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負担付死因贈与と遺贈の違いを比較|専門家が注意点を解説
「負担付死因贈与」と「遺贈」でお悩みの方へ
「長年連れ添ったパートナーに、財産の大部分を確実に残したい」
「自分の介護を最後まで担ってくれる約束で、自宅を譲りたい」
このようにお考えの方が、ご自身の亡き後に特定の誰かへ財産を渡す方法として、「負担付死因贈与(ふたんつきしいんぞうよ)」と「遺贈(いぞう)」という選択肢があります。
しかし、この二つの方法は似ているようで、実は重要な違いがたくさんあります。「どちらが自分の想いを叶えるのに最適なのだろう?」「手続きが複雑そうで、何から手をつけていいか分からない…」と、専門用語の多さに戸惑い、一人で悩んでいらっしゃるのではないでしょうか。
ご安心ください。この記事では、相続手続きを専門とする司法書士が、まるでカウンセリングでお話を伺うように、あなたの疑問や不安に一つひとつ丁寧にお答えしていきます。
この記事を最後までお読みいただければ、
- 負担付死因贈与と遺贈の決定的な違いが明確になります。
- ご自身の状況や想いに、どちらの方法が合っているか判断できるようになります。
- 手続きを確実にするためのポイントや、費用の目安がわかります。
あなたの「大切な人へ、大切な財産を確実に届けたい」という想いを実現するため、まずは一緒に知識を整理し、最適な道筋を見つけていきましょう。

負担付死因贈与と遺贈の5つの重要な違いを比較
まずは、負担付死因贈与と遺贈の最も重要な違いを5つのポイントに絞って見ていきましょう。言葉は難しいですが、一つひとつの意味を理解すれば、決して怖いものではありません。両者の根本的な性質の違いを知ることが、最適な選択への第一歩です。
| 比較項目 | 負担付死因贈与 | 遺贈 |
|---|---|---|
| ① 決め方 | 双方の合意(契約) | 一方的な意思表示(遺言) |
| ② 形式 | 口頭でも可能(契約書推奨) | 法律で定める厳格な書式が必須 |
| ③ 撤回 | 原則、一方的には撤回できない(負担履行後) | いつでも自由に撤回できる |
| ④ 不動産登記 | 生前に仮登記ができる | 仮登記はできない |
| ⑤ 税金・費用 | 不動産取得税がかかる | 不動産取得税は原則かからない(特定遺贈・相続人以外は課税) |
違い① 決め方:双方の「合意(契約)」か一方的な「意思表示(遺言)」か
最も根本的な違いは、その成立の仕方にあります。
- 負担付死因贈与:「私が亡くなったら、この家をあなたにあげます。その代わり、私が生きている間は生活の面倒を見てくださいね」という贈与者(あげる側)の申込みに対し、受贈者(もらう側)が「わかりました、お世話します」と承諾することで成立する、お互いの合意に基づく「契約」です。双方の意思が合致して初めて成り立ちます。
- 遺贈:遺言者が「私が亡くなったら、この家を〇〇さんに遺贈する」と、一方的な意思表示で遺言書に書き記すことで成立します。相手の同意は必要なく、亡くなるまで相手に知らせないことも可能です。
この「契約」か「単独行為」かという違いが、後の撤回のしやすさなど、様々な面に影響してくる重要なポイントです。
違い② 形式:口頭でも成立するか「厳格な書式」が必須か
次に、形式の違いです。
- 負担付死因贈与:契約ですので、極端な話、口約束でも成立します。
- 遺贈:必ず、民法で定められた厳格な方式(自筆証書遺言、公正証書遺言など)に従って遺言書を作成しなければ無効となります。
「口約束でもいいなら、死因贈与は簡単だ」と思われるかもしれませんが、これは大きな落とし穴です。亡くなった後では「言った、言わない」の水掛け論になり、他の相続人との間で深刻なトラブルに発展するケースが後を絶ちません。そのため、死因贈与契約を結ぶ際は、後でご紹介する「公正証書」という形で契約書を作成することが、ご自身の想いを守るために極めて重要になります。
違い③ 撤回:条件によって「撤回できない」場合があるか
一度決めた内容を後から変えられるか、という点も大きな違いです。
- 遺贈:遺言は、遺言者の最終の意思を尊重する制度です。そのため、いつでも自由に遺言書を書き直すことで、内容を撤回・変更できます。
- 負担付死因贈与:こちらは少し複雑です。民法上は遺贈のルールが準用されるため、原則として撤回は自由とされています。しかし、「負担付」の場合、受贈者(もらう側)がすでに負担(介護など)の全部または一部を履行している場合は、一方的に契約を撤回することは信義に反するため、特段の事情がない限り撤回できない、というのが判例(最判S57.4.30)の考え方です。
これは、贈与者(あげる側)にとっては自由度が低いデメリットに感じられるかもしれません。しかし、受贈者(もらう側)からすれば、「約束通りお世話をしたのに、後から一方的に約束を破棄される心配がない」という大きなメリットになります。

違い④ 不動産登記:「仮登記」で権利を保全できるか
不動産を渡したいとお考えの方にとって、これは決定的に重要な違いであり、私たち司法書士が最も専門性を発揮するポイントです。
- 負担付死因贈与:契約を結んだ後、贈与者が生きている間に、不動産の所有権が将来移転することを公示する「始期付所有権移転仮登記」という手続きができます。
- 遺贈:遺言はあくまで遺言者が亡くなってから効力が発生するため、生前に仮登記をすることはできません。
では、仮登記をすると何が良いのでしょうか?
仮登記をしておけば、万が一、贈与者が亡くなる前にその不動産を第三者に売ってしまったり、贈与者の借金のカタに差し押さえられたりしても、「この不動産の所有権は、将来私に移転することが決まっています」と第三者に対して主張(対抗)できます。つまり、もらう権利を法的に保全し、横取りされるリスクを防ぐことができるのです。
不動産を確実に渡したいと強く願うのであれば、この仮登記ができるという点は、死因贈与契約の非常に大きなメリットと言えるでしょう。(古い抵当権・仮登記の抹消|相続時のリスクと解決策を解説)
違い⑤ 税金・費用:手続きにかかるコストの違い
手続きにかかる税金や費用も気になるところですよね。まず、どちらの方法でも、遺産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合には、財産を受け取った側に相続税が課税される可能性があります。
違いが大きく出るのは、不動産の名義変更(登記)にかかる税金です。
- 不動産取得税
- 負担付死因贈与:本則は不動産の価額の4%ですが、宅地や住宅については、一定の要件下で軽減税率(3%)が適用される場合があります。適用要件や期限は変更される可能性があるため、詳細は取得時点の都道府県税事務所等にご確認ください。
- 遺贈:相続人が遺贈で取得した場合は非課税です。相続人以外が取得した場合は課税されます。
- 登録免許税(登記の際の税金)
- 負担付死因贈与:不動産の価額の2%です。
- 遺贈:相続人が遺贈で取得した場合は0.4%、相続人以外が取得した場合は2%です。
このように、財産を渡す相手が法定相続人(配偶者や子など)である場合は、遺贈の方が税制面で大きく優遇されています。これは重要な判断材料の一つになります。
【ケース別】あなたに合うのはどっち?メリット・デメリットから考える
ここまで見てきた違いを踏まえて、具体的にどのような場合にどちらの方法が適しているのか、贈与者(あげる側)と受贈者(もらう側)それぞれの視点から考えてみましょう。

