熟慮期間の起算点について(相続放棄③)

 相続放棄のついての最も多い質問が「相続放棄は何時迄にしなければならいか?」という熟慮期間についての質問です。

単純承認・限定承認・相続放棄のどれを選択するかは、「相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に決めなければなりません(民法915条1項。この期間を熟慮期間と言います。)選択しないまま3か月が経過すると単純承認したことになり(同法921条2号)、積極財産のみならず負債等の消極財産も全て相続します。

この「相続人が自己ために相続の開始があったことを知った時」の意義について、判例上大別して二つの点から絞りがなされております。

相続人となったことの認識の必要性からの絞り

 例えば、第一順位の相続人が相続放棄をしたが、第二順位の相続人がそれを知らなかった場合、第二順位の相続人は自分が相続人となっていたことを知る由もなく、相続放棄することができる法的地位あることを認識していないため相続放棄の手続きを期待できないできないことから、判例は熟慮期間の起算点は「被相続人の死亡を知ったことかつ相続人になったことを覚知した時から」として相続人であることの認識を必要として起算点を繰り下げています(大判大10.10.20等)。

相続財産の存在についての認識又は認識の可能性からの絞り

 次に、仮に自身が相続人であることを知ったとしても、相続人と被相続人が長い間音信不通で交流がなかった場合や被相続人には相続財産が全くないと思い何もしなかったような場合に、思いもよらず債権者から請求を受け、もはや相続放棄ができないとすると相続人に酷な場合が生じる。そこで、判例は「熟慮期間は相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識したとき又は通常これを認識しうべき時から起算すべき」とし、起算点を繰り下げています(最判昭59.4.27)。

 ただ、実務では、上記の判例が踏襲されているものの、起算点の繰り下げは具体的事案ごとにケースバイケースで判断されています。

次回以降、判例問題となったケースを参考にいかなる場合に起算点の繰り下げが認められたか紹介していきます。

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