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「友人のために何かしたい」そのお気持ち、まずはお聞かせください
「もし、身寄りのない親しい友人が認知症になってしまったら…」
「財産の管理や日々の契約は、一体誰が支えてくれるのだろう…」
ご友人を大切に想うからこそ、このような不安に駆られ、ご自身の責任のように感じていらっしゃるかもしれません。そのお気持ちは、決して他人事ではなく、非常に切実な問題です。どうすれば友人を守れるのか、自分に何ができるのか、情報が少ない中で一人で抱え込んでしまうのは本当にお辛いことと思います。
以前、当事務所にも、ご友人のことで深く悩まれた方からのご相談がございました。
ご相談事例:配偶者やお子さんのいないご友人の将来について
ご相談者様は、長年親しくされてきたご友人(70代・お一人暮らし)の物忘れがひどくなってきたことを心配されていました。ご友人には配偶者もお子さんもおらず、頼れる親族も遠方にいるとのこと。「このままでは悪質な業者に騙されてしまうかもしれない」「何か法的な手続きで友人のお金や生活を守ることはできないだろうか」と、藁にもすがる思いで当事務所の初回無料相談(要予約)をご利用されました。
このご相談者様のように、ご自身の問題ではないからこそ、どこに相談すれば良いのか分からず、途方に暮れてしまう方は少なくありません。しかし、その「友人のために何かしたい」という温かいお気持ちこそが、解決への最も大切な第一歩なのです。
この記事では、成年後見制度の専門家である司法書士として、身寄りのないご友人のためにあなたができること、法的な手続きの流れ、そして費用の不安を解消するための公的な支援制度について、一つひとつ丁寧に解説していきます。
どうか一人で悩まず、まずは正しい知識を得ることから始めてみませんか。この記事が、あなたの心の負担を少しでも軽くし、大切なご友人を守るための次の一歩を踏み出す道しべとなれば幸いです。
成年後見の申立て、友人でもできる?原則と例外を解説
ご友人を心配するあまり、「自分が成年後見の申立人になれないだろうか?」とお考えになるのは自然なことです。しかし、法律上のルールはどのようになっているのでしょうか。ここでは、専門家の立場から明確にお答えします。

原則:申立てができるのは法律で定められた人のみ
結論から申し上げますと、原則として、ご友人が成年後見の申立てを行うことはできません。
成年後見制度は、ご本人の財産やプライバシーに深く関わる非常に強力な制度です。そのため、誰でも自由に申立てができるわけではなく、民法という法律によって申立てができる人(申立人)の範囲が厳格に定められています。
具体的には、以下の人たちに限られています。
- 本人
- 配偶者
- 四親等内の親族(子、親、兄弟姉妹、甥・姪、いとこ等)
- 未成年後見人、未成年後見監督人
- 保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人
- 検察官
- 市町村長
このように申立人の範囲が限定されているのは、ご本人の意思を尊重し、制度の濫用を防ぐためです。残念ながら「友人」はこの範囲に含まれていないため、直接の申立人になることはできないのが現状です。
友人だからこそできる大切な役割とは
「申立てができないなら、自分は無力なのか…」と落胆される必要は全くありません。むしろ、ご本人を最も身近で見てきたご友人だからこそ果たせる、非常に重要な役割があります。
それは、行政や専門家への「橋渡し役」です。
- 情報提供者として:ご本人の日々の生活の様子、困っていること、性格やお金の使い方など、親族以上に詳しく知っているのはご友人かもしれません。その情報は、後述する「市町村長申立て」の必要性を判断する上で、行政にとって極めて貴重なものとなります。
- 本人の意思の代弁者として:ご本人が何を望んでいるのか、どのような生活を送りたいのか。判断能力が低下していく中で、その想いを汲み取り、代弁できるのは、信頼関係のあるご友人ならではの役割です。
- 支援へのきっかけ作り:ご本人が一人で公的な窓口に相談に行くのは困難な場合が多いでしょう。ご友人が付き添って相談の場を設け、手続きがスムーズに進むようサポートすることは、大きな助けとなります。
直接の申立人にはなれなくても、ご友人の存在がなければ、ご本人が必要な支援にたどり着けないケースは少なくありません。あなたの行動が、ご友人を守るための大きな力になるのです。
身寄りのない友人のために「市町村長申立て」という選択肢
では、ご友人のような身寄りのない方が成年後見制度を利用したい場合、具体的にどうすればよいのでしょうか。その最も現実的で強力な解決策が「市町村長申立て」です。
市町村長申立てとは?身寄りのない方のための公的支援
市町村長申立てとは、その名の通り、市区町村の長が申立人となって家庭裁判所に成年後見の開始を申し立てる制度です。これは、老人福祉法などの法律に基づいており、まさに身寄りがなくご自身で申立てができない方のための公的なセーフティネットとして機能しています。
