契約満了後の借地トラブル解決法|善意占有者の退去方法

契約満了後も住み続ける借地…地主様のその善意が招く法的リスク

「契約期間はとっくに満了しているのに、長年の付き合いだからと強く言えず、そのまま住んでもらっている…」
「土地を貸していた親戚が亡くなった。建物が残ったままだが、相続人が誰なのか分からない…」

このような状況に、頭を悩ませていらっしゃる地主様は少なくありません。特に、当事務所にご相談いただくケースで多いのが、親戚に土地を貸していた、というものです。契約が満了しても、親戚関係ということもあり、建物を片付けて出ていってほしいとは言い出しにくい。そうこうしているうちに、その親戚の方が亡くなってしまい、問題がより複雑になってしまった、というご相談でした。

お世話になった方への温情や善意から占有を黙認しているそのお気持ち、痛いほどよく分かります。しかし、その「善意」が、法的には「黙示の更新」とみなされ、意図せず借地契約が継続している状態になってしまったり、相続が絡むことで解決がさらに困難になったりするリスクをはらんでいるのです。

このまま放置してしまうと、ご自身の土地であるにもかかわらず、思うように活用できなくなるばかりか、次世代にまで問題を先送りしてしまうことになりかねません。この記事では、司法書士として、このような複雑に絡み合った借地問題を法的に整理し、円満な解決へと至るための道筋を分かりやすく解説していきます。一人で抱え込まず、まずは現状を正しく把握することから始めましょう。

相続が関係する複雑な手続きの全体像については、遺産整理業務(相続手続きのサポート)で体系的に解説しています。

まず確認すべきこと:「黙示の更新」は成立していますか?

契約満了後の借地トラブルを解決する上で、最初に確認すべき最も重要なポイントは、「黙示の更新」が成立しているかどうかです。これは、地主様と借地人(またはその相続人)との間に、今も法的な契約関係が続いているのか、それとも完全に終了しているのかを判断する上で、決定的な違いを生むからです。

借地借家法では、借地権の存続期間が満了する場合に、借地権者が契約の更新を請求したときや、満了後も土地の使用を継続するときは、土地上に建物がある場合に限り、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(いわゆる法定更新)。ただし、借地権設定者(地主)が遅滞なく異議を述べたときは、この限りではありません。言葉は難しく聞こえますが、要は「暗黙の了解で契約が続いている」と法的に判断される状態を指します。

「黙示の更新」が成立するケースとしないケースを比較する図解。地代の受領や異議の有無が判断のポイントであることを示している。

地代を受け取り続けている場合のリスク

「黙示の更新」が成立してしまう最も典型的なケースが、契約期間が満了した後も、地主様が地代を受け取り続けている場合です。地主様としては「住み続けているのだから、せめて地代くらいは」というお気持ちかもしれません。しかし、法的には、地代を受け取るという行為は「契約の継続を承認した」と解釈される可能性が非常に高いのです。

特に、何の異議も唱えずに地代を受け取ってしまうと、後になって「契約は満了していたはずだ」と主張しても、その言い分が認められにくくなります。この状態は、地主様にとって、将来的に土地の明け渡しを求める際に「正当事由」が必要になったり、高額な立ち退き料の支払いが必要になったりする、極めて不利な状況と言えるでしょう。

地代は受け取っていないが、退去を求めていない場合

では、地代は受け取っていないものの、特に退去を求めず、占有を黙認している場合はどうでしょうか。この場合、直ちに「黙示の更新」が成立するとまでは言えないかもしれません。しかし、この状態を長期間放置することは、決して得策ではありません。

なぜなら、長期間にわたって平穏に占有が続いたという事実が、相手方の権利を保護する方向で考慮されたり、いざ明け渡しを求める際に、解決金(事実上の立ち退き料)を支払わなければ交渉がまとまらなくなったりする可能性があるからです。問題を先送りにすることは、静かにリスクを育てているのと同じことなのです。

参照:借地借家法(平成三年法律第九十号)

【状況別】契約満了後の借地人を退去させるための正しい手順

ご自身の状況が「黙示の更新」に当たる可能性があるか、それとも契約は完全に終了していると言えるか、おおよその見当がついたでしょうか。ここからは、具体的な状況に合わせて、問題を解決するための正しい手順を解説していきます。

ケース1:相続人が判明している場合の手順

亡くなった借地人の相続人が誰か分かっている場合は、まずその相続人との話し合いから始めることになります。感情的にならず、法的な権利と義務に基づいて冷静に交渉を進めることが重要です。

  1. 意思の明確な伝達
    まずは内容証明郵便などを利用して、(更新が成立していない場合には)借地契約が期間満了により終了していること、または(更新が成立している場合には)契約関係を整理したいこと、そして地主としては土地上に残っている建物を収去して土地を明け渡してほしい、という意思を明確に伝えます。これにより、後のトラブルを防ぐための証拠にもなります。
  2. 建物収去義務と建物買取請求権の確認
    交渉の最大のポイントは、残された建物をどうするかです。原則として、契約が終了した場合、借地人(その地位を継いだ相続人)は建物を収去して土地を更地に戻す義務(建物収去土地明渡義務)を負います。しかし、契約の状況によっては、借地人側から「この建物を時価で買い取ってください」と請求できる権利(建物買取請求権)が認められる場合もあります。どちらの権利が優先されるかは専門的な判断が必要ですが、これらの法的知識を前提に交渉を進めることが不可欠です。
  3. 交渉から法的手続きへ
    話し合いで円満に解決できれば一番ですが、どうしても合意に至らない場合は、裁判所に「建物収去土地明渡請求訴訟」を提起することになります。なお、相続人が複数いるにもかかわらず、中には連絡が取れない相続人がいて交渉が進まないケースもあります。

