前々回の記事(相続放棄③)で、判例(最判昭59.4.27)は熟慮期間の起算点を「相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識したとき又は通常これを認識しうべき時から」とし、繰下げていることをご紹介しました。
今回は、これを更に深掘り、この繰下げがいかなる場合に認められるかについて、根拠や基準とともに具体例をご紹介します。
繰下げが認められる根拠は、要するに相続放棄ができなくなることの自己責任が問えない場合に繰下げが認められております。即ち、判例の言葉を借りれば「相続開始原因及び自己が相続人になったことを知った時点において3か月以内に相続放棄をしなかったのが、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において被相続人に相続財産が全く存在しないと信じるについて相当の理由がある場合」には相続人が相続放棄をしなかったのはやむを得ないことを根拠としております。
このことから、繰下げが認められる基準は、相続人と被相続人との生前の交流状況、債務の内容が被相続人の生活歴、生活状況等から想定しうるものであるか否か等から、相続人に相続財産の有無の調査を期待することの著しい困難性にあると考えられております。
そこで、具体的例として、被相続人の生前の不動産取引主任者としての不法行為債務について、被相続人が高齢で、勤務状況も1日2,3時間しかない状況下で発生した不法行為債務については、被相続人が調査することは期待しがたいとして繰下げが認めております。
また、被相続人は相続人が10才の頃に家出し、死亡するまでの20年にわたり交際が無い場合、相続人は被相続人の生活状況を一切把握しておらず、相続財産の調査を期待することが著しく困難な事情があるとして繰下げを認めております。
以上、熟慮期間の起算点の繰下げの根拠、基準、繰下げが認められた具体例をご紹介しました。
次回は、繰下げが認められなかった事例をご紹介します。
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