特に、以下のような状況にある方々を保護することを目的としています。
- 身寄りのない一人暮らしの高齢者の方
- 親族がいても疎遠であったり、協力を得られなかったりする方
- 虐待を受けている、または財産を不当に侵害されている恐れがある方
この制度を利用することで、本来申立人になれないご友人に代わって、行政が法的な手続きを進めてくれるのです。

最初の相談窓口は「地域包括支援センター」です
市町村長申立てを検討するにあたり、あなたが最初に向かうべき場所は「地域包括支援センター」です。
地域包括支援センターは、高齢者の暮らしを地域で支えるための総合相談窓口で、各市区町村に設置されています。ここには、社会福祉士、保健師、主任ケアマネジャーといった専門職が常駐しており、成年後見制度に関する相談にも無料で対応してくれます。
相談に行く際は、ご友人の状況について、分かる範囲で情報をまとめておくと話がスムーズに進みます。
【まとめておくと良い情報】
- ご友人の基本情報:氏名、年齢、住所、家族構成など
- 現在の生活状況:どのようなことで困っているか(金銭管理、契約手続きなど)、最近の様子の変化など
- 財産に関する情報:預貯金、不動産、年金収入など、おおまかな状況
- 健康状態::かかりつけの病院、診断されている病名など
まずは「身寄りのない友人のことで相談したい」と電話をしてみてください。専門家が親身に話を聞き、市町村長申立てを含め、ご友人に最適な支援策を一緒に考えてくれるはずです。
費用が心配な方へ|申立費用と後見人報酬の負担について
成年後見制度を利用する上で、多くの方が心配されるのが費用面の問題です。「友人のためとはいえ、自分がお金を負担するのは難しい」「本人に支払い能力がなかったらどうしよう」といった不安は当然のことです。ここでは、費用の全体像と、負担を軽減するための公的制度について解説します。
申立てにかかる費用は誰が負担する?
成年後見の申立てには、家庭裁判所に納める実費がかかります。主な内訳は以下の通りです。
| 費目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 収入印紙代 | 800円 |
| 郵便切手代 | 3,000円~5,000円程度 |
| 登記手数料(収入印紙) | 2,600円 |
| 医師の診断書作成費用 | 数千円~数万円 |
| (鑑定が必要な場合)鑑定費用 | 5万円~10万円程度 |
これらの費用は、原則として申立人が一時的に立て替えることになります。しかし、市町村長申立ての場合、市町村が申立費用や後見人報酬の一部または全部を助成する制度(成年後見制度利用支援事業)を実施している自治体があります。ただし助成の有無・対象範囲・要件や上限は市町村により異なるため、詳細は該当市区町村に確認してください。
後見人への報酬は本人の財産から支払われます
成年後見人(司法書士などの専門家が選ばれることが多いです)が選任されると、その業務に対する報酬が発生します。この報酬は、申立人やご友人が支払うものではなく、家庭裁判所がご本人の財産状況に応じて金額を決定し、ご本人の財産の中から支払われます。
報酬額の目安は、管理する財産の額にもよりますが、報酬は家庭裁判所が本人の財産状況や業務量に応じて決定します。目安としては月額数千円〜数万円程度とされることが多いですが、個別事案で上下します。
重要なのは、後見人報酬はあくまでご本人が負担するものであり、あなたが肩代わりする必要はないということです。
資力がない場合は「成年後見制度利用支援事業」を活用
「本人の財産がほとんどなく、申立て費用や後見人報酬の支払いが難しい」というケースも少なくありません。そのような経済的に困窮している方を支えるために、「成年後見制度利用支援事業」という公的な助成制度があります。
これは、各市区町村が主体となって実施している事業で、資力が乏しい方に対して、申立てにかかる費用や後見人への報酬の一部または全部を助成するものです。
- 対象となる方:生活保護を受給している方や、それに準ずる低所得の方など、市町村が定める要件を満たす方。
- 助成の内容:申立費用(収入印紙、切手代、診断書料など)や、後見人等への報酬。
- 相談・申請窓口:お住まいの市区町村の高齢者福祉担当課や、地域包括支援センターなど。
この制度があるため、経済的な理由だけで成年後見制度の利用を諦める必要はありません。ご友人の資力に不安がある場合も、まずは地域包括支援センターで相談してみることが大切です。
認知症になる前の対策「任意後見制度」という備え
これまで解説してきた成年後見制度(法定後見)は、すでにご本人の判断能力が低下した後に、家庭裁判所が後見人を選ぶものです。しかし、もしご友人の判断能力がまだしっかりしている段階であれば、「任意後見制度」という、よりご本人の意思を尊重できる備えがあります。

本人が後見人を選べる任意後見契約とは?
