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「負担付死因贈与」と「遺贈」でお悩みの方へ
「長年連れ添ったパートナーに、財産の大部分を確実に残したい」
「自分の介護を最後まで担ってくれる約束で、自宅を譲りたい」
このようにお考えの方が、ご自身の亡き後に特定の誰かへ財産を渡す方法として、「負担付死因贈与(ふたんつきしいんぞうよ)」と「遺贈(いぞう)」という選択肢があります。
しかし、この二つの方法は似ているようで、実は重要な違いがたくさんあります。「どちらが自分の想いを叶えるのに最適なのだろう?」「手続きが複雑そうで、何から手をつけていいか分からない…」と、専門用語の多さに戸惑い、一人で悩んでいらっしゃるのではないでしょうか。
ご安心ください。この記事では、相続手続きを専門とする司法書士が、まるでカウンセリングでお話を伺うように、あなたの疑問や不安に一つひとつ丁寧にお答えしていきます。
この記事を最後までお読みいただければ、
- 負担付死因贈与と遺贈の決定的な違いが明確になります。
- ご自身の状況や想いに、どちらの方法が合っているか判断できるようになります。
- 手続きを確実にするためのポイントや、費用の目安がわかります。
あなたの「大切な人へ、大切な財産を確実に届けたい」という想いを実現するため、まずは一緒に知識を整理し、最適な道筋を見つけていきましょう。

負担付死因贈与と遺贈の5つの重要な違いを比較
まずは、負担付死因贈与と遺贈の最も重要な違いを5つのポイントに絞って見ていきましょう。言葉は難しいですが、一つひとつの意味を理解すれば、決して怖いものではありません。両者の根本的な性質の違いを知ることが、最適な選択への第一歩です。
| 比較項目 | 負担付死因贈与 | 遺贈 |
|---|---|---|
| ① 決め方 | 双方の合意(契約) | 一方的な意思表示(遺言) |
| ② 形式 | 口頭でも可能(契約書推奨) | 法律で定める厳格な書式が必須 |
| ③ 撤回 | 原則、一方的には撤回できない(負担履行後) | いつでも自由に撤回できる |
| ④ 不動産登記 | 生前に仮登記ができる | 仮登記はできない |
| ⑤ 税金・費用 | 不動産取得税がかかる | 不動産取得税は原則かからない(特定遺贈・相続人以外は課税) |
違い① 決め方:双方の「合意(契約)」か一方的な「意思表示(遺言)」か
最も根本的な違いは、その成立の仕方にあります。
- 負担付死因贈与:「私が亡くなったら、この家をあなたにあげます。その代わり、私が生きている間は生活の面倒を見てくださいね」という贈与者(あげる側)の申込みに対し、受贈者(もらう側)が「わかりました、お世話します」と承諾することで成立する、お互いの合意に基づく「契約」です。双方の意思が合致して初めて成り立ちます。
- 遺贈:遺言者が「私が亡くなったら、この家を〇〇さんに遺贈する」と、一方的な意思表示で遺言書に書き記すことで成立します。相手の同意は必要なく、亡くなるまで相手に知らせないことも可能です。
この「契約」か「単独行為」かという違いが、後の撤回のしやすさなど、様々な面に影響してくる重要なポイントです。
違い② 形式:口頭でも成立するか「厳格な書式」が必須か
次に、形式の違いです。
- 負担付死因贈与:契約ですので、極端な話、口約束でも成立します。
- 遺贈:必ず、民法で定められた厳格な方式(自筆証書遺言、公正証書遺言など)に従って遺言書を作成しなければ無効となります。
「口約束でもいいなら、死因贈与は簡単だ」と思われるかもしれませんが、これは大きな落とし穴です。亡くなった後では「言った、言わない」の水掛け論になり、他の相続人との間で深刻なトラブルに発展するケースが後を絶ちません。そのため、死因贈与契約を結ぶ際は、後でご紹介する「公正証書」という形で契約書を作成することが、ご自身の想いを守るために極めて重要になります。
違い③ 撤回:条件によって「撤回できない」場合があるか
一度決めた内容を後から変えられるか、という点も大きな違いです。