負担付死因贈与がおすすめなケース
以下のような想いやご希望をお持ちの方には、負担付死因贈与が向いていると言えます。
- 「自分の介護や生活の面倒を見てもらう」ことを条件に、財産を渡したい方
相手に一定の義務(負担)を果たしてもらうことを約束させたい場合に最適です。相手が約束を守ってくれる限り、一方的に撤回される心配が少ないため、お互いにとって安心感があります。 - 内縁の妻や長年お世話になった友人など、相続権のない人に「確実に」財産を残したい方
生前に契約を交わし、相手の合意を得ておくことで、ご自身の意思を明確にできます。特に不動産の場合は仮登記をすることで、他の相続人から権利を主張されるリスクを大幅に減らせます。 - 不動産を確実に渡すため、生前に権利を保全しておきたい方
前述の通り、仮登記ができるのは死因贈与契約の最大の強みです。不動産という重要な財産を確実に守りたい場合には、この方法が非常に有効です。特に、贈与者が借入や滞納税等があり差押えの危険のある場合、仮登記をすることで差押債権者に優先権を主張でき、確実に権利を保全できます。
遺贈がおすすめなケース
一方で、こちらのような状況の方には、遺贈がより適しているでしょう。
- 財産を渡すことを、相手や他の相続人に知られずに準備を進めたい方
遺言は、ご自身の単独の意思で、秘密裏に作成することができます。亡くなるまでその内容を誰にも知られることなく、準備を進めることが可能です。 - 将来、気持ちが変わる可能性があるので、自由に変更・撤回できるようにしておきたい方
人の気持ちや状況は変わるものです。「今はこう考えているけれど、数年後はどうなるか分からない」という場合、いつでも自由に書き直せる遺言の方が柔軟に対応できます。 - 財産を渡す相手が配偶者や子などの法定相続人で、税金の負担を少しでも軽くしたい方
先ほどご説明した通り、不動産取得税や登録免許税の面で、相続人が財産を受け取る場合は遺贈が有利です。無用な税負担を避けるための賢い選択と言えます。
手続きを確実にする3つの重要ポイントと費用
どちらの方法を選ぶにしても、あなたの最後の想いを確実に実現するためには、手続きを正しく、そして慎重に進めることが不可欠です。ここでは、特に重要な3つのポイントと、それに伴う費用について解説します。
ポイント① なぜ「公正証書」で契約書を作成すべきか?
負担付死因贈与契約は口約束でも成立するとお伝えしましたが、トラブルを防ぎ、手続きをスムーズに進めるためには、必ず「公正証書」で契約書を作成することを強くお勧めします。
公正証書とは、公証役場で公証人という法律の専門家が作成する公的な文書です。これには以下のような大きなメリットがあります。
- 高い証明力:公証人が内容を確認して作成するため、後から「そんな契約はしていない」といった争いが起きるのを防ぎます。
- 安全な保管:原本が公証役場に保管されるため、紛失や偽造、改ざんの心配がありません。
- スムーズな手続き:公正証書があれば、贈与者が亡くなった後の不動産登記手続きを、受贈者が単独でスムーズに進めることができます。(公正証書がない場合、他の相続人全員の実印と印鑑証明書が必要になるなど、手続きが非常に煩雑になります)
公正証書の作成には、公証人に支払う手数料がかかります。これは契約の目的となる財産の価額によって変動します。
| 目的の価額 | 手数料 |
|---|---|
| 100万円以下 | 5,000円 |
| 500万円超1,000万円以下 | 17,000円 |
| 1,000万円超3,000万円以下 | 23,000円 |
| 3,000万円超5,000万円以下 | 29,000円 |
※上記は一例です。事案により加算される場合があります。
多少の費用はかかりますが、将来のトラブルを未然に防ぎ、想いを確実に実現できる安心感を考えれば、その価値は非常に大きいと言えるでしょう。

ポイント② 不動産なら必須!「仮登記」の手続きと注意点
不動産の負担付死因贈与契約を結んだら、速やかに「始期付所有権移転仮登記」を申請することが極めて重要です。これは、あなたの権利を守るためのいわば「予約」のようなものです。
仮登記を怠ると、もし贈与者があなた以外の第三者に不動産を売却して登記を移してしまった場合、あなたが「この家はもらえるはずだった」と主張しても、法的には認められなくなってしまいます。このような悲しい事態を防ぐためにも、仮登記は必須の手続きです。
【仮登記の手続きの流れ(司法書士に依頼した場合)
- 司法書士が贈与者・受贈者と面談し、意思確認・本人確認
- 司法書士が登記に必要な書類(登記原因証明情報など)を作成
- 贈与者から実印・印鑑証明書・登記識別情報(権利証)などをお預かり
- 受贈者から住民票などをお預かり
- 司法書士が法務局へ登記申請
- 登記完了後、登記識別情報通知などをお渡し
仮登記の申請には、登録免許税として不動産の固定資産評価額の1%がかかります。手続きは専門的で複雑なため、私たち司法書士にお任せいただくのが最も安全で確実です。
ポイント③ 総額はいくら?専門家(司法書士)への依頼費用
負担付死因贈与契約や遺言書の作成を司法書士に依頼する場合、どれくらいの費用がかかるのか、ご不安に思われる方も多いでしょう。
当事務所では、お客様に安心してご依頼いただけるよう、分かりやすい料金体系と、追加料金のない総額表示を心がけております。
【えなみ司法書士事務所の費用目安】
- 負担付死因贈与契約書作成サポート:33,000円(税込)~
- 公正証書作成サポート:上記に加えて 11,000円(税込)~
- 仮登記申請:33,000円(税込)~ + 登録免許税実費
- 公正証書遺言作成サポート:88,000円(税込)~
※事案の難易度や財産の額によって変動します。必ず事前にお見積りを提示し、ご納得いただいた上で手続きを進めますのでご安心ください。
手続きを進める上での注意点|遺留分トラブルを避けるために
最後に、どちらの方法を選ぶにしても必ず知っておいていただきたいのが「遺留分(いりゅうぶん)」の問題です。
遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人(配偶者、子、親など)に法律上最低限保障されている遺産の取り分のことです。
例えば、「内縁の妻に全財産を死因贈与する」という契約を結んだとしても、もし法定相続人であるお子さんがいれば、そのお子さんはご自身の遺留分を主張し、「遺産の一部を渡してください」と請求する権利(遺留分侵害額請求)があります。
この遺留分を無視した内容の死因贈与契約や遺言は、無効になるわけではありませんが、将来、相続をめぐる深刻なトラブルの火種になる可能性が非常に高いのです。
あなたの想いを円満に実現するためには、他の相続人の遺留分にも配慮した財産の分け方を検討することが大切です。どのくらいの配慮が必要かについては、ご家族構成や財産状況によって異なりますので、ぜひ一度、専門家にご相談ください。
まとめ:あなたの想いを確実に実現するために、専門家へご相談ください
今回は、「負担付死因贈与」と「遺贈」という、二つの大切な想いを託す方法について詳しく解説してきました。
【この記事のポイント】
- 負担付死因贈与は「契約」。双方の合意に基づき、特に負担の履行後は撤回が難しく、不動産の仮登記で権利を保全できる「確実性」が強み。
- 遺贈は「遺言」。一方的な意思表示で、いつでも自由に撤回でき、相続人への税負担が軽い「自由度」と「柔軟性」が強み。
- どちらを選ぶかは、「誰に」「何を」「どのような条件で」「どれだけ確実に」渡したいかによって決まります。
- 想いを確実に形にするためには、「公正証書」の作成や「仮登記」、そして「遺留分」への配慮が不可欠です。
どちらの方法がご自身にとって最適なのか、最終的な判断は簡単なものではないかもしれません。ご自身の想いやご家族との関係、財産の内容などを総合的に考え、法的な知識と実務経験を持つ専門家と一緒に検討することが、後悔のない選択への一番の近道です。
私たち、えなみ司法書士事務所(所在地:〒220-0004 横浜市西区北幸1丁目11番1号 水信ビル7階)は、代表の司法書士 榎並慶太(神奈川県司法書士会所属 第2554号)が、皆様のこうしたお悩みに寄り添い、「ご安心」を提供することを使命としています。
「まずは話だけ聞いてみたい」「自分の場合はどうなるのか知りたい」そんなお気持ちで構いません。当事務所では、お客様のご自宅などご希望の場所へ伺う「無料訪問面談」を実施しております。平日・土日祝日問わず21時まで対応しておりますので、お仕事でお忙しい方でも、ご都合の良い時間にご相談いただけます。
あなたのその大切な想いを、法的に確実な形で未来へ繋ぐお手伝いをさせていただけませんか。どうぞ、一人で悩まず、お気軽にご連絡ください。

神奈川県横浜市・川崎市を中心に、東京都・千葉県・埼玉県など首都圏の皆さまからご相談をいただいております。
相続手続きや商業登記を通じて、「いつでも相談できて、いつでも来てもらえる」存在でありたいという思いから、無料の訪問面談を実施しております。また、平日はお仕事のため面談の時間が取れないお客様のご要望にお応えするため、平日・土日祝日、21時まで対応可能です。
安心して一歩を踏み出せるよう、丁寧にお手伝いします。どうぞお気軽にご連絡ください。
離婚の財産分与手続き|流れ・費用・注意点を司法書士が解説
離婚後の新生活へ、まず知っておきたい財産分与の基本
離婚という大きな決断をされ、これからの生活に向けて様々な手続きを進めていらっしゃる最中かと思います。期待と同時に、多くの不安を抱えていらっしゃるかもしれません。特に「財産分与」と聞くと、なんだか難しくて大変そうだと感じてしまう方も少なくないでしょう。
しかし、財産分与は、お二人がこれまで共に歩んできた証をきちんと整理し、それぞれが新しい未来へ安心して踏み出すための、とても大切な手続きです。この記事では、離婚に伴う財産分与の基本的な知識から、具体的な手続きの流れ、費用や注意点まで、一つひとつ丁寧に解説していきます。あなたの不安を少しでも和らげ、次の一歩を踏み出すための道しるべとなれば幸いです。

