買戻特約の抹消登記、自分でできる?手続きと必要書類を解説

買戻特約の登記は、条件を満たせば抹消できる場合があります

ご自宅や相続した不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)を取得した際、「買戻特約」という見慣れない記載を見つけ、ご不安に思われているのではないでしょうか。「これは一体何だろう?」「将来、不動産を売却したり、ローンを組んだりする際に何か影響があるのでは?」と心配になるお気持ちは、よく分かります。

ですが、どうぞご安心ください。その買戻特約の登記は、抹消することが可能です。特に、2023年(令和5年)の法改正により、特定の条件を満たせば、以前よりもずっと簡単な手続きで抹消できるようになりました。

この記事では、司法書士である私が、買戻特約とは何か、なぜ抹消が必要なのか、そしてご自身の状況に合わせた具体的な手続きの方法まで、専門用語をできるだけ使わずに分かりやすく解説していきます。ご自身のケースで確認すべき点や、手続きの進め方を整理する参考にしていただけます。

古い登記に関する問題の全体像については、古い抵当権や仮登記の抹消手続きで体系的に解説していますので、併せてご覧いただくと、より理解が深まるでしょう。

まず確認!あなたの買戻特約抹消、どの手続きになる?

買戻特約の抹消手続きには、大きく分けて2つの方法があります。それは、不動産の所有者が単独で申請できる「単独申請」と、買戻しの権利を持つ人(買戻権者)と共同で申請する「共同申請」です。

ご自身がどちらの方法に当てはまるのか、まずは確認してみましょう。以下の流れに沿って、お手元の登記簿謄本をご確認ください。

買戻特約抹消登記が単独申請か共同申請かを判断するためのフローチャート。「売買契約日から10年経過しているか」を基準に分岐している。

判断基準は「売買契約の日から10年」が経過したかどうか

単独申請が可能かどうかを判断する最も重要な基準は、「売買契約の日から10年が経過しているか」という点です。

これは、2023年4月1日に施行された改正不動産登記法第69条の2によって定められた新しいルールです。かつて、特に住宅供給公社などが分譲した土地・建物には、転売を防ぐ目的などで買戻特約が付いているケースが多くありました。しかし、買戻期間(最長10年)が過ぎて効力を失った後も、登記だけが放置されていることが社会的な問題となっていました。この法改正は、そうした実態のない登記を整理しやすくするために行われたものです。

では、具体的に登記簿謄本のどこを確認すればよいのでしょうか。注目すべきは、権利部(乙区)にある買戻特約の登記記録の「原因」欄です。ここには「平成〇年〇月〇日売買」といった記載があります。この日付が、登記が申請された日ではなく、売買契約を締結した日です。この日付から現在(2026年08月30日)まで、10年以上が経過していれば、あなたは「単独申請」で手続きを進めることができます。

参照:不動産登記法 | e-Gov法令検索

買戻特約の登記を抹消しない場合のデメリット

「買戻期間の10年が過ぎているなら、登記を消さなくても実害はないのでは?」と思われるかもしれません。しかし、登記を残したままにすると、将来の手続きで支障となる場合があります。効力が切れた買戻特約の登記を放置することには、明確なデメリットが存在します。

  1. 不動産売却の障害になる
    将来、その不動産を売却しようとする際、買主や仲介する不動産会社から、登記の抹消を求められることがあります。買主の立場からすれば、登記簿に余計な記載が残っている物件を安心して購入することはできません。売却活動をスムーズに進めるためにも、事前に抹消を検討しておくと安心です。円滑な不動産個人間売買においても、信頼関係の基礎となります。
  2. 融資(ローン)の妨げになる
    その不動産を担保に住宅ローンやリフォームローンなどを組もうとする場合、金融機関の審査で登記の抹消を求められることがあります。金融機関は、担保物件の権利関係に問題がないかを重視するためです。
  3. 将来の相続人に負担をかける
    最も見過ごされがちなのが、この相続の問題です。あなたが手続きを先延ばしにすると、将来その不動産を相続するご家族が、この抹消手続きの負担を背負うことになります。その頃には、買戻権者であった法人が解散していたり、権利関係がさらに複雑化していたりする可能性も否定できません。問題をあなたの代で解決しておくことは、次世代への大切な配慮と言えるでしょう。

【ケース別】買戻特約の抹消登記手続きと必要書類

ご自身の状況が「単独申請」と「共同申請」のどちらに該当するか、ご確認いただけたでしょうか。ここからは、それぞれのケースについて、具体的な手続きの流れと必要書類を解説していきます。

買戻特約抹消登記の単独申請と共同申請の必要書類を比較した図解。単独申請は書類が少なく、共同申請は多いことが示されている。

単独申請:売買契約から10年以上経過している場合

売買契約の日から10年以上が経過している、最も一般的なケースです。この場合、買戻権者の協力は不要で、不動産の所有者だけで手続きを完結させることができます。

【手続きの流れ】

  1. 登記申請書の作成
    法務局のウェブサイトでテンプレートを入手するか、窓口で相談しながら作成します。
  2. 必要書類の準備
    基本的に、作成した登記申請書だけで足ります。
  3. 登録免許税の納付
    収入印紙を購入し、申請書に貼り付けます。
  4. 法務局へ申請
    不動産の所在地を管轄する法務局へ、窓口または郵送で申請します。