- 遺贈:遺言は、遺言者の最終の意思を尊重する制度です。そのため、いつでも自由に遺言書を書き直すことで、内容を撤回・変更できます。
- 負担付死因贈与:こちらは少し複雑です。民法上は遺贈のルールが準用されるため、原則として撤回は自由とされています。しかし、「負担付」の場合、受贈者(もらう側)がすでに負担(介護など)の全部または一部を履行している場合は、一方的に契約を撤回することは信義に反するため、特段の事情がない限り撤回できない、というのが判例(最判S57.4.30)の考え方です。
これは、贈与者(あげる側)にとっては自由度が低いデメリットに感じられるかもしれません。しかし、受贈者(もらう側)からすれば、「約束通りお世話をしたのに、後から一方的に約束を破棄される心配がない」という大きなメリットになります。

違い④ 不動産登記:「仮登記」で権利を保全できるか
不動産を渡したいとお考えの方にとって、これは決定的に重要な違いであり、私たち司法書士が最も専門性を発揮するポイントです。
- 負担付死因贈与:契約を結んだ後、贈与者が生きている間に、不動産の所有権が将来移転することを公示する「始期付所有権移転仮登記」という手続きができます。
- 遺贈:遺言はあくまで遺言者が亡くなってから効力が発生するため、生前に仮登記をすることはできません。
では、仮登記をすると何が良いのでしょうか?
仮登記をしておけば、万が一、贈与者が亡くなる前にその不動産を第三者に売ってしまったり、贈与者の借金のカタに差し押さえられたりしても、「この不動産の所有権は、将来私に移転することが決まっています」と第三者に対して主張(対抗)できます。つまり、もらう権利を法的に保全し、横取りされるリスクを防ぐことができるのです。
不動産を確実に渡したいと強く願うのであれば、この仮登記ができるという点は、死因贈与契約の非常に大きなメリットと言えるでしょう。(古い抵当権・仮登記の抹消|相続時のリスクと解決策を解説)
違い⑤ 税金・費用:手続きにかかるコストの違い
手続きにかかる税金や費用も気になるところですよね。まず、どちらの方法でも、遺産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合には、財産を受け取った側に相続税が課税される可能性があります。
違いが大きく出るのは、不動産の名義変更(登記)にかかる税金です。
- 不動産取得税
- 負担付死因贈与:本則は不動産の価額の4%ですが、宅地や住宅については、一定の要件下で軽減税率(3%)が適用される場合があります。適用要件や期限は変更される可能性があるため、詳細は取得時点の都道府県税事務所等にご確認ください。
- 遺贈:相続人が遺贈で取得した場合は非課税です。相続人以外が取得した場合は課税されます。
- 登録免許税(登記の際の税金)
- 負担付死因贈与:不動産の価額の2%です。
- 遺贈:相続人が遺贈で取得した場合は0.4%、相続人以外が取得した場合は2%です。
このように、財産を渡す相手が法定相続人(配偶者や子など)である場合は、遺贈の方が税制面で大きく優遇されています。これは重要な判断材料の一つになります。
【ケース別】あなたに合うのはどっち?メリット・デメリットから考える
ここまで見てきた違いを踏まえて、具体的にどのような場合にどちらの方法が適しているのか、贈与者(あげる側)と受贈者(もらう側)それぞれの視点から考えてみましょう。

負担付死因贈与がおすすめなケース
以下のような想いやご希望をお持ちの方には、負担付死因贈与が向いていると言えます。
- 「自分の介護や生活の面倒を見てもらう」ことを条件に、財産を渡したい方
相手に一定の義務(負担)を果たしてもらうことを約束させたい場合に最適です。相手が約束を守ってくれる限り、一方的に撤回される心配が少ないため、お互いにとって安心感があります。 - 内縁の妻や長年お世話になった友人など、相続権のない人に「確実に」財産を残したい方
