生前贈与と遺言、どちらが得?税金・手続き・遺留分を徹底比較

生前贈与と遺言、どちらを選ぶべき?3つの判断軸で考える

「親の財産、生前に贈与してもらうのが得?それとも、遺言を書いてもらうべき?」「自分の財産を子に残すには、どちらの方法が一番良いのだろうか?」

大切な財産を次の世代へ引き継ぐことを考え始めたとき、多くの方がこの「生前贈与」と「遺言」の二つの選択肢の間で悩まれます。インターネットで調べても、様々な情報が溢れていて、かえって混乱してしまうことも少なくありません。

まず、司法書士として最もお伝えしたい結論から申し上げます。それは、「どちらか一方が絶対的に得、ということはなく、あなたの目的やご家族の状況によって最適な選択は全く異なる」ということです。

大切なのは、ご自身の希望を叶えるために、それぞれの制度を「道具」として正しく理解し、使い分ける視点です。この記事では、その判断基準として最も重要な以下の3つの軸に沿って、生前贈与と遺言を徹底的に比較・解説していきます。

  • 【比較1】税金の損得:相続税と贈与税、トータルでどちらが有利か?
  • 【比較2】手続きの手間:生きている間、そして亡くなった後、どちらが大変か?
  • 【比較3】将来のトラブル回避:家族が揉めないために、どちらが有効か?

この3つの軸でご自身の状況を整理していけば、あなたにとって最適な財産の引き継ぎ方がきっと見えてくるはずです。相続に関する全体像については、遺言・後見・死後事務委任契約の違いの記事でも解説していますので、併せてご覧ください。

【比較1】税金はどちらが得?相続税 vs 贈与税

財産承継を考える上で、多くの方が最も気にされるのが「税金」の問題でしょう。生前贈与には「贈与税」、遺言による承継(遺贈・相続)には「相続税」が関わってきます。これらは似ているようで、仕組みや税率が大きく異なります。さらに、不動産の場合は登記費用なども含めたトータルコストで考えなければ、思わぬ損をしてしまう可能性もあります。

基本の税金:相続税と贈与税の税率・控除額の違い

相続税と贈与税の最も大きな違いは、税金がかからない「基礎控除額」です。

  • 相続税の基礎控除:
    3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
  • 贈与税の基礎控除(暦年課税):
    年間110万円

例えば、法定相続人が配偶者と子供2人の計3人いる場合、相続税の基礎控除額は「3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円」となります。遺産総額がこの金額以下であれば、相続税はかかりません。

一方、贈与税は1人あたり年間110万円までが非課税です。これを超えると贈与税がかかります。税率も、一般的に贈与税の方が相続税よりも高く設定されています。例えば、1,000万円の財産を承継する場合でも、相続税は遺産総額や法定相続人の数、各人の取得額によって税率が変わります。一方、贈与税(特例贈与)では、基礎控除後の課税価格が一定額を超えると高い税率が適用されるため、同じ金額を一度に移す場合には贈与税の負担が重くなることがあります。

相続税と贈与税の税率と基礎控除額を比較した図解。相続税は基礎控除額が大きく税率が緩やか、贈与税は基礎控除額が小さく税率が急であることが示されている。

このため、単純に大きな財産を一度に移転する場合は、相続の方が税制上有利になることが多いと言えます。しかし、贈与税の年間110万円の非課税枠を長期間にわたって活用するなど、計画的な使い方次第では、相続税よりも有利になるケースも少なくありません。

なお、生命保険を活用することで、生命保険金には非課税枠があり、相続税対策として有効な場合があります。

不動産特有の税金:登録免許税・不動産取得税を比較

財産の中に不動産が含まれる場合、相続税や贈与税とは別に、名義変更(登記)のための税金がかかります。これが司法書士として特に注意を促したいポイントです。

税金の種類遺言(相続・遺贈)生前贈与
登録免許税相続・相続人への遺贈:固定資産税評価額の0.4%相続人以外への遺贈:固定資産税評価額の2.0%固定資産税評価額の2.0%
不動産取得税相続による取得は原則非課税遺贈は取得者や遺贈の内容により課税対象となる場合があります原則、固定資産税評価額の3%(宅地等は課税標準を2分の1に軽減)
不動産の名義変更にかかる税金の比較

