送られます。

もう一つ、必要と判断された場合には、医師による「鑑定」が行われます。これは、ご本人の判断能力の程度をより詳しく医学的に判断するための手続きです。ただし、鑑定が行われるのは全体の数パーセント程度で、必ず実施されるわけではありません。鑑定が必要になると、追加で5〜10万円程度の費用と、1ヶ月程度の期間がかかることがあります。

ステップ6:審判と後見人の選任

全ての調査が終わると、家庭裁判所は後見を開始するかどうかを決定する「審判」を下します。そして、この審判と同時に、誰を成年後見人にするかを選任します。

ここで非常に重要な点があります。それは、申立書に候補者として記載したご家族が、必ずしも選ばれるとは限らないということです。ご本人の財産が多い、不動産の売却など複雑な手続きが予定されている、親族間で意見の対立がある、といったケースでは、中立的な立場の専門家(司法書士、弁護士など)が後見人に選ばれることが多くなっています。

ステップ7:審判の確定と後見登記

審判の結果は「審判書」という書面で関係者に郵送されます。この審判書を受け取ってから2週間、誰も不服申し立て(即時抗告)をしなければ、審判が「確定」します。この確定をもって、正式に後見がスタートします。

審判が確定すると、家庭裁判所から法務局へ後見内容の登記が依頼され、後見人としての職務が法的に記録されます。今後は、金融機関での手続きや契約などを行う際に、法務局で「登記事項証明書」を取得し、自分が後見人であることを証明しながら活動していくことになります。これで、一連の申立て手続きは完了です。

【費用一覧】法定後見の申立てと後見人への報酬はいくら?

成年後見制度を利用する上で、最も気になるのが「お金」の問題ではないでしょうか。費用は大きく分けて「申立て時にかかる初期費用」と「後見が始まった後に継続的にかかる報酬」の2種類があります。全体像を把握し、資金計画を立てていきましょう。

申立て時に必要な実費と専門家への依頼費用

まず、申立ての際に必ずかかる費用です。

項目金額の目安備考
収入印紙代3,400円後見申立手数料800円+登記手数料2,600円
郵便切手代3,000円~5,000円程度裁判所からの連絡用。管轄裁判所により異なる。
診断書作成料数千円~1万円程度医療機関によって異なる。
必要書類取得費用数千円程度戸籍謄本、住民票、不動産登記事項証明書など。
(鑑定が必要な場合)鑑定費用5万円~10万円程度実施される場合のみ。
申立て時の初期費用(目安)

ご自身で手続きをすれば、これらの実費のみで申立てが可能です。もし、私たち司法書士に申立書類の作成支援をご依頼いただく場合は、上記の実費に加えて、10万円~15万円程度の報酬が別途かかります。

成年後見人へ支払う報酬の目安

後見がスタートした後、成年後見人が報酬を受け取るには、家庭裁判所への報酬付与の申立てが必要です。報酬額は後見人が勝手に決めるのではなく、家庭裁判所が事務内容や管理財産の内容などを総合的に考慮して決定します。

東京家庭裁判所の目安では、管理する財産額に応じて以下のように定められています。

  • 基本報酬:月額2万円(管理財産額が1,000万円以下の場合)
  • 管理財産額が1,000万円を超え5,000万円以下の場合は月額3~4万円
  • 管理財産額が5,000万円を超える場合は月額5~6万円

ご家族が後見人になった場合、報酬を受け取らない(報酬付与の申立てをしない)ことも多いです。しかし、司法書士などの専門家が後見人に選任された場合は、原則として上記の報酬が発生します。この報酬は、ご本人が亡くなるまで、ご本人の財産から毎年支払われ続けることになるため、長期的な視点で考える必要があります。

司法書士に成年後見制度の費用について相談し、安心した表情を浮かべる女性。

費用が払えない場合に利用できる助成制度

「申立て費用や後見人への報酬を支払うのが難しい…」という場合でも、諦める必要はありません。多くの市区町村では「成年後見制度利用支援事業」という助成制度を設けています。

この制度を利用できれば、申立てにかかる費用や後見人への報酬の一部、または全部を自治体が助成してくれます。対象となるのは、住民税が非課税であるなど、経済的に困窮している方です。条件は自治体によって異なりますので、まずはお住まいの市区町村の役所の担当窓口や、地域包括支援センターに相談してみてください。相談先があるということを知っておくだけでも、少し気持ちが楽になるかと思います。

参照:厚生労働省「成年後見制度利用促進」

申立ての必要書類一覧とスムーズな集め方のコツ

申立てで最も労力がかかるのが、必要書類の収集です。ここでは、一般的に必要となる書類を一覧にしました。チェックリストとしてご活用ください。裁判所のウェブサイトで書式をダウンロードできるものも多いです。

【一般的に必要となる主な書類】

  • 申立書
  • 申立事情説明書
  • 本人の財産目録及びその資料(預貯金通帳のコピー、不動産登記事項証明書など)
  • 本人の収支予定表及びその資料(年金通知書のコピー、領収書など)
  • 後見人等候補者事情説明書(候補者を立てる場合)
  • 親族関係図
  • 本人の戸籍謄本(発行後3ヶ月以内)
  • 本人の住民票又は戸籍附票(発行後3ヶ月以内)
  • 後見人等候補者の住民票又は戸籍附票(発行後3ヶ月以内)
  • 診断書(家庭裁判所指定の書式、発行後3ヶ月以内)
  • 登記されていないことの証明書(法務局で取得、発行後3ヶ月以内)

【状況によって必要になる書類】

  • 親族の同意書(後見開始や候補者について同意がある場合)
  • 愛の手帳や精神障害者保健福祉手帳のコピー(お持ちの場合)
  • 不動産、生命保険、有価証券などの資料

【集める際のコツ】

  • 診断書は最優先で!:医師に作成を依頼してから時間がかかることが多いので、一番初めに取り掛かりましょう。
  • 有効期限に注意:戸籍謄本や住民票などは「発行後3ヶ月以内」という指定があります。早めに取得しすぎないように計画を立てましょう。
  • 財産目録は正確に:財産目録は、後見人が管理する財産の基礎となる重要な書類です。預貯金だけでなく、不動産、保険、負債(ローンなど)も漏れなく記載する必要があります。