財産分与とは?夫婦で築いた財産を公平に分ける手続き
財産分与とは、法律(民法768条)で定められた権利で、夫婦が婚姻中に協力して築き上げた財産を、離婚の際にそれぞれの貢献度に応じて公平に分け合うことをいいます。
よく「慰謝料」と混同されがちですが、財産分与は離婚の原因を作ったかどうかに関わらず、どちらからでも請求できる点が大きな違いです。たとえご自身の名義ではない財産であっても、夫婦で協力して得たものであれば分与の対象となります。
私たち、えなみ司法書士事務所では、財産分与後の法的手続(例:不動産の名義変更登記など)について業務として対応しております。具体的な手続き内容や費用は個別にご説明します。
いつまでに?財産分与の請求には「離婚後2年」の期限あり
財産分与でまず覚えておきたいのが、請求できる期間に限りがあるということです。具体的には、離婚が成立した日から2年以内に請求しなければ、その権利がなくなってしまう可能性があります(これを法律上「除斥期間」といいます)。(注)現行では離婚成立から2年が除斥期間とされていますが、民法改正により一部の除斥期間が5年へ延長されることが決まっており、施行期日は法改正の経過規定を確認してください。最新の施行状況は法務省・官報等の公的情報で必ずご確認ください。
「離婚だけでも大変なのに、財産のことまで考える余裕がない…」とお感じになるかもしれませんが、大切な権利を失わないためにも、先延ばしにするのは避けたいところです。だからこそ、この記事を読んでいただいている今のうちに正しい知識を身につけ、計画的に手続きを進めていくことがとても大切になります。
【ステップ1】何が対象?財産分与の対象をリストアップする
財産分与を進めるにあたり、最初のステップは「何を分けるのか」を明確にすることです。夫婦の財産は、分与の対象となる「共有財産」と、対象とならない「特有財産」の2つに分けられます。ご自身の状況に当てはめながら、どのような財産があるかリストアップしてみましょう。
分けるべき「共有財産」とは?名義は関係ありません
共有財産とは、婚姻期間中に夫婦が協力して得た財産のことです。ここでの「協力」には、会社員として外で働くことだけでなく、家事や育児といった家庭を支える貢献ももちろん含まれます。
したがって、財産の名義が夫または妻のどちらか一方になっていても、それが婚姻中に得たものであれば共有財産とみなされるのが原則です。例えば、以下のようなものが挙げられます。
- 預貯金:夫婦それぞれや子どもの名義の口座でも、原資が婚姻中の収入であれば対象です。
- 不動産:夫婦で購入した家やマンション、土地など。
- 自動車:夫婦のどちらかの名義で購入した車。
- 生命保険など:婚姻中に支払った保険料に対応する解約返戻金。
- 有価証券:株式、投資信託など。
- 退職金・年金:将来受け取る退職金や年金も、婚姻期間に対応する部分は分与の対象となり得ます。
専業主婦(主夫)の方も、家庭を支えるという形で財産の形成に貢献しているため、もちろん財産分与を請求する権利があります。
分ける必要のない「特有財産」とは?
一方で、財産分与の対象にならないのが「特有財産」です。これは、夫婦の一方が婚姻前から所有していた財産や、婚姻中であっても親からの相続・贈与によって得た財産を指します。
- 結婚前から持っていた預貯金
- 親から相続した不動産や株式
- 親から個人的に贈与された金銭
ただし、注意点もあります。例えば、結婚前から持っていた預貯金口座に、婚姻後の給与などが振り込まれ、生活費として使われるなどして混ざってしまうと、どこまでが特有財産なのか区別が難しくなるケースがあります。このような場合は判断が複雑になるため、一度専門家にご相談いただくことをお勧めします。
【ステップ2】どう進める?財産分与の手続き3つの流れ
分けるべき財産がリストアップできたら、次はいよいよ具体的な手続きに進みます。財産分与は、まず夫婦間の話し合いから始まり、それが難しい場合には法的な手続きへと移行します。ここでは、その3つのステップを順番に見ていきましょう。

①夫婦での話し合い(協議)と合意内容の書面化
財産分与の最も基本となる進め方は、夫婦間での話し合い(協議)です。お互いが納得できる形で、誰がどの財産をどれだけ取得するのかを決めていきます。
そして、ここで非常に大切なのが、合意した内容を必ず書面に残すことです。口約束だけでは、後になって「言った」「言わない」といったトラブルに発展しかねません。この合意書を「離婚協議書」といいます。
さらに、この離婚協議書を公正証書(特に「強制執行認諾文言」を付したもの)にしておくと、債務者が支払いを怠った際に裁判を経ずに強制執行手続に移行できる場合があります。公正証書の記載内容によって効力が異なるため、公証人や専門家と具体的に確認してください。
②話し合いがまとまらない場合は「財産分与請求調停」
夫婦間での話し合いではどうしても意見が合わない、あるいは相手が話し合いに応じてくれないといった場合には、家庭裁判所に「財産分与請求調停」を申し立てることができます。
調停では、裁判官と調停委員(民間の有識者)が中立な立場で間に入り、双方の意見を聞きながら、解決策を探る手助けをしてくれます。第三者が関わることで、感情的にならずに冷静な話し合いが進められるというメリットがあります。
参考:財産分与請求調停
③調停でも不成立なら「審判」へ
調停でも話し合いがまとまらず、不成立となった場合は、自動的に「審判」という手続きに移行します。
審判では、調停のように話し合いで合意を目指すのではなく、裁判官が双方から提出された資料や主張など、一切の事情を考慮して、財産の分け方を法的に決定します。この審判の内容には、判決と同じ効力があります。
【ステップ3】不動産の財産分与|司法書士による名義変更登記
財産分与の中でも、特に手続きが複雑になりがちなのが、ご自宅の土地や建物といった「不動産」です。ここでは、財産分与の合意が成立した後の、不動産の名義変更(所有権移転登記)について、司法書士の専門分野として詳しく解説していきます。
なぜ登記が必要?名義変更をしないと起こる将来のリスク
「話し合いで家をもらうと決まったのだから、それで終わりじゃないの?」と思われるかもしれませんが、それは大きな間違いです。口約束や離婚協議書だけでは、その不動産が本当に自分のものになったと第三者(他の誰か)に対して主張することはできません。これを法的に確定させる手続きが「登記」です。
もし名義変更をしないまま放置すると、以下のような深刻なリスクが生じる可能性があります。
- 不動産を売却したり、担保に入れて融資を受けたりできない。
- 相手方(元の名義人)が亡くなった場合、その相続人との間で所有権を巡るトラブルになる。
- 相手方が借金をし、その不動産が差し押さえられてしまう可能性がある。
こうした将来のトラブルを防ぐためにも、財産分与で不動産を取得した場合は、速やかに名義変更の登記手続きを行うことが不可欠です。
登記手続きの流れと必要書類
不動産の名義変更登記は、一般的に以下の流れで進めます。
- 必要書類の収集:法務局や市役所などで、登記に必要な書類を集めます。
- 登記申請書の作成:法律のルールに従って、登記申請書を作成します。
- 法務局への申請:不動産の所在地を管轄する法務局に、書類一式を提出します。
- 登記完了:法務局の処理状況や書類の不備の有無により異なりますが、概ね数週間から数か月かかる場合があります。正確な処理期間は管轄の法務局で確認してください。
手続きには専門的な知識が必要なため、司法書士にご依頼いただくのが一般的です。ご自身で準備する主な書類は以下の通りですが、事案によって異なりますので、まずはご相談ください。
【不動産を渡す側(登記義務者)】
- 不動産の権利証(または登記識別情報通知)
- 印鑑証明書(発行後3ヶ月以内のもの)
- 実印
【不動産をもらう側(登記権利者)】
- 住民票
- 認印
【その他】
- 固定資産評価証明書
- 離婚の事実がわかる戸籍謄本
- 財産分与の合意がわかる書類(離婚協議書など)
参考:不動産登記及び商業・法人登記の申請書様式一覧 – 法務局(出典:法務局ウェブサイト、参照日:2025-12-05。最新の情報は法務省等で確認してください。)
登記にかかる費用と税金のすべて