任意後見制度とは、ご本人が元気で判断能力が十分なうちに、「将来、もし自分の判断能力が衰えたら、この人(任意後見人)に、このような支援(財産管理や身上監護)をお願いします」という内容の契約を、公証役場で公正証書によって結んでおく制度です。
【任意後見制度の主なメリット】
- 自分で後見人を選べる:信頼できる友人や専門家など、ご自身が最も信頼する人を後見人に指定できます。
- 支援内容を決められる:どのような財産管理をしてほしいか、どのような介護サービスを希望するかなど、支援の内容を自由に設計できます。
- 本人の意思が最大限尊重される:ご自身の将来をご自身の意思で決める「自己決定権の尊重」という理念に基づいた制度です。
友人として任意後見人になる際の注意点
ご友人から「あなたに任意後見人になってほしい」と頼まれることもあるかもしれません。それは大変光栄なことですが、引き受ける際にはいくつかの注意点があります。
任意後見人になるということは、ご友人の財産を守り、生活を支えるという非常に重い責任を長期間にわたって負うことを意味します。具体的には、以下のような点を慎重に考慮する必要があります。
- 責任の重さ:他人の財産を預かることには、正確な収支管理や定期的な報告義務が伴います。万が一、不適切な管理があれば法的な責任を問われる可能性もあります。
- 長期的な負担:後見業務は、ご友人が亡くなるまで続く可能性があります。ご自身の生活や健康状態の変化も踏まえ、長期間にわたり責任を果たせるかを考える必要があります。
- 他の親族との関係:もしご友人に疎遠な親族がいる場合、後から財産管理について意見されたり、トラブルになったりする可能性もゼロではありません。
友情だけで安易に引き受けるのではなく、その責任の重さを十分に理解することが不可欠です。場合によっては、ご自身がなるのではなく、私達のような司法書士などの専門家を任意後見人とすることも選択肢の一つとしてご友人に提案することも、本当の意味でご友人を思うことであり、賢明な判断と言えるでしょう。
まとめ:一人で悩まず、まずは専門家にご相談ください
身寄りのないご友人が認知症になった場合、ご友人としてできることはたくさんあります。この記事の要点を振り返ってみましょう。
- 友人が直接、成年後見の申立人になることは原則としてできない。
- しかし、行政や専門家への「橋渡し役」として、非常に重要な役割を担うことができる。
- 具体的な解決策として「市町村長申立て」があり、最初の相談窓口は「地域包括支援センター」である。
- 申立費用や後見人報酬は、本人の資力がない場合、公的な助成制度(成年後見制度利用支援事業)を利用できる。
- 判断能力があるうちなら、本人の意思で後見人を選べる「任意後見制度」も有効な選択肢となる。
何よりも大切なのは、あなたが一人で全ての責任を背負い込まないことです。ご友人を思うそのお気持ちを、ぜひ公的な支援機関や私達のような専門家につないでください。
えなみ司法書士事務所は、横浜市・川崎市を中心に、相続や成年後見に関するご相談に力を入れています。「いきなり役所に相談するのは少し不安」「専門家の意見を一度聞いてみたい」という方も、どうぞご安心ください。
当事務所では、ご自宅などご指定の場所への無料訪問相談(横浜市・川崎市内に限る。要予約)も実施しており、平日・土日祝日を問わず21時までご対応可能です。まずはあなたのお話をお聞かせいただくことから始めさせてください。大切なご友人を守るため、私達が全力でサポートいたします。
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代表 司法書士 榎並慶太(神奈川県司法書士会所属 第2554号)
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