生前に契約を交わし、相手の合意を得ておくことで、ご自身の意思を明確にできます。特に不動産の場合は仮登記をすることで、他の相続人から権利を主張されるリスクを大幅に減らせます。 - 不動産を確実に渡すため、生前に権利を保全しておきたい方
前述の通り、仮登記ができるのは死因贈与契約の最大の強みです。不動産という重要な財産を確実に守りたい場合には、この方法が非常に有効です。特に、贈与者が借入や滞納税等があり差押えの危険のある場合、仮登記をすることで差押債権者に優先権を主張でき、確実に権利を保全できます。
遺贈がおすすめなケース
一方で、こちらのような状況の方には、遺贈がより適しているでしょう。
- 財産を渡すことを、相手や他の相続人に知られずに準備を進めたい方
遺言は、ご自身の単独の意思で、秘密裏に作成することができます。亡くなるまでその内容を誰にも知られることなく、準備を進めることが可能です。 - 将来、気持ちが変わる可能性があるので、自由に変更・撤回できるようにしておきたい方
人の気持ちや状況は変わるものです。「今はこう考えているけれど、数年後はどうなるか分からない」という場合、いつでも自由に書き直せる遺言の方が柔軟に対応できます。 - 財産を渡す相手が配偶者や子などの法定相続人で、税金の負担を少しでも軽くしたい方
先ほどご説明した通り、不動産取得税や登録免許税の面で、相続人が財産を受け取る場合は遺贈が有利です。無用な税負担を避けるための賢い選択と言えます。
手続きを確実にする3つの重要ポイントと費用
どちらの方法を選ぶにしても、あなたの最後の想いを確実に実現するためには、手続きを正しく、そして慎重に進めることが不可欠です。ここでは、特に重要な3つのポイントと、それに伴う費用について解説します。
ポイント① なぜ「公正証書」で契約書を作成すべきか?
負担付死因贈与契約は口約束でも成立するとお伝えしましたが、トラブルを防ぎ、手続きをスムーズに進めるためには、必ず「公正証書」で契約書を作成することを強くお勧めします。
公正証書とは、公証役場で公証人という法律の専門家が作成する公的な文書です。これには以下のような大きなメリットがあります。
- 高い証明力:公証人が内容を確認して作成するため、後から「そんな契約はしていない」といった争いが起きるのを防ぎます。
- 安全な保管:原本が公証役場に保管されるため、紛失や偽造、改ざんの心配がありません。
- スムーズな手続き:公正証書があれば、贈与者が亡くなった後の不動産登記手続きを、受贈者が単独でスムーズに進めることができます。(公正証書がない場合、他の相続人全員の実印と印鑑証明書が必要になるなど、手続きが非常に煩雑になります)
公正証書の作成には、公証人に支払う手数料がかかります。これは契約の目的となる財産の価額によって変動します。
| 目的の価額 | 手数料 |
|---|---|
| 100万円以下 | 5,000円 |
| 500万円超1,000万円以下 | 17,000円 |
| 1,000万円超3,000万円以下 | 23,000円 |
| 3,000万円超5,000万円以下 | 29,000円 |
※上記は一例です。事案により加算される場合があります。
多少の費用はかかりますが、将来のトラブルを未然に防ぎ、想いを確実に実現できる安心感を考えれば、その価値は非常に大きいと言えるでしょう。

ポイント② 不動産なら必須!「仮登記」の手続きと注意点
不動産の負担付死因贈与契約を結んだら、速やかに「始期付所有権移転仮登記」を申請することが極めて重要です。これは、あなたの権利を守るためのいわば「予約」のようなものです。
仮登記を怠ると、もし贈与者があなた以外の第三者に不動産を売却して登記を移してしまった場合、あなたが「この家はもらえるはずだった」と主張しても、法的には認められなくなってしまいます。このような悲しい事態を防ぐためにも、仮登記は必須の手続きです。
【仮登記の手続きの流れ(司法書士に依頼した場合)
- 司法書士が贈与者・受贈者と面談し、意思確認・本人確認
- 司法書士が登記に必要な書類(登記原因証明情報など)を作成
- 贈与者から実印・印鑑証明書・登記識別情報(権利証)などをお預かり
