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会社の解散を決めたら…まず全体像を把握しましょう
会社の解散という大きな決断をされ、これから始まる複雑な手続きを前に、大きな不安を感じていらっしゃる経営者の方も多いのではないでしょうか。「何から手をつければいいのか」「手続きに漏れがあったらどうなるのだろう」といったご心配は当然のことです。
当事務所でも、会社の解散に関するご相談のなかで、「法務局への登記だけでなく、税務署や年金事務所など、他にどの役所にどんな届出が必要なのか、漏れなく一覧で教えてほしい」というご質問を頻繁にいただきます。
会社を法的に消滅させるまでには、法務局への登記申請をはじめ、税務署、都道府県税事務所、市区町村役場、年金事務所など、実に多くの公的機関への届出が必要となります。しかし、ご安心ください。一つひとつの手続きを順番に整理し、全体像を把握すれば、着実に完了させることができます。
この記事では、えなみ司法書士事務所が、会社の解散から清算結了までに必要な公的機関への届出について、その全体像、具体的な手続き、提出書類、そして注意すべき期限まで、網羅的に解説します。皆様の不安を少しでも和らげ、手続きを進めるための確かな羅針盤となれば幸いです。
会社解散から清算結了までの手続きの流れとタイムスケジュール
公的機関への具体的な届出を理解する前に、まずは会社が解散を決議してから、法的に消滅(清算結了)するまでの全体的な流れを把握しておきましょう。手続きは大きく分けて以下の5つのステップで進みます。
- 株主総会での解散決議と清算人の選任
会社の解散を決定し、解散後の手続きを担当する「清算人」を選任します。通常は、代表取締役がそのまま清算人に就任します。 - 解散・清算人選任の登記申請(法務局)
解散の日の翌日から2週間以内に、管轄の法務局へ「解散の登記」と「清算人選任の登記」を申請します。 - 清算手続きの開始(財産整理・債権者保護など)
清算人は財産を調査・換価して債務を弁済します。原則として官報に債権申出の催告を掲載し、申し出期間を最低2か月以上確保します。ただし、法人の種類や清算の方式(例:法定清算か任意清算か等)によっては公告方法や要否が異なるため、個別の適用要件は確認してください。 - 株主総会での決算報告の承認(清算結了)
すべての債務の弁済が完了し、残った財産(残余財産)を株主に分配した後、清算人は決算報告書を作成し、株主総会で承認を得ます。この承認をもって、会社は実質的に活動を終了します。 - 清算結了の登記申請(法務局)
株主総会で決算報告が承認された日(清算結了日)の翌日から2週間以内に、法務局へ「清算結了の登記」を申請します。この登記が完了すると、会社の登記簿は閉鎖され、法人格が完全に消滅します。
債権者保護のための官報公告に最低2ヶ月を要するため、会社解散から清算結了までの一連の手続きには、スムーズに進んでも最低でも3ヶ月程度の期間がかかると見込んでおくとよいでしょう。
【一覧表】会社解散時に届出が必要な公的機関と提出書類
会社を解散する際に、どの公的機関へ、何を、いつまでに提出する必要があるのかを一覧表にまとめました。ご自身の会社にどの手続きが必要か、全体像を把握するためにお役立てください。

| 法務 | 法務局 | 解散・清算人選任登記申請書、株主総会議事録等 | 解散日から2週間以内 | 全ての会社で必須 |
| 法務 | 法務局 | 清算結了登記申請書、株主総会議事録、決算報告書等 | 清算結了日から2週間以内 | 全ての会社で必須 |
| 税務 | 税務署 | 異動届出書、給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書、消費税の事業廃止届出書など | 解散後、遅滞なく | 解散時と清算結了時の2回提出 |
| 税務 | 都道府県税事務所 | 異動届出書 | 解散後、遅滞なく | 解散時と清算結了時の2回提出 |
| 税務 | 市区町村役場 | 異動届出書 | 解散後、遅滞なく | 解散時と清算結了時の2回提出 |