ケース2:相続人不明・相続放棄された場合の手順

借地人が亡くなり、戸籍を調べても相続人が見つからない、あるいは全ての相続人が相続放棄をしてしまった、というケースは最も対応が困難です。なぜなら、交渉する相手が誰もいないからです。この場合、個人間の話し合いでの解決は不可能であり、家庭裁判所を通じた法的な手続きが必須となります。

相続人不明の借地トラブル解決フローチャート。家庭裁判所への相続財産管理人選任申立てから、管理人との交渉までの流れを示している。

その手続きとは、「相続財産清算人(※2023年4月1日施行の改正民法により、従来『相続財産管理人』と呼ばれていた清算手続の担い手の名称が変更されました)」の選任を家庭裁判所に申し立てることです。

相続財産管理人とは、亡くなった方の財産(借地上の建物など)を管理・清算するために、裁判所によって選ばれる専門家(主に弁護士など)です。地主様がこの申立てを行うことで、ようやく建物の収去や土地の明け渡しについて法的に交渉・手続きを進めるための「相手方」が作られるのです。

ただし、この手続きには注意点があります。この手続では、相続財産の内容等から相続財産清算人が円滑に事務を行うための費用(報酬を含む。)に不足が出る可能性がある場合、申立人が裁判所から予納金の納付を求められることがあります。もちろん、亡くなった方に十分な財産が残っていれば、そこから費用は支払われますが、財産がなければ予納金は戻ってこない可能性もあります。

非常に専門的で複雑な手続きとなるため、この状況に当てはまる場合は、速やかに専門家へ相談することをお勧めします。

より具体的な手順については、財産管理制度をご覧ください。

参照:相続財産清算人の選任

立ち退き料は必要?相場と判断基準を司法書士が解説

地主様が最も気になる点の一つが「立ち退き料」ではないでしょうか。果たして支払う必要があるのか、あるとすれば相場はいくらなのか、解説します。

まず大原則として、借地契約が期間満了によって明確に終了している場合、地主様に立ち退き料の支払い義務は法的にはありません。明け渡しは、契約終了に伴う当然の義務だからです。

一方で、先ほど解説した「黙示の更新」が成立していると判断される場合は、話が大きく異なります。この状態は法的に契約が続いているのと同じですから、地主様から契約の更新を拒絶するためには「正当事由」が必要になります。そして、地主様側の土地利用の必要性といった事情だけでは正当事由が十分でない場合に、その不足分を補う目的で、立ち退き料の提供が考慮されるのです。

立ち退き料に法律で定められた明確な相場はありませんが、一般的には借地権価格の数割程度や、建物の移転にかかる実費などを基準に、個別の事情を考慮して交渉で決められることが多いです。原則不要なケースと、正当事由を補うために必要となるケースがあることを、しっかりと理解しておくことが重要です。

残された建物の解体(建物収去)は誰の義務と費用か?

土地の上には、まだ借地人が建てた建物が残っています。この建物の解体、すなわち「建物収去」の義務と費用は、一体誰が負うのでしょうか。

この問題も、法的な原則は明確です。建物を収去する義務を負うのは、借地人(またはその相続人)であり、その費用も借地人側が負担するのが原則です。

しかし、これも現実には様々なケースがあります。

  • 相続人がいる場合:相続人が義務と費用を負担します。ただし、交渉を円滑に進めるため、地主様が解体費用の一部を負担する(立ち退き料に含めるなど)ことで、早期解決を図るケースも少なくありません。
  • 相続人が不明・相続放棄した場合:選任された相続財産管理人が、亡くなった方の財産の中から解体費用を捻出します。しかし、財産が全くない場合は、前述の通り、地主様が裁判所に納めた予納金から費用が支払われることになり、事実上、地主様の負担となってしまう可能性があります。

また、前述の「建物買取請求権」が借地人側にある場合は、地主様が建物を時価で買い取ることになり、収去義務も費用負担も地主様側に移ることになります。状況によって結論が大きく変わるため、慎重な判断が求められます。なお、亡くなった方の建物を解体する際の手続きについても、複雑な点が多いため注意が必要です。

複雑な借地問題は、一人で悩まず専門家にご相談ください

ここまでお読みいただき、契約満了後の借地問題が、いかに複雑で専門的な知識を要するかお分かりいただけたかと思います。特に、

  • 地代を受け取り続けており「黙示の更新」の可能性が高いケース
  • 借地人が亡くなり、相続人が不明または相続放棄されているケース

このような状況では、ご自身だけで対応しようとすると、かえって問題をこじらせてしまったり、法的に不利な立場に陥ってしまったりする危険性があります。

私たち司法書士のような専門家にご相談いただければ、まずは現在の状況を法的に正確に分析し、考えられるリスクと解決への道筋を丁寧にご説明します。その上で、必要であれば相続財産管理人選任の申立てといった裁判所の手続きまで、一貫してサポートすることが可能です。

長年心の中にあった重荷を、一人で抱え続ける必要はありません。円満な解決に向けて、私たちが全力でサポートいたします。まずはお気軽にお気持ちをお聞かせください。

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