これらの書類を不備なく揃えるのは、慣れていないと大変な作業です。もしご自身で進めるのが難しいと感じたら、無理せず専門家を頼ることも検討してください。

参照:裁判所「後見開始の申立書」

誰が申立てできる?申立人と後見人候補者について

法定後見の申立てができる人(=申立権者)は、法律で決まっています。誰でも申立てができるわけではありません。

主な申立権者は、本人、配偶者、そして4親等内の親族です。

成年後見の申立権者である4親等内の親族の範囲を示した家系図。本人を中心に、子、親、兄弟姉妹、いとこなどの関係性が図解されている。

「4親等」と言われても、すぐにはピンとこないかもしれませんね。具体的には、以下の範囲の方々が含まれます。

  • 1親等:子、親
  • 2親等:孫、祖父母、兄弟姉妹
  • 3親等:ひ孫、曽祖父母、おじ・おば、おい・めい
  • 4親等:いとこ、大おじ・大おば、など

このように、かなり広い範囲の親族に申立てをする権利が認められています。また、ご本人に身寄りがない場合には、お住まいの市区町村長が申立てを行うこともあります。

ここで大切なのは、「申立てができる人」と「後見人になれる人」は別だということです。申立ての際に、ご家族を「後見人候補者」として推薦することはできます。しかし、最終的に誰を成年後見人に選任するかは、ご本人の財産状況や親族関係などを総合的に考慮して、家庭裁判所が判断します。この点は、申立てをする上で必ず理解しておきましょう。
より具体的な手順については、身寄りがない方の成年後見申立てをご覧ください。

家庭裁判所の面談では何を聞かれる?準備と心構え

「裁判所での面談」と聞くと、なんだか厳しく問い詰められるようなイメージを持ってしまい、緊張される方が非常に多いです。しかし、面談は決してあなたを試す場ではありません。調査官は、ご本人にとって最も良い形の後見を実現するために、必要な情報を集めようとしているのです。

面談の目的は、主に以下の点を確認することです。

  • なぜ申立てをしようと思ったのか
  • ご本人の現在の生活や心身の状況
  • ご本人の財産がどれくらいあり、誰が管理しているか
  • 後見人候補者は、どのような形でご本人を支えていきたいか
  • 他の親族は、この申立てについてどう考えているか

具体的には、以下のような質問をされることが多いでしょう。

【よく聞かれる質問リスト】

  1. 申立ての動機について
    「今回、申立てをしようと思われた一番のきっかけは何ですか?」
    「いつ頃から、ご本人の判断能力に変化を感じ始めましたか?」
  2. ご本人の生活状況について
    「最近、金銭管理はどなたがされていますか?ご自身でできていますか?」
    「食事や身の回りのことは、お一人でできますか?」
  3. 財産について
    「預貯金はどの銀行に、およそいくらくらいありますか?」
    「不動産はお持ちですか?」「保険には加入されていますか?」
  4. 後見人候補者について
    「後見人に選ばれたら、具体的にどのようなことをしてあげたいですか?」
    「ご自身の生活状況や健康状態に問題はありませんか?」
  5. 親族関係について
    「他のご兄弟は、今回の申立てについてご存知ですか?反対などされていませんか?」

これらの質問に対して、完璧な答えを用意する必要はありません。大切なのは、正直に、ありのままを話すことです。もし分からないことがあれば、「分かりません」「調べてから回答します」と伝えれば大丈夫です。私たち司法書士が申立てをお手伝いする場合、事前に面談で確認されやすい事項を整理し、裁判所の許可が得られる場合には面談への同席等のサポートを行います。

申立て前に知っておきたい注意点|後見人の権限と限界

成年後見制度は、判断能力が不十分な方を守るための非常に強力な制度ですが、万能ではありません。申立てをしてから「こんなはずじゃなかった」と後悔しないために、制度の限界や注意点も知っておきましょう。

1. 一度開始すると、原則としてやめられない
成年後見は、ご本人の判断能力が回復しない限り、亡くなるまで続きます。家庭の事情で「やっぱりやめたい」と思っても、簡単には取り下げられません。非常に重い責任が伴うことを覚悟する必要があります。

2. 財産はあくまで「本人のため」にしか使えない
後見人は、ご本人の財産を守るのが仕事です。たとえ家族であっても、ご本人の財産を家族の生活費に使ったり、お孫さんにお祝い金をあげたりすることはできません。「親のお金だから」という感覚でいると、後で裁判所から厳しく指摘される可能性があります。

3. 積極的な資産運用や相続税対策はできない
後見人の役割は、財産を「維持・管理」することです。リスクのある株式投資などの積極的な資産運用や、生前贈与といった相続税対策を行うことは、原則として認められていません。

4. 医療行為への同意はできない
延命治療を中止するかどうか、手術に同意するかどうかといった、ご本人の身体の根本に関わる医療行為への同意権(インフォームド・コンセント)は、後見人の権限には含まれていません。

5.保証人になることが出来ない                                施設に入所する際に、施設側から後見人に保証人になることを求めれられることがありますが、利益相反行為になる恐れがあることから保証人になることは出来ません。

これらの制約を理解した上で、それでもなお制度を利用する必要があるのかを慎重に判断することが大切です。

手続きは自分でできる?司法書士に依頼するメリット

「これだけ複雑なら、専門家に任せた方がいいのだろうか…」そうお考えになる方もいらっしゃるでしょう。もちろん、時間をかけてご自身で申立ての手続きを行うことも可能です。

【自分で手続きする場合】

  • メリット:専門家への報酬がかからず、費用を安く抑えられる。
  • デメリット:多くの時間と手間がかかる。書類に不備があると、何度も裁判所とやり取りが必要になり、かえって時間がかかってしまうリスクがある。