| 労務 | 年金事務所 | 健康保険・厚生年金保険の『適用事業所全喪届』『被保険者資格喪失届』具体的な起算事由や提出先は管轄の年金事務所へ確認してください。 | 事実発生から5日以内 | 従業員がいる場合のみ |
| 労務 | 労働基準監督署 | 労働保険確定保険料申告書 | 事業廃止から50日以内 | 従業員がいる場合のみ |
| 労務 | ハローワーク | 雇用保険適用事業所廃止届、雇用保険被保険者資格喪失届 | 事業所廃止の翌日から10日以内 | 従業員がいる場合のみ |
※上記は主な手続きです。会社の状況によっては、許認可に関する届出など、他の手続きが必要になる場合があります。
【法務】法務局への登記申請手続き
会社の解散・清算において、司法書士の専門分野である法務局への登記申請は、手続きの根幹をなす非常に重要なものです。登記は、会社の状況を社会に公示するための公的な手続きであり、「①解散・清算人選任の登記」と「②清算結了の登記」の2回、申請する必要があります。
会社法により登記義務があり、期限を正当な理由なく遅延した場合には代表者等に100万円以下の過料が科されることがあります(過料は行政的制裁であり、刑事上の罰金とは性質が異なります)。過料や会計上の取扱いは事案により異なるため、具体的な扱いについては専門家にご確認ください。
①解散・清算人選任の登記
株主総会で解散を決議したら、まず最初に行うべき登記手続きです。この登記によって、会社が解散し、清算手続きの段階に入ったこと、そして誰が清算人として手続きを進めるのかを公に示し、取引の安全を確保します。
- 提出時期: 解散の日から2週間以内
- 主な提出書類:
- 株式会社解散及び清算人選任登記申請書
- 株主総会議事録(解散決議、清算人選任決議)
- 定款
- 清算人の就任承諾書
- 清算人の印鑑証明書
- 株主リスト
- (必要な場合)委任状
②清算結了の登記
財産の換価、債務の弁済、残余財産の分配といったすべての清算手続きが完了し、株主総会で決算報告が承認された後に行う、最後の登記手続きです。この清算結了登記が完了することで、会社の登記記録が閉鎖され、法人格は法的に完全に消滅します。
- 提出時期: 清算結了の日(株主総会での決算報告承認日)から2週間以内
- 主な提出書類:
- 株式会社清算結了登記申請書
- 株主総会議事録(決算報告承認)
- (必要な場合)委任状
【税務】税務署・都道府県税事務所・市区町村役場への届出
会社の解散に伴い、税金に関する手続きも必要です。これは、会社の課税関係を正式に終了させるために行います。届出先は、国税である法人税などを管轄する「税務署」、地方税である法人事業税や法人住民税を管轄する「都道府県税事務所」「市区町村役場」の3つです。
基本となるのは「異動届出書」の提出で、これを「解散時」と「清算結了時」の2つのタイミングで、それぞれの機関に提出する必要があります。
解散時に提出する書類(解散確定申告)
解散登記が完了したら、速やかに税務関連の届出を行います。具体的には、以下の手続きが必要です。
- 各機関への届出: 税務署、都道府県税事務所、市区町村役場のそれぞれに「異動届出書」を提出します。この際、会社の登記事項証明書(登記簿謄本)の添付が必要です。
- 解散確定申告: 事業年度の開始日から解散日までの期間を一つの事業年度とみなし、その期間の所得に対する法人税等の確定申告(解散確定申告)を行います。申告と納税の期限は、原則として「解散の日の翌日から2ヶ月以内」です。
その他、給与の支払いや消費税の納税義務があった会社は、それぞれ「給与支払事務所等の廃止届出書」や「消費税の事業廃止届出書」なども税務署へ提出します。
清算結了時に提出する書類(清算確定申告)
清算手続き中に残余財産が確定したら、その事業年度の確定申告(清算確定申告)を行います。
- 清算確定申告: 残余財産が確定した日から清算結了日までの期間の所得について、確定申告を行います。申告と納税の期限は「残余財産確定の日の翌日から1ヶ月以内」です。