ご覧の通り、税率に大きな差があります。特に登録免許税は、生前贈与の場合、相続の5倍もかかります。不動産取得税も、原則として生前贈与の場合にのみ課税されます。

例えば、評価額2,000万円の土地を名義変更する場合でシミュレーションしてみましょう。

  • 遺言(相続)の場合:
    • 登録免許税:2,000万円 × 0.4% = 8万円
    • 不動産取得税:0円
    • 合計:8万円
  • 生前贈与の場合:
    • 登録免許税:2,000万円 × 2.0% = 40万円
    • 不動産取得税:2,000万円 × 1/2 × 3% = 30万円(宅地の課税標準の特例適用後)
    • 合計:70万円

このように、贈与税が非課税になるようなケース(例えば相続時精算課税制度を利用した場合)でも、不動産の名義変更だけでこれだけの費用の差が出ます。不動産の承継を考える際は、これらの登記費用も含めた総額で比較検討することが不可欠です。

知っておきたい特例:相続時精算課税と小規模宅地の特例

節税を考える上で鍵となる代表的な特例制度が二つあります。しかし、この二つは併用できない場合が多く、どちらを選ぶかが大きな分かれ道となります。

  1. 相続時精算課税制度(生前贈与で利用)
    原則60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子や孫への贈与において、2,500万円までが非課税となる制度です。ただし、この制度を使って贈与した財産は、贈与者が亡くなった際に相続財産に加算して相続税を計算します。つまり、税金の支払いを相続時まで先送りする制度です。(なお、年間110万円の基礎控除とは別に、令和6年からは毎年110万円までの非課税枠が創設されました。)
  2. 小規模宅地等の特例(相続で利用)
    被相続人が住んでいた土地などを配偶者や同居の親族が相続した場合に、その土地の評価額を最大で80%も減額できる制度です。相続税を大幅に軽減できる非常に強力な特例です。

ここで最も注意すべき点は、「相続時精算課税制度を利用して贈与した土地には、小規模宅地等の特例は適用できない」という点です。例えば、自宅の土地を生前にこの制度で贈与してしまうと、将来、相続が発生した際に80%もの評価減を受けられるチャンスを失ってしまうのです。

財産に自宅不動産が含まれるかどうか、そしてその評価額がいくらかによって、どちらの特例が有利になるかは大きく変わります。安易な選択は禁物です。

贈与税の税率に関する詳細は、国税庁のウェブサイトもご参照ください。
参照:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁

【比較2】手続きはどちらが大変?流れと費用を比較

財産を移す際の手間や費用も重要な判断基準です。これは私たち司法書士の専門分野でもあります。「生前は楽でも死後が大変」「生前は大変でも死後はスムーズ」など、手続きの負担がかかるタイミングが異なります。

生前に行う手続き:贈与契約と遺言書作成

まず、生きている間に行う手続きを比べてみましょう。

生前贈与の場合
生前贈与は、財産を「あげる人(贈与者)」が無償で財産を与える意思を示し、「もらう人(受贈者)」がこれを受諾することによって効力が生じる「契約」です。口約束でも成立はしますが、後々のトラブルを防ぐため、また不動産登記の申請にも必要となるため、「贈与契約書」を作成するのが一般的です。この契約書には、当事者双方が署名し、実印を押印します。そのため、印鑑証明書なども必要となり、もらう側の協力が不可欠です。

遺言の場合
一方、遺言書の作成は、遺言者が単独の意思で行うことができます。誰かの同意を得る必要はありません。主な作成方法には、自分で手書きする「自筆証書遺言」と、公証役場で作成する「公正証書遺言」があります。自筆証書遺言は費用を抑えて作成しやすい一方、形式不備で無効になるリスクがあります。また、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用していない場合は、死後に家庭裁判所での「検認」という手続きが必要になります。公正証書遺言は作成に費用(数万円~)と手間がかかりますが、公証人が関与するため確実性が高く、死後の検認も不要です。

手続き着手のしやすさで言えば遺言の方が進めやすい場合がありますが、贈与は双方の合意に基づき、生前に財産移転の手続きを進められるというメリットがあります。

亡くなった後の手続き:遺言執行と相続登記

次に、亡くなった後に発生する手続きです。

生前贈与の場合
すでに生前に所有権の移転(登記)が完了しているため、その財産については、亡くなった後に特別な手続きは原則として不要です。相続手続きの負担を軽減できるという点で大きなメリットと言えるでしょう。