【必要書類】

  • 登記申請書
    これが最も重要な書類です。申請書の「登記の原因及びその日付」の欄には、単に「年月日抹消」と書くのではなく、「不動産登記法第69条の2の規定による抹消」と記載するのがポイントです。日付は不要です。
  • 登録免許税(収入印紙)
    不動産1個につき1,000円です。例えば、土地1筆と建物1棟であれば、合計2,000円分の収入印紙を申請書に貼付します。

このように、単独申請は抵当権抹消手続きなどと比べても、必要書類が少なく、ご自身で進めやすい手続きと言えるでしょう。

共同申請:売買契約から10年未満の場合

売買契約からまだ10年が経過していない場合は、原則通り、買戻権者との共同申請が必要です。この手続きの鍵は、いかにして買戻権者の協力を得るかにかかっています。

【手続きの流れ】

  1. 買戻権者への連絡・協力依頼
    まずは登記簿に記載されている買戻権者(当時の売主、多くは住宅供給公社など)に連絡を取り、買戻特約の抹消登記に協力してほしい旨を伝えます。
  2. 買戻権者から必要書類を受領
    買戻権者から、登記申請に必要となる書類(登記識別情報や委任状など)を受け取ります。
  3. 登記申請書の作成
    買戻権者と不動産所有者の双方を申請人として、登記申請書を作成します。
  4. 法務局へ申請
    書類一式を揃え、管轄の法務局へ申請します。

【必要書類】

  • 登記申請書
  • 登記原因証明情報
    買戻期間の満了、合意解除など、買戻特約の登記を抹消する原因を証明する書類で、通常は買戻権者の協力を得て作成します。
  • 登記識別情報通知(または登記済証)
    買戻権者が、買戻特約の登記をした際に法務局から交付された書類です。いわゆる「権利証」にあたるもので、万が一権利証がない場合は、別の手続きが必要になることがあります。
  • 買戻権者の委任状
    手続きを司法書士に依頼する場合や、あなたが買戻権者の代理として申請する場合に必要です。
  • 登録免許税(収入印紙)

買戻権者がUR都市機構や地方の住宅供給公社といった公的機関である場合、抹消登記手続きに関する窓口が設けられていることがほとんどです。まずはウェブサイトで情報を確認するか、電話で問い合わせてみましょう。

買戻特約の抹消登記にかかる費用

手続きにかかる費用は、ご自身で行うか、専門家である司法書士に依頼するかで変わってきます。

ご自身で手続きする場合

  • 登録免許税:不動産1個につき1,000円
  • その他実費:登記事項証明書の取得費用(1通600円程度)、郵送費など

司法書士に依頼する場合

  • 上記の実費
  • 司法書士報酬:15,000円~30,000円程度が目安となりますが、事案の難易度や事務所によって異なります。

単独申請で、平日に法務局へ行く時間を確保できる方であれば、ご自身での手続きも十分可能でしょう。一方で、共同申請で相手方とのやり取りが必要な場合や、相続が絡む複雑なケースでは、専門家へ依頼する方がスムーズです。当事務所では、司法書士報酬を明確に提示しておりますので、お気軽にお見積りをご依頼ください。

相続した不動産に買戻特約が!相続登記との関係は?

親御様から相続した不動産の登記簿を見て、初めて買戻特約の存在に気づく、というケースは少なくありません。この場合、注意すべき点があります。

それは、買戻特約の抹消登記を申請するためには、まず不動産の名義を被相続人(亡くなった方)から相続人であるあなたへ変更する「相続登記」を完了させなければならない、という点です。

登記上の所有者でなければ、抹消登記の申請人になることができないためです。相続登記と買戻特約の抹消登記は、それぞれ別の手続きですが、多くの場合、これらを同時に進めるのが最も効率的です。

相続した不動産の買戻特約について、司法書士に相談している男性。専門家のアドバイスに安心している様子。

相続人の調査や遺産分割協議、必要書類の収集など、相続手続きは煩雑になりがちです。もし、故人が所有していた不動産の全容が分からない場合は、所有不動産記録証明書を取得して調査することも有効です。相続登記と抹消登記をセットで司法書士にご依頼いただければ、必要な手続きをまとめて整理し、円滑に進めやすくなります。

手続きに不安な方は司法書士へ相談を

この記事をお読みいただき、買戻特約の抹消登記について、ご自身で手続きを進めるイメージが湧いた方もいらっしゃるかもしれません。特に売買契約から10年以上が経過している場合の単独申請は、ご自身で挑戦する価値のある手続きです。

しかし、以下のようなケースでは、専門家である司法書士にご相談いただくことをお勧めします。

  • 買戻権者(公社など)と連絡が取れない、または手続きへの協力を得られない
  • 相続が発生しており、相続人が多数いるなど権利関係が複雑になっている
  • 平日の日中に法務局へ行ったり、電話で問い合わせをしたりする時間を確保できない

ご自身で手続きを進める中で少しでも不安を感じたり、手間がかかりすぎると感じたりした際は、無理をせず専門家の力を頼ってください。登記の専門家として、あなたの状況に合わせた最適な解決策をご提案いたします。

えなみ司法書士事務所では、お客様のご負担を少しでも軽減できるよう、出張相談や夜間・土日祝日のご相談にも柔軟に対応しております。まずはお気軽にお問い合わせいただき、お悩みの状況をお聞かせください。詳しくは事務所概要・アクセスをご覧ください。

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