一方で、私たち司法書士にご依頼いただくことには、費用以上のメリットがあります。

【司法書士に依頼するメリット】

  1. 時間的・精神的な負担を大幅に軽減できる
    煩雑な書類の収集や作成をすべてお任せいただけるので、あなたはご家族のケアに専念できます。「何から手をつければ…」という精神的なストレスからも解放されます。
  2. 正確な書類作成で、手続きがスムーズに進む
    私たちは、裁判所がどのような情報を求めているかを熟知しています。ポイントを押さえた正確な申立書を作成することで、その後の審理が円滑に進み、結果的に後見開始までの時間を短縮できる可能性があります。
  3. 裁判所への的確な事情説明ができる
    ご家族の状況や申立ての背景には、書類だけでは伝わらない複雑な事情があるものです。私たちは、そうした事情を法的な観点から整理し、裁判所に的確に伝えるお手伝いをします。
  4. 法的な観点から必要事項を整理できる
    後見の申立てでは、親族間で意見が分かれることもあります。司法書士は、裁判所提出書類の作成や手続きに関する相談を通じて、申立てに必要な事実関係や資料を整理するサポートを行います。

えなみ司法書士事務所では、初回のご相談は無料です。また、お忙しい方や外出が難しい方のために、ご自宅などご指定の場所への無料出張相談も行っております。平日はもちろん、土日祝日も夜21時まで対応しておりますので、お仕事帰りなど、ご都合の良い時間にご連絡ください。
まずはご相談時に確認することをお読みいただき、一人で抱え込まず、お気軽にお話をお聞かせいただければと思います。

法定後見の申立てに関する無料相談

おひとりさまの認知症対策|任意後見と法定後見を徹底比較

2026-07-07

「もし私が認知症になったら…」お一人様の不安に寄り添う備え

「もし自分が認知症になったら、お金の管理はどうなるんだろう」「誰にも迷惑をかけたくないけれど、一体誰を頼ればいいのか…」。お一人で暮らしていると、ふとした瞬間にそんな不安がよぎることはありませんか。

現代では、生涯未婚の方、お子さんがいらっしゃらないご夫婦、パートナーと離別・死別された方など、お一人で人生を歩む方の割合は年々増えています。ですから、こうしたお悩みは、決してあなただけが抱える特別なものではありません。

漠然とした不安は、知らないことから生まれます。でも、大丈夫です。元気な今だからこそ、未来の自分のためにできることがあります。この記事では、認知症に備えるために知っておきたい制度と検討ポイントを整理します。認知症に備えるための代表的な制度である「任意後見」と「法定後見」。この二つの違いを、お一人様の視点から一つひとつ整理していきます。将来の財産管理の全体像については、遺言・後見・死後事務委任契約の違いで体系的に解説していますので、併せてご覧ください。

【お一人様向け徹底比較】任意後見と法定後見、5つの重要ポイント

それでは、さっそく「任意後見」と「法定後見」の違いを、お一人様にとって特に重要な5つのポイントに絞って見ていきましょう。どちらがご自身の希望やライフプランに合っているか、じっくり考えてみてくださいね。

任意後見と法定後見の違いを4つのポイント(後見人の選び方、意思の反映度、タイミング、費用)で比較した図解。お一人様の認知症対策に。

①後見人は誰になる?自分で選べるか、裁判所が決めるか

お一人様にとって、最も気になるのが「一体、誰が私の財産を守ってくれるの?」という点ではないでしょうか。ここが、両制度の最大の違いです。

  • 任意後見:
    あなたが「この人なら信頼できる」と思う人を、自由に選んでお願いできます。長年のご友人、信頼できるお付き合いのある方、あるいは私のような司法書士などの専門家が候補になります。
  • 法定後見:
    原則として、家庭裁判所が後見人を選びます。親族が候補者になることもありますが、お一人様の場合は、利害関係のない弁護士や司法書士などの専門家が選任されるケースが多くなります。

「自分のことをよく理解してくれている人に任せたい」という想いが強いなら、任意後見がしっくりくるかもしれません。一方で、「身近に頼れる人がいないからこそ、裁判所が選んだ中立的な専門家の方がかえって安心」と感じる方もいらっしゃるでしょう。ご自身の人間関係や価値観によって、どちらが良いかは変わってきます。身寄りのない方の成年後見の申立てについて、より詳しい情報もご用意しています。

②あなたの意思はどこまで通る?財産管理や生活方針の自由度

次に大切なのが、あなたの「こうしてほしい」という希望が、どれだけ尊重されるかという点です。

  • 任意後見:
    契約内容は、いわばオーダーメイドです。「毎月〇万円はお小遣いとして自由に使えるようにしてほしい」「長年可愛がっているペットの世話は、〇〇さんにお願いしたい」「もし施設に入るなら、海の見えるこの施設がいい」といった、あなたの具体的な希望を契約書に盛り込むことができます。
  • 法定後見:
    最も優先されるのは、本人の財産を堅実に保護することです。そのため、本人の利益にならない可能性のある行為、例えばご自身の判断で行う生前贈与や積極的な資産運用などは、原則として認められません。良くも悪くも「安全第一」の方針となります。

ご自身のライフスタイルや価値観を大切にしたいと考えるなら任意後見、何よりもまず財産を確実に守ることを重視するなら法定後見が、それぞれの考え方に近いかもしれません。

③費用はいつ、いくらかかる?契約時から亡くなるまでの総額

費用はとても現実的で重要な問題です。お金がかかるタイミングと金額が、両制度では異なります。

  • 任意後見:
    • 契約時:公証役場で公正証書を作成するための手数料(数万円程度)と、専門家に依頼した場合はその報酬が必要です。
    • 発効後(月々):後見人への報酬(契約で定めます。月額2〜5万円程度が目安)と、後見人を監督する「任意後見監督人」への報酬(家庭裁判所が決定。月額1〜3万円程度が目安)が亡くなるまでかかります。任意後見契約は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じます。
  • 法定後見:
    • 申立時:家庭裁判所への申立てにかかる費用(数万円〜。鑑定が必要な場合はさらに10万円前後)が必要です。
    • 開始後(月々):後見人への報酬(家庭裁判所が決定。財産額に応じて月額2〜6万円程度が目安)が亡くなるまでかかります。

任意後見では、後見人と監督人の2人分の報酬がかかる可能性がある点がポイントです。長期的に見るとどちらが高くなるかは一概には言えませんが、事前に大まかな費用感を把握しておくことが大切になります。