遺言の場合
遺言は亡くなった時点から効力が発生するため、その内容を実現するための手続きが死後に必要となります。自筆証書遺言であれば家庭裁判所での検認、そして遺言の内容に従って預貯金の解約や不動産の名義変更(相続登記)などを行います。これらの手続きは「遺言執行者」が中心となって進めますが、相続人にも一定の手間と時間がかかります。

特に、2024年4月1日から相続登記が義務化され、不動産を相続したことを知った日から3年以内に登記をしないと過料の対象となる可能性があります。遺言書があっても、この相続登記の手続きは必須です。これらの複雑な手続きは、私たち司法書士がサポートすることができます。

【比較3】将来のトラブルを防ぐには?遺留分への影響

「財産は、私の意思通りに分けたい」そう思うのは当然のことです。しかし、その想いが強すぎると、かえって家族間のトラブル、いわゆる「争続」の原因になることがあります。その最大の原因が「遺留分」です。

「遺留分」とは?最低限の取り分がトラブルの原因になることも

遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に法律上保障された、最低限の遺産の取り分のことです。例えば、遺言書に「全財産を長男に相続させる」と書かれていたとしても、配偶者や他の子供たちは、この遺留分に相当する金額を長男に対して請求する権利があります。これを「遺留分侵害額請求」と呼びます。

この制度は、遺された家族の生活を保障する目的がありますが、一方で、故人の意思と相続人の権利が対立し、相続トラブルの原因となることがあります。そして重要なのは、この遺留分は、遺言だけでなく生前贈与によっても侵害され得るという点です。

遺留分の詳しい計算方法などについては、贈与を受け取った方向けの記事で解説していますので、そちらもご覧ください。

生前贈与が遺留分の対象になる「10年ルール」に注意

「生前に贈与してしまえば、もうその財産は関係ないだろう」と考えるのは早計です。特に注意が必要なのが、相続人に対する生前贈与の扱いです。

民法の規定により、相続人に対して行われた贈与(特別受益といいます)は、相続開始前10年以内に行われたものまで、遺留分を計算する際の基礎財産に加算(持ち戻し)されます。

生前贈与が遺留分の対象となる10年ルールを解説する図解。相続開始前10年以内に行われた相続人への贈与は、遺留分算定の基礎財産に含まれることを示している。

例えば、長男の住宅購入資金として1,000万円を援助した場合、その贈与から10年以内に親が亡くなると、その1,000万円は遺産に加算されたものとして、他の兄弟の遺留分が計算されるのです。「かなり前の贈与だから関係ない」という思い込みは、将来の思わぬトラブルにつながるため注意が必要です。

遺言でも遺留分は無視できない!「付言事項」活用のススメ

もちろん、遺言を作成する場合も遺留分への配慮は不可欠です。特定の相続人に財産を多く残したいという想いがある場合でも、他の相続人の遺留分を侵害する内容の遺言は、遺留分侵害額請求を招く可能性があります。

トラブルを避けるためには、まず、各相続人の遺留分を計算し、それを侵害しない範囲で財産配分を設計することが最も確実な方法です。

しかし、どうしても特定の相続人に多く残したい事情がある場合もあるでしょう。その際に専門家としてお勧めしたいのが、遺言書の「付言事項」の活用です。付言事項には法的な拘束力はありませんが、なぜそのような財産配分にしたのかという理由や、家族への感謝の気持ちなどを自分の言葉で綴ることができます。

「事業を継いでくれた長男に、会社の土地建物を残したい。他の子供たちには、その分、預貯金を多く残します。皆、仲良く暮らしてください。」

このような想いを伝えることで、遺された家族の感情的なしこりを和らげ、無用な争いを防ぐ効果が期待できます。これも、円満な相続を実現するための大切なテクニックの一つです。遺留分対策としての持戻し免除の意思表示と併せて検討すると良いでしょう。

【ケース別診断】あなたに合うのは生前贈与?それとも遺言?