不動産の財産分与で気になるのが、費用や税金のことだと思います。主に必要となるのは以下の通りです。
① 登録免許税(国に納める税金)
登記手続きの際に必ずかかる税金です。税額は以下の計算式で算出されます。
固定資産税評価額 × 2%(100分の2)
例えば、評価額が1,500万円の不動産であれば、30万円の登録免許税がかかります。財産分与による所有権移転登記の場合、一般的には固定資産税評価額の2%(1000分の20)が適用されます(国税庁の登録免許税表参照)。ただし、登記原因や法改正等で税率が異なる場合があるため、申請前に法務局や税務当局で確認してください。
② 司法書士報酬
登記手続きを司法書士に依頼した場合の報酬です。事務所によって異なりますが、数万円から10万円程度が目安となります。当事務所の司法書士報酬は事案ごとに異なります。詳細は事前の無料相談・見積りでご提示します。
③ その他実費
住民票や固定資産評価証明書などの取得費用、郵送費などがかかります。
【財産分与で問題となるその他の税金】
- 贈与税:一般に財産分与は清算的な性質を有するため贈与税は課されませんが、分与の内容が通常想定される分与の範囲を著しく超える場合などは税務上贈与と判断され得ます。最終的な課税判断は税務署等の判断によるため、税理士や所轄の税務署にご確認ください。
- 譲渡所得税:不動産を渡す側に課税される可能性のある税金です。分与した不動産の価値が、取得した時よりも値上がりしている場合に、その値上がり益(譲渡所得)に対して課税されることがあります。
税金に関しては非常に専門的な判断が必要となりますので、ご心配な点があれば税理士などの専門家にご相談ください。
財産分与の合意後に注意すべき3つのポイント
無事に話し合いがまとまり、一安心…といきたいところですが、手続きを完全に終えるまでには、いくつか注意すべき点があります。将来のトラブルを避けるために、以下の3つのポイントを必ず押さえておきましょう。
ポイント1:口約束は危険!必ず公正証書を作成する
繰り返しになりますが、金銭の分割払いや養育費の支払いなど、将来にわたる約束事がある場合は、金銭の分割払いや養育費の取り決めがある場合、強制執行認諾文言を付した公正証書を作成することが有効な手段となります。各事情に応じて専門家と相談の上で適切な方法を選択してください。
ポイント2:不動産登記は離婚届の提出後に
手続きの順番は非常に重要です。特に不動産の名義変更は、必ず「離婚届を提出した後」に行ってください。
もし離婚が成立する前に名義変更をしてしまうと、税務上、それは「財産分与」ではなく夫婦間の「贈与」とみなされてしまう可能性があります。その場合、高額な贈与税や不動産取得税が課せられるリスクがあります。焦って手続きを進めて損をすることがないよう、「離婚成立 → 登記申請」という正しい順番を覚えておきましょう。
ポイント3:相手が財産を隠していたことが発覚したら?
離婚時には知らされていなかった財산(隠し財産)が、離婚後に発覚するケースも残念ながら存在します。もし、相手方が意図的に財産を隠していたことが明らかになった場合、改めてその財産についての分与を請求できる可能性があります。
ただし、そのためには相手が財産を隠していたことを証明する証拠が必要になります。このようなトラブルに直面した場合は、一人で悩まず、まずは専門家にご相談ください。状況に応じた適切な対処法を一緒に考えさせていただきます。
財産分与の手続きは専門家への相談が安心|司法書士の役割
ここまで財産分与の手続きについて解説してきましたが、多くの専門的な知識が必要となることがお分かりいただけたかと思います。特に不動産が関わる場合は、手続きがさらに複雑になります。一人で抱え込まず、専門家の力を借りることで、精神的な負担を大きく減らし、正確かつスムーズに手続きを完了させることができます。
もしお困りでしたら、財産分与に関する無料相談はこちらから当事務所へお気軽にご連絡ください。
司法書士と弁護士、どちらに相談すべき?
「この問題は、司法書士と弁護士のどちらに相談すればいいの?」と迷われる方もいらっしゃるかもしれません。両者の役割には違いがあります。
- 弁護士:相手方との交渉や、調停・審判での代理人となることができます。財産の分け方で揉めている、相手と直接話したくない、といった場合に頼りになります。
- 司法書士:当事者間で合意した内容に基づき、離婚協議書や公正証書の作成をサポートしたり、不動産の名義変更登記手続きを代理したりする専門家です。
この記事を読んでくださっている方のように、当事務所では、合意に基づく不動産の所有権移転登記の代理や、離婚協議書・公正証書作成のサポートを行っています。
横浜・川崎エリアなら、えなみ司法書士事務所へご相談ください
私たち、えなみ司法書士事務所は、横浜市・川崎市にお住まいの皆様の、新しい一歩を法務手続きの面から全力でサポートいたします。
当事務所では、お客様のご負担を少しでも軽くするため、以下の方針で業務を行っております。
- 訪問によるご相談:原則として横浜・川崎市内を対象に、ご自宅やご指定の場所へ伺います(事前予約制)。
- 柔軟な対応時間:事前にご予約いただければ、土日祝日や夜間(21時まで)のご相談にも対応可能です。
- 明確な費用説明:ご依頼いただく前に、必ず総額でのお見積りを提示いたします。
離婚後の大切な手続きを、安心して、そして確実に行うために。まずはお話をお聞かせください。あなたの新しいスタートを、私たちがしっかりと支えます。
事務所名:えなみ司法書士事務所
所在地:〒220-0004 横浜市西区北幸1丁目11番1号 水信ビル7階
司法書士:榎並 慶太(神奈川県司法書士会所属 第2554号)

神奈川県横浜市・川崎市を中心に、東京都・千葉県・埼玉県など首都圏の皆さまからご相談をいただいております。
相続手続きや商業登記を通じて、「いつでも相談できて、いつでも来てもらえる」存在でありたいという思いから、無料の訪問面談を実施しております。また、平日はお仕事のため面談の時間が取れないお客様のご要望にお応えするため、平日・土日祝日、21時まで対応可能です。
安心して一歩を踏み出せるよう、丁寧にお手伝いします。どうぞお気軽にご連絡ください。
亡くなった人の建物を解体|相続登記不要?滅失登記の手順
亡くなった方の建物、解体前に相続登記は必要?
ご親族が亡くなられ、古くなったご実家などを解体しようとお考えの際、「その前に、まず相続登記をしなければならないのだろうか?」という疑問をお持ちになる方は少なくありません。相続登記には時間も費用もかかるため、できれば避けたいとお考えになるのも無理はないでしょう。
結論から申し上げますと、建物を解体して取り壊すだけであれば、原則として相続登記は不要です。
この記事では、亡くなった方の名義のままになっている建物を解体し、滅失登記を行うまでの手続きについて、司法書士が分かりやすく解説します。手続きの全体像と具体的なステップをご理解いただくことで、安心して手続きを進めるためのお手伝いができれば幸いです。
原則不要!相続登記を省略できる理由
なぜ、建物の相続登記を省略できるのでしょうか。それは、これから取り壊して「無くなってしまう」建物の名義を、わざわざ費用と時間をかけて相続人に変更することに実益がないためです。
不動産登記は、不動産の現在の状況と権利関係を公示するための制度です。建物の滅失登記は、建物が物理的に存在しなくなったという「事実」を登記記録に反映させる手続き(表示に関する登記)です。
そして、この建物滅失登記は、相続人のうちの一人から申請することができます。相続人全員で手続きをする必要はありません。そのため、亡くなった方の名義のままでも、相続人の一人として「所有者が亡くなり、建物も取り壊したので登記をなくしてください」と法務局に申請できるのです。
注意!土地の売却予定があるなら相続登記は必須
建物の相続登記は不要ですが、一つだけ重要な注意点があります。それは、建物を解体した後の土地を売却したり、担保に入れて融資を受けたりするご予定がある場合です。
この場合、土地については必ず相続登記を済ませ、名義を相続人に変更しておく必要があります。亡くなった方の名義のままでは、土地の売買契約を結んだり、所有権を買い主に移転したりすることはできないからです。
つまり、「建物は滅失登記のみ、土地は相続登記が必要」と、それぞれの手続きを分けて考える必要があります。相続登記は2024年4月1日から義務化されていますので、土地をどうするか未定の場合でも相続登記の検討をお勧めします。
【3ステップ】名義人が死亡した建物の解体・滅失登記手続き
ここからは、実際に手続きを進めるための具体的な流れを3つのステップに分けて解説します。この通りに進めれば、迷うことなく手続きを完了させることができます。