④いつから使える?元気なうちの「予防」か、倒れた後の「対処」か

制度を利用できるタイミングは、決定的に違います。これは、成年後見制度を検討する上で非常に重要な分かれ道です。

  • 任意後見:
    元気で、判断能力がはっきりしているうちにしか契約できません。これは、将来の判断能力低下に備えて、あらかじめ契約しておく制度です。判断能力が低下した後は、任意後見契約を有効に締結できない可能性があります。
  • 法定後見:
    すでに判断能力が低下してしまった後に、本人や親族などが家庭裁判所に申し立てて利用する制度です。こちらは、判断能力が低下した後に、家庭裁判所の手続を通じて本人を支援する制度です。

この違いは、「まだ元気だから大丈夫」ではなく、「元気な今だからこそ、任意後見という選択肢がある」ということを意味しています。

⑤【重要】誰が始める?お一人様が見落とす「監督人選任」の壁

ここが、お一人様にとって非常に重要な、専門家視点からのアドバイスです。

任意後見契約は、結んだだけでは効力がありません。実際にあなたの判断能力が低下した後、誰かが家庭裁判所に「任意後見監督人を選んでください」と申し立て、監督人が選ばれて初めてスタートします。

では、お一人様の場合、その「誰か」は一体誰なのでしょうか?

ご家族がいれば家族が申し立ててくれますが、お一人様の場合はそうはいきません。この問題を解決しないと、せっかく結んだ契約が必要な時期に開始されない恐れがあります。

一般的には、任意後見の候補者(受任者)自身が申立人となるよう、契約で定めておきます。しかし、受任者が遠方に住んでいたり、頻繁に会えなかったりすると、あなたの判断能力の低下に気づくのが遅れてしまうかもしれません。そのため、定期的に連絡を取り合ったり訪問したりする「見守り契約」を任意後見契約とセットで結んでおくことが、お一人様にとっては極めて重要になるのです。より詳しい情報については、身寄りのない方の申立てに関する情報も参考になります。

3分でわかる!あなたに合うのはどちら?簡単診断チャート

ここまで読んで、ご自身にはどちらが合っているか、少しイメージが湧いてきたでしょうか。ここで一度、簡単な質問に答えて、あなたの考えを整理してみましょう。

任意後見と法定後見のどちらが自分に合っているかを診断するフローチャート。「後見人にしたい人はいるか」などの質問に答えることで最適な選択肢がわかる。

「任意後見制度はひどい」は本当?よくある誤解と注意点

インターネットで検索すると、「任意後見制度はひどい」「使えない」といった少し不安になる言葉を目にすることがあるかもしれません。しかし、その多くは誤解や知識不足から生じているものです。専門家として、よくある懸念点に正直にお答えします。

誤解①「後見人に財産を使い込まれるのが心配…」

事実と対策:

任意後見では、家庭裁判所が選んだ「任意後見監督人」が、後見人の仕事ぶり(財産の管理状況など)を厳しくチェックします。財産目録や収支報告書を定期的に監督人に提出する義務があるため、不正が起こりにくい仕組みになっています。信頼できる人を選ぶことが大前提ですが、この二重のチェック機能があなたの財産を守ります。

誤解②「高額な報酬をずっと払い続けないといけないの?」

事実と対策:

後見人への報酬は、契約時にあなたと後見人候補者との間で自由に決めることができます。もちろん、相場はありますが、納得のいく金額で合意することが大切です。また、後見監督人への報酬は家庭裁判所が決定しますが、これも財産額などに応じて適正な範囲で決められます。

誤解③「一度始めたら、もうやめられないんでしょう?」

事実と対策:

任意後見監督人が選任される「前」であれば、公証人の認証を受けた書面で、比較的自由に契約を解除できます。しかし、監督人が選任された「後」は、正当な理由がなければ家庭裁判所の許可が必要となり、解除は難しくなります。状況が変わる可能性も考え、契約内容は慎重に決めることが重要です。近年の

成年後見制度の改正

の動きも、将来の制度利用を考える上で参考になるかもしれません。

どんな制度にもメリットとデメリットはあります。大切なのは、リスクを正しく理解し、信頼できる専門家と一緒に適切な対策を講じることです。

将来への準備を終え、自宅で安心した表情でお茶を飲む女性。お一人様の認知症対策が完了した安堵感を表現。

【実践編】お一人様が任意後見契約を結ぶための4ステップ

診断チャートで「任意後見が向いているかも」と感じた方のために、契約を結ぶまでの具体的な流れを4つのステップでご紹介します。

  1. ステップ1:後見人になってほしい人を決める
    これが最も重要で、悩ましいステップかもしれません。信頼できるご友人や親戚がいれば、まずは相談してみましょう。もし、身近に頼める方がいない場合は、私たちのような司法書士や弁護士、あるいは社会福祉法人などの専門家や法人に依頼することも有力な選択肢です。専門家を選ぶ際は、実績や費用だけでなく、何でも気軽に話せる「相性」も大切にしてください。
  2. ステップ2:誰に、何を、どこまでお願いするか決める
    財産管理(預貯金、不動産、年金など)や身上監護(介護サービスの契約、入院手続きなど)について、具体的に何を任せたいかを整理します。あなたの希望やライフプランを、後見人候補者としっかり共有しましょう。
  3. ステップ3:専門家と相談し、公正証書を作成する
    任意後見契約は、必ず公証役場で公正証書として作成しなければなりません。司法書士などの専門家が、あなたの希望を法的に有効な形で契約書に落とし込み、公証人とのやり取りもサポートします。
  4. ステップ4:契約後の「見守り体制」を整える
    契約を結んだら終わりではありません。先ほども触れましたが、いざという時に契約をスムーズにスタートさせるため、「見守り契約」などを活用して、後見人候補者と定期的にコミュニケーションを取る仕組みを作っておくことが、お一人様にとっては非常に重要です。

任意後見だけではない、お一人様の老後に備える関連契約

任意後見は、判断能力が低下した後に備えるための制度です。しかし、それだけではカバーしきれない部分もあります。より安心して過ごすために、以下の契約を組み合わせて検討する方法があります。

  • 財産管理委任契約:
    まだ判断能力はしっかりしているけれど、病気やケガで銀行に行くのが大変になった、といった場合に、判断能力が低下する「前」から財産管理を任せられる契約です。任意後見が始まるまでの期間を補う役割を果たします。
  • 見守り契約:
    先ほどから何度も出てきている重要な契約です。定期的な連絡や訪問を通じて、あなたの心身の状態を確認し、適切なタイミングで任意後見を開始するために、本人の状態を継続的に確認する契約です。
  • 死後事務委任契約:
    あなたが亡くなった「後」の、葬儀や納骨、役所への届出、家財道具の片付けといった手続きを任せる契約です。任意後見はあなたの死亡と同時に終了するため、その後のことを託しておくことで、最後まで安心できます。相続対策として生命保険の活用と合わせて考えておくことも有効です。