- 各機関への届出: 清算結了の登記が完了した後、法人格が消滅したことを届け出るため、再度、税務署、都道府県税事務所、市区町村役場へ「異動届出書」を提出します。登記事項証明書(閉鎖事項全部証明書)の添付が必要です。
【労務】社会保険・労働保険に関する届出(従業員がいる場合)
従業員を雇用している会社の場合は、社会保険(健康保険・厚生年金)と労働保険(雇用保険・労災保険)に関する手続きが必要になります。従業員の権利を守り、退職後の生活をスムーズに移行させるための重要な手続きです。従業員がいない会社の場合は、このセクションの手続きは不要です。

年金事務所への届出
健康保険・厚生年金保険に関する手続きは、管轄の年金事務所(または事務センター)で行います。
- 健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届: 最後の従業員が退職(資格喪失)し、会社が適用事業所に該当しなくなった場合に提出します。提出期限は「事実発生から5日以内」と非常に短いため、迅速な対応が求められます。
- 被保険者資格喪失届: 従業員が退職する際に、一人ひとりについて提出します。こちらも期限は「事実発生から5日以内」です。
労働基準監督署・ハローワークへの届出
労災保険と雇用保険に関する手続きは、それぞれ労働基準監督署とハローワークで行います。
- 労働基準監督署への届出: 会社の労働保険関係を消滅させるため、「労働保険確定保険料申告書」を提出します。これは、その年度の労働保険料を精算するための手続きです。期限は「事業廃止の日から50日以内」です。
- ハローワークへの届出:
- 雇用保険適用事業所廃止届: 雇用保険の適用事業所ではなくなったことを届け出ます。期限は「事業所廃止の翌日から10日以内」です。
- 雇用保険被保険者資格喪失届: 従業員の退職に伴い提出します。これは従業員が失業給付(失業保険)を受給するために必要な重要な書類で、期限は「資格喪失の事実があった日の翌日から10日以内」です。
届出の期限遅延とペナルティについて
これまで見てきたように、会社の解散に関する手続きには、それぞれ厳格な提出期限が定められています。これらの期限を守ることは非常に重要です。
特にペナルティが明確に定められているのが、法務局への登記申請です。会社法第976条では、登記を怠った場合(登記懈怠)、代表者個人に対して100万円以下の過料が科される可能性があると規定されています。これは会社の経費にはできず、代表者自身が負担しなければならない罰金です。
また、税務申告が遅れれば延滞税や無申告加算税が課される可能性がありますし、社会保険・労働保険の手続きが遅れると、従業員が失業給付を速やかに受け取れないなど、直接的な不利益につながる恐れもあります。
手続きの遅延は、金銭的なペナルティだけでなく、余計な手間や精神的な負担を増やすことにもなりかねません。計画的に、そして確実に手続きを進めることが肝心です。
複雑な会社解散手続きは専門家への相談が安心です
会社の解산・清算手続きは、法務、税務、労務と多岐にわたり、それぞれに専門的な知識と正確な対応が求められます。経営者様ご自身でこれらすべての手続きを滞りなく進めるのは、大変なご負担かと存じます。
私たち司法書士は、解散・清算登記の専門家として、手続きの出発点から完了までを法的にサポートいたします。また、必要に応じて税理士や社会保険労務士といった他の専門家と連携し、税務申告や労務手続きも含めてワンストップで対応することも可能です。
一人で悩みを抱え込まず、まずは専門家に相談することで、やるべきことが明確になり、精神的なご負担も大きく軽減されるはずです。
えなみ司法書士事務所では、横浜市・川崎市を中心に、会社の解散手続きに関するご相談を承っております。平日・土日祝日問わず21時まで対応しており、ご指定の場所へお伺いする「無料訪問面談」も実施しておりますので、日中お忙しい経営者様でもご都合の良い時間にご相談いただけます。
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