ステップ1:解体前の準備【相続人全員の同意が必須】
手続きを進める上で、最も重要なのがこの最初のステップです。建物を解体するという行為は、法律上、財産を処分する「処分行為」にあたります。そのため、必ず相続人全員の同意を得なければなりません。
原則として相続人全員の同意を得るべきですが、相続人不在・不明や紛争がある場合は家庭裁判所で遺産管理人を選任するなどの手続で対応することになります。争いが予想される場合は事前に専門家に相談してください。
正式な遺産分割協議書を作成するのが理想ですが、少なくとも「建物の解体に全員が同意している」ことを証明する同意書を作成し、相続人全員で署名・捺印をしておくことを強くお勧めします。後々のトラブルを防ぐための、何より大切な「お守り」になります。
ステップ2:建物の解体と「建物滅失証明書」の受領
相続人全員の同意が得られたら、解体業者を選定し、建物の解体工事を依頼します。複数の業者から見積もりを取ると、費用感を把握しやすいでしょう。
工事が無事に完了したら、業者から必ず受け取らなければならない重要書類があります。それが「建物滅失証明書(または取毀(とりこわし)証明書)」です。
これは、業者が建物を確かに取り壊したことを証明する書類で、後の滅失登記申請に不可欠です。建物滅失証明書は滅失登記で重要な証拠となりますが、業者の証明がない場合でも工事契約書・完了報告書・写真等の他の証拠により滅失事実を立証することがあります。可能な限り業者の証明書を取得してください。可能であれば解体業者の印鑑証明書や登記事項証明書を受領しておくと申請手続きがスムーズになる場合がありますが、添付書類は事案により異なります。必要書類は事前に法務局や専門家に確認してください。
ステップ3:滅失登記の申請【相続人の一人が申請可能】
建物が滅失した日は不動産登記法上の登記原因日となり、原則として滅失の日から1か月以内に滅失登記を申請する義務があります(不動産登記法等)。ただし事情によっては追加の証拠提出等が必要になる場合がありますので、不明点は管轄法務局や専門家に確認してください。これは不動産登記法で定められた義務であり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料に処せられる可能性があります。
申請は、前述の通り相続人のうちの一人から行うことができます。申請書を作成し、必要な書類を添付して法務局に提出します。申請書はご自身で作成することも可能です。
このとき、亡くなった所有者(被相続人)と、申請人となるご自身(相続人)との関係を証明するために、戸籍謄本などが必要になります。どのような書類が必要になるかは、次の章で詳しくご説明します。
所有者死亡時の滅失登記で必要となる書類一覧
滅失登記の申請に必要な書類は、大きく分けて「解体業者から受け取るもの」と「ご自身で準備するもの」の2種類があります。いざという時に慌てないよう、事前に確認しておきましょう。

解体業者から受け取る書類
- 建物滅失証明書(取毀証明書)
業者が建物を解体したことを証明する書類です。法務局所定の様式でなくても、必要事項が記載されていれば問題ありません。 - 解体業者の印鑑証明書
建物滅失証明書に押印された印鑑が、業者の実印であることを証明するために必要です。 - 解体業者の代表者事項証明書(または履歴事項全部証明書)
法人の場合、誰が代表者であるかを証明する書類です。印鑑証明書とあわせて、代表者の資格を証明します。
ご自身(相続人)で準備する書類
- 建物滅失登記申請書
法務局の窓口やウェブサイトで書式を入手できます。 - 亡くなった所有者の死亡の記載がある戸籍謄本(または除籍謄本)
登記簿上の所有者が亡くなっていることを証明するために必要です。 - 申請する相続人の現在の戸籍謄本
ご自身が相続人であることを証明するために必要です。 - 申請する相続人の住民票
申請書に記載する住所を証明します。 - (場合によって)亡くなった所有者の住民票の除票や戸籍の附票
登記簿に記載されている所有者の住所と、亡くなった時の最後の住所が異なる場合に、住所の変遷を証明するために必要となります。
【ケース別】こんな時はどうする?解体・滅失登記の注意点
基本的な手続きは上記のとおりですが、中には少し注意が必要なケースもあります。ここでは、実務でよくご相談いただく3つのケースについて解説します。
借地上の建物を解体する場合
えなみ司法書士事務所では、借地上の建物の名義人が死亡し、その相続人の方から「建物が古くなったので解体したいのですが、相続登記は必要ですか?」といったご相談をいただくことがあります。
借地、つまり他人から借りている土地の上に建っている建物を解体する場合、ご自身の判断だけで進めてはいけません。必ず、事前に地主さんの承諾を得る必要があります。
借地契約書には、契約終了時に土地を更地にして返す「原状回復義務」が定められていることがほとんどです。しかし、地主さんによっては「まだ使える建物を壊さないでほしい」「解体するなら承諾料が欲しい」と考える方もいらっしゃいます。まずは借地契約の内容をよく確認し、地主さんとしっかりと話し合いの場を持つことが、後のトラブルを防ぐために不可欠です。
建物に住宅ローン(抵当権)が残っている場合
亡くなった方が建てた家に住宅ローンが残っており、抵当権(借金の担保)が設定されている場合も注意が必要です。
抵当権が付いている建物は、債権者である金融機関の「財産」でもあります。そのため、金融機関に無断で建物を解体することは絶対にできません。もし勝手に解体してしまうと契約違反となり、残っているローンの一括返済を求められる可能性があります。
まずはローンを組んでいる金融機関に連絡し、「相続が発生し、建物を解体したい」と相談してください。通常は、残っているローンの返済計画などを話し合った上で、解体の承諾を得る流れになります。
建物が未登記だった場合
ご親族の家を調べてみたら、登記がされていない「未登記建物」だった、というケースも稀にあります。この場合、そもそも法務局に登記記録が存在しないため、「建物滅失登記」を申請することはできません。
では何もしなくて良いかというと、そうではありません。市区町村の役所(資産税課など)に対して「家屋滅失届」を提出する必要があります。これを怠ると、実際にはもう存在しない建物に対して、固定資産税の納税通知が届き続けてしまうことになります。
建物を管理している役所の担当部署に連絡し、必要な手続きを確認しましょう。
滅失登記は自分でできる?専門家への依頼も検討しよう
滅失登記の手続きは、ご自身で行うことも不可能ではありません。費用を抑えられるのが最大のメリットですが、平日の日中に役所や法務局へ何度も足を運んだり、慣れない書類の作成に時間がかかったりするデメリットもあります。
特に相続が絡む場合は、戸籍謄本の収集が思いのほか大変だったり、前述のような複雑なケースに該当したりすることもあります。そんな時は、専門家への依頼も選択肢の一つです。

土地家屋調査士と司法書士の役割の違い
専門家といっても、誰に相談すれば良いか迷われるかもしれません。ここで、それぞれの専門家の役割を簡単にご説明します。
- 土地家屋調査士
不動産の「表示に関する登記」の専門家です。建物の物理的な状況(どこに、どんな建物があるか)を調査・測量し、登記申請を代理します。建物滅失登記の申請代理は、まさに土地家屋調査士の専門業務です。 - 司法書士
不動産の「権利に関する登記」の専門家です。所有権の移転(売買、相続)や抵当権の設定・抹消など、権利関係の登記を代理します。
今回のケースでは、滅失登記そのものは土地家屋調査士の業務ですが、「相続人の調査(戸籍収集)」「相続人全員の同意取り付けのサポート」「解体後の土地の相続登記や売却」といった周辺手続きには、司法書士が深く関わります。どちらに相談すれば良いか分からない場合は、まず司法書士にご相談いただければ、状況に応じて適切な専門家と連携して対応することも可能です。
専門家に依頼した場合の費用相場
土地家屋調査士に建物滅失登記を依頼した場合の報酬は、一般的に4万円~5万円程度が相場とされています。ただし、建物の状況や必要書類の収集状況など、事案の複雑さによって費用は変動します。
費用はかかりますが、専門家に依頼することで、煩雑な手続きから解放され、時間的・精神的なご負担を大きく軽減できるというメリットがあります。何より、正確かつ迅速に手続きを完了できる「安心感」が得られるはずです。
まとめ|複雑な手続きは専門家へ相談を
今回は、亡くなった方の名義の建物を解体する際の手続きについて解説しました。最後に、大切なポイントをもう一度確認しましょう。
- 建物を解体するだけなら、相続登記は原則不要。
- ただし、解体するには相続人全員の同意が絶対に必要。
- 建物を取り壊したら、1ヶ月以内に滅失登記を申請する義務がある。
もし手続きにご不安を感じたり、お仕事などで時間が取れなかったりする場合は、一人で抱え込まずに専門家にご相談ください。えなみ司法書士事務所では、横浜市・川崎市を中心に、相続に関する様々なお悩みに対応しております。初回のご相談は無料です(要予約)。平日はもちろん、土日祝も21時までご予約にて対応しており、ご自宅などへの訪問相談も無料で承っております(対応エリア等、詳細はお問い合わせください)。まずはお話をお聞かせいただくことから始められればと思います。
【事務所情報】
えなみ司法書士事務所
代表 司法書士 榎並 慶太
神奈川県司法書士会所属 第2554号
〒220-0004 横浜市西区北幸1丁目11番1号 水信ビル7階