これらを組み合わせることで、判断能力が低下する前から亡くなった後まで、切れ目のないサポート体制を築くことができるのです。

お一人様の老後を守るための契約の組み合わせ。「任意後見」「財産管理」「見守り」「死後事務委任」の4つの契約が連携する仕組みを図解。

まとめ:不安がある今こそ、将来に備えた準備を

ここまで、お一人様の認知症対策として「任意後見」と「法定後見」を比較してきました。一番の違いは、未来の自分のために「自分で決めておく」か、いざという時に「第三者に決めてもらう」か、という点にあります。

不安な気持ちでこの記事を読み始めたかもしれませんが、今、あなたには次に何をすべきか、その道筋が少し見えてきたのではないでしょうか。

任意後見制度を活用することで、将来の財産管理や生活支援について、自分の希望をあらかじめ整理しておくことができます。最初の一歩を踏み出すのは、少し勇気がいるかもしれません。でも、その一歩が、これからの人生を安心して過ごすための大きな支えとなります。

もし、何から始めたらいいか分からない、自分にはどんな備えが合っているのか具体的に相談したい、と思われたら、どうぞお気軽にお声がけください。初回無料相談で、あなたに最適な備えを一緒に考えます。専門家へ相談することで、ご自身の状況に合った備えを具体的に検討しやすくなります。

成年後見制度2026年改正のポイント速報!司法書士が解説

2026-02-17

2026年成年後見制度改正で何が変わる?2つの重要ポイント

「親の判断能力が心配だけど、成年後見制度は一度使うとやめられないって聞くし…」
「財産を全部管理されるのは、なんだか大げさすぎる気がする…」

これまで成年後見制度の利用をためらう大きな理由となっていた、これらの不安。もしあなたも同じように感じているなら、ぜひ知っていただきたいのが、成年後見制度の見直しに向けて進められている議論(2026年度中の法改正を目指す動き)です。この改正は、制度が抱えていた大きな課題を解消し、もっと私たちに寄り添った、使いやすいものへと生まれ変わらせるための大きな一歩となります。

難しく考える必要はありません。ポイントはたったの2つです。これまでと何がどう変わるのか、あなたの生活にどんな良い影響があるのか、一緒に見ていきましょう。このテーマの全体像については、成年後見人を選ぶべき?専門家が判断基準と代替策を解説で体系的に解説しています。

ポイント1:「終わりのない後見」から「目的達成で終われる後見」へ

これまでの成年後見制度の大きな壁の一つは、「取り消しの審判を受けない限り、原則としてご本人が亡くなるまで続く」という、いわゆる終身型になりやすい点でした。例えば、認知症の親御さんの実家を売却するために制度を利用した場合、売却後も後見人の役割は続き、報酬も発生し続ける…。この重い負担が、利用をためらわせる大きな原因でした。

しかし、見直し議論では、この終身型になりやすい点を改める方向で検討が進められています。これにより、「特定の目的が達成されたら、後見を終了させる」といった、より柔軟な利用を可能にする案が示されています。

たとえば、「施設入所費用を捻出するために実家を売却する」という目的のためだけに後見制度を利用し、売却手続きが無事に終わった段階で後見人の役割も終了する、といった使い方ができるようになります。これは、制度利用の心理的、そして経済的なハードルを大きく下げる、画期的な変更点と言えるでしょう。

ポイント2:「すべてお任せ」から「必要なことだけ頼める」へ

もう一つの大きな変更点は、支援のあり方そのものが変わることです。現行制度では、ご本人の判断能力に応じて「後見」「保佐」「補助」という3つのタイプに分けられ、それぞれに支援の範囲が決められていました。しかし、この仕組みでは本人の意思とは関係なく、過剰な支援になってしまうケースも少なくありませんでした。

成年後見制度の2026年改正による変化を示した図解。「すべてお任せ」型だった現行制度が、改正後は「オーダーメイド」型へと変わり、より柔軟に利用できるようになることを比較している。

今回の見直し議論では、この3類型を一本化する案(「補助」をベースにする案)が検討されています。これは単なる制度の簡素化ではありません。「ご本人の意思を最大限尊重し、本当に必要な支援だけをオーダーメイドで設計する」という考え方への大きな転換を意味します。

これからは、「財産のすべてを管理してもらう必要はないけれど、この不動産の契約手続きだけは不安だから手伝ってほしい」といった、ピンポイントの依頼が可能になります。ご本人の自己決定権がより尊重されることで、安心して制度を利用できる環境が整うのです。

【ケース別】改正で私たちの生活はどう変わる?

では、この2つの大きな変更点が、私たちの具体的な悩みにどう影響するのでしょうか。「不動産を売りたい」「これから申立てを考えている」という、ご相談の多い2つのケースをもとに、改正前と後で何が変わるのかを見ていきましょう。

ケース1:認知症の親の不動産を売却したい場合

「父が介護施設に入ることになり、その費用を作るために実家を売りたい。でも、父は認知症で不動産の売買契約ができない…」

これは、非常に多くの方が直面する切実な悩みです。

【これまでの制度では…】
成年後見制度を利用して不動産を売却することは可能でした。しかし、先述の通り「終身制」が壁となります。不動産の売却という目的を果たした後も後見は続き、ご本人が亡くなるまで専門家への報酬が発生し続けました。これが負担となり、制度の利用に踏み切れない方もいらっしゃいました。

【改正後の制度では…】
「不動産の売却」という目的を定めて後見を開始し、売却手続きが完了した時点で後見を終了できるようにする案が示されています。これにより、必要な期間だけ専門家のサポートを受け、費用負担を最小限に抑えながら目的を達成できるようになるのです。これまで費用面でためらっていた方にとって、不動産の売却という大きな課題を乗り越えるための、心強い選択肢となるでしょう。