- 受贈者から住民票などをお預かり
- 司法書士が法務局へ登記申請
- 登記完了後、登記識別情報通知などをお渡し
仮登記の申請には、登録免許税として不動産の固定資産評価額の1%がかかります。手続きは専門的で複雑なため、私たち司法書士にお任せいただくのが最も安全で確実です。
ポイント③ 総額はいくら?専門家(司法書士)への依頼費用
負担付死因贈与契約や遺言書の作成を司法書士に依頼する場合、どれくらいの費用がかかるのか、ご不安に思われる方も多いでしょう。
当事務所では、お客様に安心してご依頼いただけるよう、分かりやすい料金体系と、追加料金のない総額表示を心がけております。
【えなみ司法書士事務所の費用目安】
- 負担付死因贈与契約書作成サポート:33,000円(税込)~
- 公正証書作成サポート:上記に加えて 11,000円(税込)~
- 仮登記申請:33,000円(税込)~ + 登録免許税実費
- 公正証書遺言作成サポート:88,000円(税込)~
※事案の難易度や財産の額によって変動します。必ず事前にお見積りを提示し、ご納得いただいた上で手続きを進めますのでご安心ください。
手続きを進める上での注意点|遺留分トラブルを避けるために
最後に、どちらの方法を選ぶにしても必ず知っておいていただきたいのが「遺留分(いりゅうぶん)」の問題です。
遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人(配偶者、子、親など)に法律上最低限保障されている遺産の取り分のことです。
例えば、「内縁の妻に全財産を死因贈与する」という契約を結んだとしても、もし法定相続人であるお子さんがいれば、そのお子さんはご自身の遺留分を主張し、「遺産の一部を渡してください」と請求する権利(遺留分侵害額請求)があります。
この遺留分を無視した内容の死因贈与契約や遺言は、無効になるわけではありませんが、将来、相続をめぐる深刻なトラブルの火種になる可能性が非常に高いのです。
あなたの想いを円満に実現するためには、他の相続人の遺留分にも配慮した財産の分け方を検討することが大切です。どのくらいの配慮が必要かについては、ご家族構成や財産状況によって異なりますので、ぜひ一度、専門家にご相談ください。
まとめ:あなたの想いを確実に実現するために、専門家へご相談ください
今回は、「負担付死因贈与」と「遺贈」という、二つの大切な想いを託す方法について詳しく解説してきました。
【この記事のポイント】
- 負担付死因贈与は「契約」。双方の合意に基づき、特に負担の履行後は撤回が難しく、不動産の仮登記で権利を保全できる「確実性」が強み。
- 遺贈は「遺言」。一方的な意思表示で、いつでも自由に撤回でき、相続人への税負担が軽い「自由度」と「柔軟性」が強み。
- どちらを選ぶかは、「誰に」「何を」「どのような条件で」「どれだけ確実に」渡したいかによって決まります。
- 想いを確実に形にするためには、「公正証書」の作成や「仮登記」、そして「遺留分」への配慮が不可欠です。
どちらの方法がご自身にとって最適なのか、最終的な判断は簡単なものではないかもしれません。ご自身の想いやご家族との関係、財産の内容などを総合的に考え、法的な知識と実務経験を持つ専門家と一緒に検討することが、後悔のない選択への一番の近道です。
私たち、えなみ司法書士事務所(所在地:〒220-0004 横浜市西区北幸1丁目11番1号 水信ビル7階)は、代表の司法書士 榎並慶太(神奈川県司法書士会所属 第2554号)が、皆様のこうしたお悩みに寄り添い、「ご安心」を提供することを使命としています。
「まずは話だけ聞いてみたい」「自分の場合はどうなるのか知りたい」そんなお気持ちで構いません。当事務所では、お客様のご自宅などご希望の場所へ伺う「無料訪問面談」を実施しております。平日・土日祝日問わず21時まで対応しておりますので、お仕事でお忙しい方でも、ご都合の良い時間にご相談いただけます。
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