神奈川県横浜市・川崎市を中心に、東京都・千葉県・埼玉県など首都圏の皆さまからご相談をいただいております。
相続手続きや商業登記を通じて、「いつでも相談できて、いつでも来てもらえる」存在でありたいという思いから、無料の訪問面談を実施しております。また、平日はお仕事のため面談の時間が取れないお客様のご要望にお応えするため、平日・土日祝日、21時まで対応可能です。
安心して一歩を踏み出せるよう、丁寧にお手伝いします。どうぞお気軽にご連絡ください。
検索用情報の申出とは?住所変更登記義務化の負担を軽くする新制度
【2026年義務化】不動産の住所・氏名変更登記、あなたはどうする?
「そういえば、昔買ったマンションの登記、引っ越し前の住所のままだ…」「結婚して名字は変わったけど、実家の土地の名義はどうなってるんだろう?」
2026年4月1日から、不動産の所有者の住所や氏名の変更登記が義務化されるというニュースを見て、このようにハッとされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。ご自身の不動産について、「何か手続きをしないといけないらしいけど、具体的に何をすればいいのかわからない…」と、漠然とした不安を感じているかもしれませんね。
ご安心ください。今回の法改正では、手続きの負担を軽くするための新しい制度「検索用情報の申出(けんさくようじょうほうのもうしで)」も同時にスタートします。
この記事では、司法書士である私が、
- 新しい「検索用情報の申出」とはどんな制度なのか
- 従来の「住所変更登記」とどちらを選ぶべきか
- それぞれの手続きの流れや注意点
といった点を、できるだけ分かりやすく解説していきます。この記事を最後までお読みいただければ、あなたが今どちらの手続きを選ぶべきかが明確になり、法改正への不安を解消できるはずです。私たち専門家が、あなたの状況に合わせた最適な一歩を一緒に見つけていきますので、どうぞリラックスしてお読みください。
新制度「検索用情報の申出」とは?5分でわかる基本
「検索用情報の申出」は、住所変更登記の義務化に伴う皆さまの負担を減らすために作られた、まったく新しい仕組みです。一言でいうと、「住民基本台帳ネットワーク等の情報と照合して、将来住所等が変更された際に法務局が職権で変更登記を行うことを可能にするための事前申出」のことです。変更が確認された場合は法務局が所有者に確認(メール等)を行い、所定の手続により職権で登記が行われます。この制度は、令和7年(2025年)4月21日から開始されました。
これまでのように、引っ越しのたびに法務局で手続きをする必要がなくなる、画期的な制度といえるでしょう。

検索用情報の申出のメリット:手間と費用を大幅カット
この新制度には、従来の住所変更登記と比べて大きなメリットがあります。特に、手間と費用の面でその違いは明らかです。
- メリット①:登録免許税が不要
従来の住所変更登記では、不動産1つにつき1,000円の登録免許税という税金が必要でした。土地と建物なら2,000円です。しかし、「検索用情報の申出」では、この登録免許税が一切かかりません。 - メリット②:一度申し出れば、将来の手続きが不要に
一度この申出をしておけば、その後何度引っ越しをしても、その都度ご自身で手続きをする必要がなくなります。法務局が住基ネット等を照会して住所等の変更を確認した場合、届出のメール等による確認手続を経て、所定の条件の下で登記官が職権で変更登記を行える仕組み(職権登記)です。 - メリット③:オンラインで手続きが完結できる
法務局の窓口に行ったり、郵送したりすることなく、ご自宅のパソコンやスマートフォンからオンラインで手続きを完結させることができます。時間や場所を選ばずに申請できるのは大きな利点です。
申出に必要な情報と手続きの流れ
手続きはとてもシンプルです。以下の情報を準備して、オンラインまたはお近くの法務局の窓口・郵送で申し出るだけです。
【申出に必要な情報】
- 不動産所有者の氏名(フリガナ)
- 不動産所有者の現在の住所
- 不動産所有者の生年月日
- 連絡先となるメールアドレス等
- (可能であれば)マイナンバーカード等に含まれる「本人確認情報」
従来の登記手続きのように、住民票や戸籍の附票といった公的な証明書を集める必要がないため、準備の手間が格段に少なくなります。
司法書士に依頼する場合の費用【報酬5,000円~】
「オンライン手続きは少し苦手…」「自分でやるのは何となく不安」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、この「検索用情報の申出」も私たち司法書士にお任せいただけます。
当事務所では、5,000円(税別)からこの手続きを代行しております。この新制度は始まったばかりですが、法改正に関心が高いお客様から、既に当事務所にもご依頼を承っております。ご自身で時間をかけて調べる手間や、慣れない手続きへのストレスを考えれば、専門家に任せてしまうのも一つの賢い選択です。費用についても、事前に総額を明確にお見積りいたしますので、どうぞご安心ください。(えなみ司法書士事務所 代表 榎並慶太/神奈川県司法書士会所属/所在地:〒220-0004 横浜市西区北幸1丁目11番1号 水信ビル7階)
参考:検索用情報の申出について(職権による住所等変更登記関係)
あなたはどっち?状況別・最適な手続きの選び方
「検索用情報の申出」がとても便利な制度であることはお分かりいただけたかと思います。では、誰もがこの新制度を選べば良いのでしょうか?実は、状況によっては、これまで通り「住所変更登記」を今すぐ行った方が良いケースもあります。
ここでは、あなたがどちらの手続きを選ぶべきか、具体的な状況に合わせてご案内します。
| 項目 | 検索用情報の申出 | 従来の住所変更登記 |
|---|---|---|
| 目的 | 将来の住所変更に備える | 現在の登記情報を正確に直す |
| 登録免許税 | 不要 | 不動産1つにつき1,000円 |
| 必要書類 | 原則不要(本人確認情報のみ) | 住民票、戸籍の附票など |
| 反映時期 | 将来、住所変更があった際に職権で | 申請後、約1~2週間 |
「検索用情報の申出」がおすすめな人
以下のような方には、手間と費用を抑えられる「検索用情報の申出」がおすすめです。
- すぐに不動産を売ったり、担保に入れたりする予定がない方
登記情報をすぐに最新の状態にする必要がない場合は、この申出で将来に備えておけば十分です。 - 手続きはとにかく簡単に、費用をかけずに済ませたい方
登録免許税がかからず、オンラインで完結できるこの制度は、最も手軽な選択肢です。 - 今後も転勤などで引っ越す可能性がある方
一度申し出ておけば、将来の住所変更のたびに手続きをする手間から解放されます。
今すぐ「住所変更登記」をすべき人
一方で、次のような状況にある方は、新しい申出制度を待つのではなく、速やかに従来の「住所変更登記」を行うことを強くおすすめします。
- 近いうちに不動産の売却を考えている方
不動産を売却する際、登記簿上の住所と現在の住所が異なっていると、本人確認ができず、原則として売却手続きを進められません。売却の前段階として、住所変更登記は必須となります。 - その不動産を担保にローンを組む予定(抵当権設定)がある方
銀行などから融資を受ける際も同様です。抵当権を設定する登記の前提として、所有者の登記情報は現在の内容と一致している必要があります。 - 銀行などのローンを完済し、抵当権を抹消する方 住宅ローンを完済し、抵当権抹消する場合も、抵当権抹消登記の前提として、現在の住所に変更するための住所変更登記が必要となります。
要するに、「登記簿をすぐに最新の状態にする必要があるかどうか」が、判断の大きな分かれ目となります。

従来の住所変更登記:必要書類と注意点
「自分の場合は、今すぐ住所変更登記が必要そうだ」と判断された方のために、具体的な手続きと、特に注意すべき点について解説します。
ご自身で手続きすることも可能ですが、特に複数回の転居を経験されている方は、必要書類の収集でつまずいてしまうケースが少なくありません。
基本の必要書類:住民票または戸籍の附票
住所の変更を証明する書類として、以下のいずれかが必要になります。
- 住民票
登記簿上の住所から現在の住所まで、1回の引っ越しでつながる場合に利用します。市区町村の役所で取得できます。 - 戸籍の附票(こせきのふひょう)
複数回の引っ越しを経験されている場合は、これまでの住所の履歴がすべて記載された「戸籍の附票」が必要となります。これは、本籍地のある市区町村で取得します。現在の住所地の役所では取れませんのでご注意ください。
結婚などで氏名も変更されている場合は、その経緯がわかる戸籍謄本も必要になります。
【要注意】住所のつながりが証明できない場合の対処法
最も手続きが複雑になるのが、この「住所のつながりが証明できない」ケースです。
例えば、何度も引っ越しや本籍地の変更(転籍)を繰り返していると、戸籍の附票を取得しても、登記簿上の古い住所から現在の住所までのすべての履歴が載っていないことがあります。これは、市区町村での書類の保存期間が法律で定められており、古い記録は廃棄されてしまうことがあるためです(現在は150年ですが、以前はわずか5年でした)。
このように公的な書類で住所の変遷を証明できない場合、
- 不動産を取得した際の登記済権利証(いわゆる権利書)
- 「登記簿上の人物と自分は同一人物です」という内容の上申書(実印の押印と印鑑証明書を添付)
といった、別の書類を法務局に提出する必要があります。このようなケースでは、法務局との事前協議も必要となり、専門的な知識が不可欠です。もし戸籍の附票などを取得してみて「あれ、住所がつながらないぞ?」と思ったら、無理にご自身で進めようとせず、速やかに私たち司法書士にご相談いただくのが最善の道です。