ケース2:これから成年後見の申立てを考えている場合

「母の預金の管理や、介護サービスの契約手続きが難しくなってきた。そろそろ成年後見の申立てを考えたほうがいいかもしれない…」

【これまでの制度では…】
申立てをすると、家庭裁判所が医師の診断書などをもとに「後見」「保佐」「補助」のいずれかに分類しました。これにより、本人が「ここだけ手伝ってほしい」と思っていても、必要以上に権限が制限されてしまう可能性がありました。

【改正後の制度では…】
(仮に)類型の一本化が実現すれば、ご本人の状態や希望に応じて、より柔軟に支援内容を設計できるようになると期待されています。「預金の引き出しは家族ができるから、高額な契約を結ぶときだけ専門家の同意が必要」といった、一人ひとりの状況に合わせた「オーダーメイド型の支援」が基本となります。これにより、ご本人の意思がより尊重され、過剰な介入を防ぐことができるため、安心して申立てを検討できるようになるはずです。

専門家が回答「改正を待つべき?今すぐ動くべき?」

「改正で制度が使いやすくなるのは分かった。でも、うちは今すぐ動くべき?それとも2026年の改正を待ったほうがいいの?」

これは、皆さんが最も悩むポイントだと思います。司法書士として、この問いにお答えするための判断軸を2つお伝えします。それは「緊急性」と「目的」です。

「今すぐ動くべき」ケースとは?

法改正を待つこと自体が大きなリスクになる、待ったなしの状況があります。もし、以下のケースに当てはまる場合は、現行制度であっても速やかに申立てを行い、ご本人を保護することを最優先に考えるべきです。

  • 親の預金口座が凍結され、生活費や医療費の支払いに困っている
  • 悪質な訪問販売のターゲットにされるなど、消費者被害に遭う危険が迫っている
  • 親族間で財産をめぐるトラブルが起きており、本人の財産が脅かされている

このような緊急性の高い状況では、改正を待つ数年間に取り返しのつかない事態が起こる可能性があります。まずはご本人の安全と生活を守ることが何よりも重要です。

リビングで娘が年配の母親の手を握り、真剣に話を聞いている。将来の不安について親子で話し合うことの重要性を示唆している。

「改正を待つのも選択肢」になるケースとは?

一方で、そこまで緊急性が高くない場合は、改正を待つことも有力な選択肢となります。

  • 今は家族のサポートで問題なく生活できているが、将来に備えておきたい
  • 不動産売却を考えているが、特に時期を急いでいるわけではない

これらのケースでは、改正後の「目的達成で終了できる」「必要なことだけ頼める」という柔軟な制度を利用するメリットが大きいと考えられます。ただし、「待つ」と決めた場合でも、何もしないのは得策ではありません。ご本人の判断能力がはっきりしているうちに、任意後見や家族信託といった他の選択肢を検討するなど、「今できる準備」を進めておくことが非常に大切です。

法改正を見据え、今から準備できること

改正を待つにせよ、今動くにせよ、最も大切なのは「ご本人の意思」です。判断能力がはっきりしているうちに行動を起こすことで、選択肢は大きく広がります。

任意後見契約や家族信託も選択肢に

成年後見制度(法定後見)は、すでにご本人の判断能力が低下してしまった後の、いわば最終手段です。そうなる前に、ご本人の意思で将来の財産管理や身上監護について決めておく方法があります。

  • 任意後見契約:「もし将来、判断能力が衰えたら、この人(任意後見人)に、このような支援をお願いします」と、あらかじめ公正証書で契約しておく制度です。財産管理だけでなく、介護サービスの契約といった身上監護も任せることができます。
  • 家族信託:特定の財産(例えば、実家の不動産や預金)の管理・処分を、信頼できる家族に託す契約です。不動産の売却や賃貸経営など、柔軟な財産管理が可能で、特に財産管理が主な目的の場合に有効な手段となります。

どちらの制度が適しているかは、ご家族の状況やご本人の希望によって異なります。成年後見以外の選択肢も視野に入れ、最適な方法を検討することが大切です。

家族会議で意思を確認しておく

どんな制度を選ぶか以前に、最も重要で、そして最初に行うべき準備は「家族での話し合い」です。

ご本人が元気なうちに、親子で、ご兄弟で、将来について話し合う時間を作りましょう。

  • 将来、どんな場所で、どのように暮らしたいか
  • 財産の管理は誰に任せたいか
  • 延命治療についてどう考えているか

こうしたデリケートな話題は、つい後回しにしがちです。しかし、ご本人の意思が分からなくなってからでは、家族がすべてを決めなければならず、大きな負担と後悔に繋がることも少なくありません。エンディングノートなどを活用して、ご本人の想いを書き留めてもらうのも良い方法です。また、遺言書の作成も、相続時のトラブルを防ぎ、ご本人の意思を実現するための有効な手段となります。法的な手続きだけでなく、家族の絆を深めるためにも、ぜひ対話の機会を持ってください。

まとめ:成年後見制度の改正は、あなたと家族の未来を守るための大きな一歩です

2026年に予定されている成年後見制度の改正は、これまで多くの方が感じていた「使いにくさ」を解消し、より一人ひとりの意思と現実に寄り添う制度へと生まれ変わる、非常にポジティブな変化です。

「終わりのない後見」から「目的達成で終われる後見」へ。
「すべてお任せ」から「必要なことだけ頼める後見」へ。

この変化は、あなたとあなたの大切なご家族の未来を守るための、大きな希望となるはずです。

親御さんの将来について悩むことは、決して特別なことではありません。多くの方が同じ不安を抱えています。大切なのは、一人で抱え込まず、正しい情報を得て、早めに準備を始めることです。

今回の法改正について、あるいはご自身の状況でどの選択肢が最適なのか、少しでもご不安な点があれば、どうぞお気軽にご相談ください。あなたとご家族に寄り添い、最善の道筋を一緒に考えさせていただきます。

成年後見制度に関するお問い合わせ

参照:法制審議会-民法(成年後見等関係)部会

契約満了後の借地トラブル解決法|借地人の退去方法

2026-01-15

契約満了後も住み続ける借地…地主様のその善意が招く法的リスク

「契約期間はとっくに満了しているのに、長年の付き合いだからと強く言えず、そのまま住んでもらっている…」
「土地を貸していた親戚が亡くなった。建物が残ったままだが、相続人が誰なのか分からない…」