ここまでの比較を踏まえ、具体的なケースでどちらの方法が向いているかを考えてみましょう。ご自身の状況に近いものがあれば、ぜひ参考にしてください。

ケース1:特定の子供に確実に財産を渡したい場合

【状況】「家業を継いでくれる長男に、事業で使っている土地と建物を引き継がせたい。他の相続人との間で争いになることは避けたい。」

【診断】この場合は「生前贈与」が向いています。

【理由】生前贈与は、贈与者と受贈者の契約に基づき、生前に所有権を確実に移転できます。遺言の場合、死後に他の相続人から遺言の有効性を争われたり、遺言で指定されていない財産について遺産分割協議が必要になったりするリスクが残ります。意思を生前に反映しやすいという点では、生前贈与が有力な選択肢となる場合があります。ただし、高額な贈与税や不動産取得税がかかる可能性、そして他の相続人への遺留分への配慮は別途必要になります。場合によっては負担付死因贈与という選択肢も考えられます。

ケース2:相続税対策を最優先したい場合

【状況】「預貯金や有価証券など、相続財産がかなり多い。このままだと高額な相続税がかかりそうなので、できるだけ節税したい。」

【診断】この場合は「生前贈与(暦年贈与)」の活用が有効です。

【理由】年間110万円の非課税枠を利用した暦年贈与を、複数の相続人に対して長期間にわたって行うことで、相続財産そのものを着実に減らしていくことができます。遺言には財産を減らす効果はありませんので、節税という観点では計画的な生前贈与が非常に有効です。ただし、2024年からの税制改正で、相続開始前7年以内の贈与は相続財産に持ち戻されることになりました。より早期から計画的に始めることが重要です。

ケース3:財産の大半が自宅不動産である場合

【状況】「財産と呼べるものは、今住んでいる自宅の土地と建物くらい。預貯金はあまりない。」

【診断】この場合は「遺言」の活用が適しています。

【理由】このケースで自宅を生前贈与してしまうと、高額な贈与税・登録免許税・不動産取得税がかかる上、ご自身の老後の生活資金が不足するリスクがあります。むしろ、亡くなるまで自宅に住み続け、相続時に配偶者や同居の子供が「小規模宅地等の特例」を活用する方が、税金面で圧倒的に有利になる可能性が高いです。この特例を使えば、土地の評価額を最大80%も減額できます。誰が自宅を相続すればこの特例を使えるのかを明確にするためにも、遺言書で指定しておくことが最適な対策と言えます。不動産という分けにくい財産だからこそ、遺産分割の方法を遺言で定めておくことが重要です。

ケース4:渡す相手の将来が心配な場合

【状況】「財産を渡したい子供がいるが、少し浪費癖がある。一度に大金を渡してしまうと、すぐに使い果たしてしまわないか心配だ。」

【診断】この場合は「家族信託」など、別の選択肢も検討すべきです。

【理由】生前贈与や遺言では、一度財産を渡してしまうと、その後の使い道までコントロールすることはできません。このような場合は、「家族信託」という仕組みが有効です。信託契約を結ぶことで、例えば「自分が亡くなった後、子供には毎月10万円ずつ生活費として給付する」といったように、財産の管理や渡し方を長期的に指定できます。認知症対策としても有効な方法であり、公正証書遺言と組み合わせることで、より柔軟な財産管理が可能になります。生前贈与か遺言か、という二者択一に囚われず、よりご自身の希望に沿った方法を検討することが大切です。

まとめ:最適な対策は組み合わせ。まずは専門家へ相談を

ここまで生前贈与と遺言を様々な角度から比較してきましたが、いかがでしたでしょうか。

お気づきかもしれませんが、実は「生前贈与」と「遺言」は、どちらか一方を選ばなければならないものではありません。むしろ、両方のメリットを活かして組み合わせることが、最も効果的な相続対策になるケースが非常に多いのです。

例えば、

  • 相続税対策として、暦年贈与で毎年少しずつ現金を子供たちに渡しつつ、
  • 家族が揉めないように、分けにくい不動産については遺言で引き継ぐ人を明確に指定しておく。

このように、財産の種類や目的に応じて二つの制度を使い分けることで、よりきめ細やかで効果的な対策が可能になります。

しかし、最適な対策は、あなたの財産状況、家族構成、そして何よりも「誰に、どのように財産を残したいか」という想いによって、千差万別です。最適な対策は、一人ひとりの財産状況や家族関係によって異なります。ご自身での判断は、思わぬ税負担や将来のトラブルを招くリスクも伴います。

後悔を減らすためには、信頼できる専門家と一緒に、ご自身の状況に合った相続対策を検討することが有効です。当事務所では、ご相談時に必要な情報を丁寧にお伺いしながら、あなたにとって最善のプランをご提案いたします。まずはお気軽にご自身の状況をお聞かせください。

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