手続きの不安は専門家へ。えなみ司法書士事務所がサポートします
2026年4月からの住所変更登記の義務化と、新しい「検索用情報の申出」制度について解説してきましたが、ご自身のやるべきことは見えてきましたでしょうか。
法改正への対応と聞くと、少し難しく感じてしまうかもしれません。しかし、どちらの手続きを選ぶべきか、どんな書類が必要かといった疑問は、専門家にご相談いただければすぐに解決できます。
えなみ司法書士事務所は、横浜市・川崎市にお住まいの皆さまの「いつでも相談できる」パートナーでありたいと考えています。不動産登記に関するご不安やお悩みがあれば、どうぞお一人で抱え込まず、私たちにお聞かせください。
(えなみ司法書士事務所/代表 司法書士 榎並慶太/神奈川県司法書士会所属/所在地:〒220-0004 横浜市西区北幸1丁目11番1号 水信ビル7階)
- 無料の訪問面談
お客様のご自宅など、ご指定の場所まで無料でお伺いします(横浜市・川崎市内に限ります)。ご相談内容は厳重に秘匿いたします。 - リーズナブルで明確な料金
必ず事前にお見積りを提示し、追加料金のない総額表示でご安心をお約束します。 - 土日祝・21時まで対応
お仕事でお忙しい方でも、ご都合の良い時間にご相談いただけます。
お客様の時間的、費用的、そして精神的なご負担を少しでも軽くすることが、私たちの使命です。まずはお話をお伺いするだけでも結構です。あなたの不動産に関するお悩みを、ぜひ私たちにお任せください。

神奈川県横浜市・川崎市を中心に、東京都・千葉県・埼玉県など首都圏の皆さまからご相談をいただいております。
相続手続きや商業登記を通じて、「いつでも相談できて、いつでも来てもらえる」存在でありたいという思いから、無料の訪問面談を実施しております。また、平日はお仕事のため面談の時間が取れないお客様のご要望にお応えするため、平日・土日祝日、21時まで対応可能です。
安心して一歩を踏み出せるよう、丁寧にお手伝いします。どうぞお気軽にご連絡ください。
古い抵当権・仮登記の抹消|相続時のリスクと解決策を解説
相続した不動産に謎の登記?まずはご自身の状況を確認しましょう
ご両親から大切な不動産を相続した際、法務局で取得した登記簿謄本(登記事項証明書)を見て、戸惑われた方もいらっしゃるかもしれません。
「権利部乙区」や「権利部甲区」という欄に、見慣れない人の名前や、「抵当権設定」「所有権移転請求権仮登記」といった文字。日付を見ると、大正や昭和初期など、何十年も前のもので、「これは一体何なのだろう?」「このまま相続して大丈夫なのだろうか?」と不安に感じてしまうのは、ごく自然なことです。
でも、ご安心ください。そのような古い登記が残っていても、解決する方法はきちんと用意されています。
私たち、えなみ司法書士事務所でも、実家の不動産の相続登記をお手伝いする中で、大正・昭和時代に設定された古い抵当権や仮登記がそのままになっているケースに対応した経験がございます。これらは、いわば「消し忘れられた登記」のようなものです。
この記事では、相続した不動産に残された古い抵当権や仮登記とは何なのか、放置するとどのようなリスクがあるのか、そして、具体的にどうすればきれいに抹消できるのかを、専門家である司法書士が分かりやすく解説していきます。読み終える頃には、ご自身の状況を整理し、次の一歩をどう踏み出せば良いかが明確になっているはずです。
放置は危険!古い抵当権・仮登記が残る2つのリスク
「何十年も前の登記なのだから、そのままでも問題ないのでは?」と思われるかもしれません。しかし、これらの古い登記を放置することには、無視できない大きなリスクが潜んでいます。主なリスクは以下の2つです。
リスク1:不動産の売却や担保としての活用ができない
最大のリスクは、その不動産を自由に処分できなくなることです。抵当権や仮登記が残ったままの不動産は、権利関係が不安定な状態と見なされます。
そのため、いざその不動産を売却しようとしても、買主様は「この登記が抹消されない限り、代金は支払えません」と言うでしょう。また、お子様の教育資金やご自身のリフォームのために、その不動産を担保に金融機関から融資(ローン)を受けようとしても、審査に通ることは極めて困難です。
つまり、登記簿上はご自身の所有物であっても、実質的には資産価値が大きく損なわれてしまう可能性があるのです。
リスク2:次の相続で子や孫に大きな負担を残してしまう
もう一つの深刻なリスクは、問題を先送りにしてしまうことです。もし、ご自身がこの問題に対処しないまま次の相続が発生した場合、その負担はあなたのお子様やお孫様の世代に引き継がれてしまいます。
時間が経てば経つほど、登記に関係する人々は亡くなり、その相続人がネズミ算式に増えていきます。ご自身の代であれば数人の協力で済んだ手続きが、次の世代では数十人の同意を取り付けなければならない、という事態にもなりかねません。
そうなると、手続きはさらに複雑化し、解決にかかる時間も費用も膨れ上がってしまいます。ご自身の代でこの問題を解決しておくことは、将来の世代に対する大切な責任とも言えるでしょう。
【ケース1】古い抵当権(休眠担保権)の抹消手続き
まず、古い抵当権が残っている場合の解決策を見ていきましょう。何十年も前に設定された抵当権で、実質的に効力を失っているものを一般に「休眠担保権」と呼びます。
これは、昔の金融機関(無尽会社など)や個人からお金を借りた際の担保として設定されたものの、完済後も抹消手続きが忘れられていた、というケースがほとんどです。
抵当権者が行方不明なら「供託」で抹消できる
休眠担保権を抹消しようにも、抵当権者である会社は既になく、個人の方も行方が分からない、という場合がほとんどです。このようなケースのために、法律は「供託(きょうたく)」という特別な手続きを用意しています。
供託とは、返済すべきお金(元本、利息、損害金)を、抵当権者の代わりに法務局(供託所)に預けることで、債務が消滅したとみなし、不動産の所有者が単独で抵当権の抹消登記を申請できる制度です。
この制度を利用するには、以下の条件を満たす必要があります。
- 債権の弁済期(返済期限)から20年が経過していること
- 抵当権者(債権者)の行方が知れないこと
手続きの大まかな流れは以下のようになります。
- 抵当権者の調査: まずは登記簿上の住所や会社名を元に、抵当権者の現在の所在や法人の状況を調査します。行方不明であることを証明する資料(閉鎖登記簿謄本や住民票の除票など)を収集します。
- 供託金の計算・納付: 登記簿に記載された元本・利息・遅延損害金を法律のルールに従って計算し、法務局(供託所)に金銭を預け、「供託書正本」を受け取ります。
- 法務局で抹消登記: 収集した書類と供託書正本を添付して、不動産の所在地を管轄する法務局に抵当権抹消登記を申請します。
この一連の手続きは法的な判断や複雑な書類作成を伴うため、専門家である司法書士にご相談いただくのがスムーズです。
参考:休眠抵当権抹消のための供託:福島地方法務局 – 法務省
抵当権者の相続人が判明している場合の手続き
調査の結果、抵当権者が亡くなっており、その相続人が判明した、というケースもあります。この場合、手続きは供託とは異なります。
原則として、その相続人全員に協力を依頼し、共同で抵当権抹消登記を申請することになります。そのためには、まず戸籍を収集して相続人全員を確定させる必要があります。
しかし、相続人の中には協力的でない方がいたり、連絡がつかなかったりすることもあります。話し合いで解決できない場合は、裁判(抵当権抹消請求訴訟)を起こして、判決を得て抹消登記を行うという方法もあります。いずれにせよ、関係者が増えるほど手続きの難易度は高くなります。
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【ケース2】古い仮登記の抹消手続き
次に、抵当権と並んでよく見られる「仮登記」の抹消についてです。仮登記には様々な種類がありますが、古いもので多いのは「売買予約」や「代物弁済予約」を原因とするものです。これも、契約がなくなったにもかかわらず、抹消されずに残ってしまったケースがほとんどです。
原則は権利者との共同申請。しかし、多くは死亡・行方不明
仮登記の抹消も、抵当権と同様に、登記上の権利者と不動産の所有者が共同で申請するのが原則です。しかし、何十年も前の仮登記の場合、権利者の方が亡くなっていたり、行方不明だったりすることが大半です。
「相手と連絡が取れないなら、もう抹消は無理なのでは…」と諦めてしまう必要はありません。このような場合にも、法律に則った解決策があります。
権利者死亡時は、その相続人を探し出して手続きを進める
仮登記の権利者が亡くなっている場合、その権利は相続人に引き継がれています。そのため、抹消手続きを進めるには、まず権利者の相続人全員を探し出す必要があります。
これは、亡くなった権利者の出生から死亡までの戸籍謄本や、その親、子、場合によっては兄弟姉妹の戸籍謄本まで遡って調査するという、非常に根気のいる作業です。
司法書士は職務上、これらの戸籍を取得し、相続関係を正確に把握することができます。相続人が確定したら、その方々全員に連絡を取り、仮登記の抹消に協力してくれるよう依頼します。
もし相続人の中に非協力的な方がいる場合や、相続人が多すぎて協力が得られない場合は、抵当権のケースと同様に裁判手続きを検討することになります。仮登記の抹消は、抵当権の供託手続きのように所有者一人で進められる制度がないため、より一層、専門的な対応が求められます。