このような状況に、頭を悩ませていらっしゃる地主様は少なくありません。特に、当事務所にご相談いただくケースで多いのが、親戚に土地を貸していた、というものです。契約が満了しても、親戚関係ということもあり、建物を片付けて出ていってほしいとは言い出しにくい。そうこうしているうちに、その親戚の方が亡くなってしまい、問題がより複雑になってしまった、というご相談でした。

お世話になった方への温情や善意から占有を黙認しているそのお気持ち、痛いほどよく分かります。しかし、その「善意」が、法的には「黙示の更新」とみなされ、意図せず借地契約が継続している状態になってしまったり、相続が絡むことで解決がさらに困難になったりするリスクをはらんでいるのです。

このまま放置してしまうと、ご自身の土地であるにもかかわらず、思うように活用できなくなるばかりか、次世代にまで問題を先送りしてしまうことになりかねません。この記事では、司法書士として、このような複雑に絡み合った借地問題を法的に整理し、円満な解決へと至るための道筋を分かりやすく解説していきます。一人で抱え込まず、まずは現状を正しく把握することから始めましょう。

相続が関係する複雑な手続きの全体像については、遺産整理業務(相続手続きのサポート)で体系的に解説しています。

まず確認すべきこと:「黙示の更新」は成立していますか?

契約満了後の借地トラブルを解決する上で、最初に確認すべき最も重要なポイントは、「黙示の更新」が成立しているかどうかです。これは、地主様と借地人(またはその相続人)との間に、今も法的な契約関係が続いているのか、それとも完全に終了しているのかを判断する上で、決定的な違いを生むからです。

借地借家法では、借地権の存続期間が満了する場合に、借地権者が契約の更新を請求したときや、満了後も土地の使用を継続するときは、土地上に建物がある場合に限り、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(いわゆる法定更新)。ただし、借地権設定者(地主)が遅滞なく異議を述べたときは、この限りではありません。言葉は難しく聞こえますが、要は「暗黙の了解で契約が続いている」と法的に判断される状態を指します。

「黙示の更新」が成立するケースとしないケースを比較する図解。地代の受領や異議の有無が判断のポイントであることを示している。

地代を受け取り続けている場合のリスク

「黙示の更新」が成立してしまう最も典型的なケースが、契約期間が満了した後も、地主様が地代を受け取り続けている場合です。地主様としては「住み続けているのだから、せめて地代くらいは」というお気持ちかもしれません。しかし、法的には、地代を受け取るという行為は「契約の継続を承認した」と解釈される可能性が非常に高いのです。

特に、何の異議も唱えずに地代を受け取ってしまうと、後になって「契約は満了していたはずだ」と主張しても、その言い分が認められにくくなります。この状態は、地主様にとって、将来的に土地の明け渡しを求める際に「正当事由」が必要になったり、高額な立ち退き料の支払いが必要になったりする、極めて不利な状況と言えるでしょう。

地代は受け取っていないが、退去を求めていない場合

では、地代は受け取っていないものの、特に退去を求めず、占有を黙認している場合はどうでしょうか。この場合、直ちに「黙示の更新」が成立するとまでは言えないかもしれません。しかし、この状態を長期間放置することは、決して得策ではありません。

なぜなら、長期間にわたって平穏に占有が続いたという事実が、相手方の権利を保護する方向で考慮されたり、いざ明け渡しを求める際に、解決金(事実上の立ち退き料)を支払わなければ交渉がまとまらなくなったりする可能性があるからです。問題を先送りにすることは、静かにリスクを育てているのと同じことなのです。

参照:借地借家法(平成三年法律第九十号)

【状況別】契約満了後の借地人を退去させるための正しい手順

ご自身の状況が「黙示の更新」に当たる可能性があるか、それとも契約は完全に終了していると言えるか、おおよその見当がついたでしょうか。ここからは、具体的な状況に合わせて、問題を解決するための正しい手順を解説していきます。

ケース1:相続人が判明している場合の手順

亡くなった借地人の相続人が誰か分かっている場合は、まずその相続人との話し合いから始めることになります。感情的にならず、法的な権利と義務に基づいて冷静に交渉を進めることが重要です。

  1. 意思の明確な伝達
    まずは内容証明郵便などを利用して、(更新が成立していない場合には)借地契約が期間満了により終了していること、または(更新が成立している場合には)契約関係を整理したいこと、そして地主としては土地上に残っている建物を収去して土地を明け渡してほしい、という意思を明確に伝えます。これにより、後のトラブルを防ぐための証拠にもなります。
  2. 建物収去義務と建物買取請求権の確認
    交渉の最大のポイントは、残された建物をどうするかです。原則として、契約が終了した場合、借地人(その地位を継いだ相続人)は建物を収去して土地を更地に戻す義務(建物収去土地明渡義務)を負います。しかし、契約の状況によっては、借地人側から「この建物を時価で買い取ってください」と請求できる権利(建物買取請求権)が認められる場合もあります。どちらの権利が優先されるかは専門的な判断が必要ですが、これらの法的知識を前提に交渉を進めることが不可欠です。
  3. 交渉から法的手続きへ
    話し合いで円満に解決できれば一番ですが、どうしても合意に至らない場合は、裁判所に「建物収去土地明渡請求訴訟」を提起することになります。なお、相続人が複数いるにもかかわらず、中には連絡が取れない相続人がいて交渉が進まないケースもあります。

ケース2:相続人不明・相続放棄された場合の手順

借地人が亡くなり、戸籍を調べても相続人が見つからない、あるいは全ての相続人が相続放棄をしてしまった、というケースは最も対応が困難です。なぜなら、交渉する相手が誰もいないからです。この場合、個人間の話し合いでの解決は不可能であり、家庭裁判所を通じた法的な手続きが必須となります。

相続人不明の借地トラブル解決フローチャート。家庭裁判所への相続財産管理人選任申立てから、管理人との交渉までの流れを示している。

その手続きとは、「相続財産清算人(※2023年4月1日施行の改正民法により、従来『相続財産管理人』と呼ばれていた清算手続の担い手の名称が変更されました)」の選任を家庭裁判所に申し立てることです。

相続財産管理人とは、亡くなった方の財産(借地上の建物など)を管理・清算するために、裁判所によって選ばれる専門家(主に弁護士など)です。地主様がこの申立てを行うことで、ようやく建物の収去や土地の明け渡しについて法的に交渉・手続きを進めるための「相手方」が作られるのです。

ただし、この手続きには注意点があります。この手続では、相続財産の内容等から相続財産清算人が円滑に事務を行うための費用(報酬を含む。)に不足が出る可能性がある場合、申立人が裁判所から予納金の納付を求められることがあります。もちろん、亡くなった方に十分な財産が残っていれば、そこから費用は支払われますが、財産がなければ予納金は戻ってこない可能性もあります。

非常に専門的で複雑な手続きとなるため、この状況に当てはまる場合は、速やかに専門家へ相談することをお勧めします。

より具体的な手順については、財産管理制度をご覧ください。

参照:相続財産清算人の選任

立ち退き料は必要?相場と判断基準を司法書士が解説

地主様が最も気になる点の一つが「立ち退き料」ではないでしょうか。果たして支払う必要があるのか、あるとすれば相場はいくらなのか、解説します。

まず大原則として、借地契約が期間満了によって明確に終了している場合、地主様に立ち退き料の支払い義務は法的にはありません。明け渡しは、契約終了に伴う当然の義務だからです。

一方で、先ほど解説した「黙示の更新」が成立していると判断される場合は、話が大きく異なります。この状態は法的に契約が続いているのと同じですから、地主様から契約の更新を拒絶するためには「正当事由」が必要になります。そして、地主様側の土地利用の必要性といった事情だけでは正当事由が十分でない場合に、その不足分を補う目的で、立ち退き料の提供が考慮されるのです。

立ち退き料に法律で定められた明確な相場はありませんが、一般的には借地権価格の数割程度や、建物の移転にかかる実費などを基準に、個別の事情を考慮して交渉で決められることが多いです。原則不要なケースと、正当事由を補うために必要となるケースがあることを、しっかりと理解しておくことが重要です。

残された建物の解体(建物収去)は誰の義務と費用か?

土地の上には、まだ借地人が建てた建物が残っています。この建物の解体、すなわち「建物収去」の義務と費用は、一体誰が負うのでしょうか。

この問題も、法的な原則は明確です。建物を収去する義務を負うのは、借地人(またはその相続人)であり、その費用も借地人側が負担するのが原則です。

しかし、これも現実には様々なケースがあります。

  • 相続人がいる場合:相続人が義務と費用を負担します。ただし、交渉を円滑に進めるため、地主様が解体費用の一部を負担する(立ち退き料に含めるなど)ことで、早期解決を図るケースも少なくありません。
  • 相続人が不明・相続放棄した場合:選任された相続財産管理人が、亡くなった方の財産の中から解体費用を捻出します。しかし、財産が全くない場合は、前述の通り、地主様が裁判所に納めた予納金から費用が支払われることになり、事実上、地主様の負担となってしまう可能性があります。

また、前述の「建物買取請求権」が借地人側にある場合は、地主様が建物を時価で買い取ることになり、収去義務も費用負担も地主様側に移ることになります。状況によって結論が大きく変わるため、慎重な判断が求められます。なお、亡くなった方の建物を解体する際の手続きについても、複雑な点が多いため注意が必要です。

複雑な借地問題は、一人で悩まず専門家にご相談ください

ここまでお読みいただき、契約満了後の借地問題が、いかに複雑で専門的な知識を要するかお分かりいただけたかと思います。特に、

  • 地代を受け取り続けており「黙示の更新」の可能性が高いケース
  • 借地人が亡くなり、相続人が不明または相続放棄されているケース

このような状況では、ご自身だけで対応しようとすると、かえって問題をこじらせてしまったり、法的に不利な立場に陥ってしまったりする危険性があります。

私たち司法書士のような専門家にご相談いただければ、まずは現在の状況を法的に正確に分析し、考えられるリスクと解決への道筋を丁寧にご説明します。その上で、必要であれば相続財産管理人選任の申立てといった裁判所の手続きまで、一貫してサポートすることが可能です。

長年心の中にあった重荷を、一人で抱え続ける必要はありません。円満な解決に向けて、私たちが全力でサポートいたします。まずはお気軽にお気持ちをお聞かせください。

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隣の家の木の枝が伸びてきた。切取ってもいい?(新民法)

2023-05-04

ゴールデンウイーク真っ只中です。旅行を楽しんでいる方もいらっしゃるでしょう。混雑を避け家でまったり日頃できなかった庭掃除などをされている方もいらっしゃるでしょう。そんな方のために今年の4月施行の新民法の「越境した竹木の枝の切取り」の制度をご紹介します。

 旧民法(233条)では、土地の所有者は、隣地の竹木の根が境界線を越えるときは自らその根を切り取ることができるが、枝が境界線を越えるときはその竹木の所有者に枝を切除させるよう請求できるにとどまっておりました。

 このような根と枝の取り扱いの違いは民法の七不思議の一つとされ、受験時代意味も分からず暗記をしました(本試験にも出題されました)。そればかりか竹木の所有者が枝を切除しない場合には、訴えを提起し切除を命ずる判決を得て強制執行の手続きを取る他なく、土地の所有者には過重な負担を強いる問題がありました。

 そこで、新民法は越境された土地の所有者は、竹木の枝を切除させる必要があるという原則を維持しつつ、次のいずれかの場合には、枝を自ら切取ることができることとしました(223条Ⅲ項)。

①竹木の所有者に越境した枝を切除するよう催告したが竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき                                               ②竹木の所有者知ることができず、又はその所在を知ることができないとき              ③急迫の事情があるとき 

 ただ、法律の世界は自力救済が禁止され、相手に法的な請求をする場合は裁判所に訴えを提起し、判決を得て執行することが大原則です。この制度はこの自力救済禁止の原則に例外を認める制度です。なので①~③の要件を充たしているか、枝が本当に境界線を越えているか(境界線に争いがないか)を慎重に判断をする必要があると思います。                                尚、越境された土地所有者が自ら枝を切り取る場合の費用については、枝が越境して土地所有権を侵害していることや、土地所有者が枝を切り取ることにより竹木の所有者が本来負っている枝の切除義務を免れることを踏まえ、基本的には、竹木の所有者に請求できると考えられているようです(民法703条、709条)。 

 

        

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