手続きは複雑。専門家である司法書士への相談が安心です
ここまで見てきたように、古い抵当権や仮登記の抹消手続きは、権利関係者の調査、法的な書類の作成、法務局とのやり取りなど、専門的な知識と多くの時間を要します。特に、相続が絡むと手続きは格段に複雑になります。
ご自身で全てを抱え込まず、私たち司法書士のような専門家にご相談いただくことで、時間的・精神的なご負担を大幅に軽減できます。当事務所では、相続登記についてのご相談も幅広く承っておりますので、ご安心ください。
当事務所は、お客様の「困った」に寄り添い、最善の解決策をご提案いたします。まずは無料相談から。お気軽にお問い合わせください。
司法書士に依頼すべきケースとは?
特に、以下のような状況に当てはまる場合は、お早めに司法書士へご相談いただくことを強くお勧めします。
- 登記簿に記載されている抵当権者や仮登記権利者の名前や住所に心当たりがない
- 権利者がすでに亡くなっており、相続人が誰で何人いるのか全く分からない
- 権利関係者が多数にのぼる可能性がある
- 平日は仕事で忙しく、役所や法務局を回ったり、書類を集めたりする時間がない
- 法的な手続きや書類の作成に不安がある
一つでも当てはまるようでしたら、ぜひ一度、専門家の意見を聞いてみてください。
手続きにかかる費用と期間の目安
手続きにかかる費用は、大きく分けて「実費」と「司法書士報酬」の2つです。
- 実費:登録免許税(不動産1個につき1,000円)、戸籍謄本などの取得費用、供託金など、手続きに必ずかかる費用です。
- 司法書士報酬:供託による抵当権の抹消につき88,000円(税込み)~。仮登記の相続登記及び抹消登記につき88,000円(税込み)~。権利関係者の調査、書類作成、法務局への供託手続き(供託金の納付を含む)及び抵当権抹消登記の申請代理などに対する専門家への報酬です。
期間については、事案の複雑さによって大きく異なります。関係者が少なくスムーズに進めば1〜2ヶ月程度で完了することもありますが、相続人調査や裁判手続きが必要になると、半年から1年以上かかる場合もあります。
えなみ司法書士事務所では、ご依頼いただく前に詳細なお見積もりをご提示し、分かりやすい料金体系を心がけております。費用面でご不安な方も、まずはお気軽にご相談ください。
まとめ|不安な相続手続きは、横浜・川崎の専門家にお任せください
相続した不動産に眠っていた古い抵当権や仮登記。一見すると複雑で厄介な問題に思えますが、この記事でご紹介したように、解決に向けた手続をご提案します。
重要なのは、放置せずに、ご自身の代で問題をきちんと整理しておくことです。そうすることで、大切な資産を将来にわたって守り、お子様やお孫様に負担を残さずに済みます。
えなみ司法書士事務所は、横浜市・川崎市を中心に、地域にお住まいの皆様の「いつでも相談できる」パートナーでありたいと考えております。お客様のご自宅などへ直接お伺いする「無料訪問面談」や、平日はもちろん土日祝日も21時まで対応するなど、お客様のご負担を少しでも軽くするための体制を整えています。
一人で悩まず、まずは私たち専門家にお話をお聞かせください。一緒に最善の解決策を見つけていきましょう。
お問い合わせはこちら
えなみ司法書士事務所
代表司法書士 榎並 慶太
神奈川県司法書士会所属 第2554号
〒220-0004 横浜市西区北幸1丁目11番1号 水信ビル7階

神奈川県横浜市・川崎市を中心に、東京都・千葉県・埼玉県など首都圏の皆さまからご相談をいただいております。
相続手続きや商業登記を通じて、「いつでも相談できて、いつでも来てもらえる」存在でありたいという思いから、無料の訪問面談を実施しております。また、平日はお仕事のため面談の時間が取れないお客様のご要望にお応えするため、平日・土日祝日、21時まで対応可能です。
安心して一歩を踏み出せるよう、丁寧にお手伝いします。どうぞお気軽にご連絡ください。
個人間売買のサポートについて
不動産を売却したり購入したりする際は、不動産仲介会社に依頼をすることが一般です。しかし親族間での売買など買主・売主・物件が既に決まっており不動産仲介会社を入れずに売買契約を行いたいご要望のお客様もいらっしゃいます。このような売買を個人間売買と言いますが、当事務所では個人間売買の売買契約書の作成、修正及び名義変更のための所有権移転登記を積極的に受任しております。
評価証明書(又は固定資産納税通知書)のご提供をいただければ無料で見積りを作成します。
お気軽にご相談ください。

神奈川県横浜市・川崎市を中心に、東京都・千葉県・埼玉県など首都圏の皆さまからご相談をいただいております。
相続手続きや商業登記を通じて、「いつでも相談できて、いつでも来てもらえる」存在でありたいという思いから、無料の訪問面談を実施しております。また、平日はお仕事のため面談の時間が取れないお客様のご要望にお応えするため、平日・土日祝日、21時まで対応可能です。
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不動産登記(売買)の相見積もりについて
当事務所においては、不動産をご購入予定の方から登記費用についての相見積もりをお願いをいただいております。
不動産会社から紹介された司法書士の見積りが高すぎご不満な方、少しでも安くしたい方からの相談をいただいております。
不動産会社から提示された見積りをメールいただければ必ず安い見積りをお作りします。
お気軽にお問い合わせください。

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相続手続きや商業登記を通じて、「いつでも相談できて、いつでも来てもらえる」存在でありたいという思いから、無料の訪問面談を実施しております。また、平日はお仕事のため面談の時間が取れないお客様のご要望にお応えするため、平日・土日祝日、21時まで対応可能です。
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土地・建物の売却にあたり権利証(登記済証・登記識別情報)がない場合
土地・建物の売却にあたり権利証(登記済証又は登記識別情報)は所有権移転登記について売主様の必要書類となります。しかし、昔取得した不動産については既に権利証を紛失している場合がございます。この場合、この権利証に代わる書類として司法書士が本人確認情報を作成し、売主様の下記の身分証明書とともに法務局に提出します。
顔写真付きの身分証明書(1点で大丈夫です。)
・運転免許証
・マイナンバーカード
・旅券(パスポート)
・運転経歴証明書
顔写真なしの証明書(2点必要です。)
・国民健康保険の被保険者証
・後期高齢者医療の被保険者証
・介護保険の被保険者証
・国民年金手帳
・身体障害者手帳
・戦傷病者手帳等
顔写真なしの証明書は一般的には、国民健康保険の保険証と年金手帳の組み合わせが
多いです。 高齢者の方では、後期高齢者の保険証や介護保険の保険証を提出される方も多いです。
この本人確認情報の作成費用の相場は、約5万円から10万円です。当事務所では、5万5000円(税込み)(但し、首都圏以外での面談が必要の場合は日当が必要)となっております。
不動産のご売却ご希望で、権利証を紛失したお客様もお気軽にお問い合わせください。 ご希望の方には不動産仲介会社のご紹介もさせていただきます。
宜しくお願い申し上げます。

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