亡くなった人の建物を解体|相続登記不要?滅失登記の手順

亡くなった方の建物、解体前に相続登記は必要?

ご親族が亡くなられ、古くなったご実家などを解体しようとお考えの際、「その前に、まず相続登記をしなければならないのだろうか?」という疑問をお持ちになる方は少なくありません。相続登記には時間も費用もかかるため、できれば避けたいとお考えになるのも無理はないでしょう。

結論から申し上げますと、建物を解体して取り壊すだけであれば、原則として相続登記は不要です。

この記事では、亡くなった方の名義のままになっている建物を解体し、滅失登記を行うまでの手続きについて、司法書士が分かりやすく解説します。手続きの全体像と具体的なステップをご理解いただくことで、安心して手続きを進めるためのお手伝いができれば幸いです。

原則不要!相続登記を省略できる理由

なぜ、建物の相続登記を省略できるのでしょうか。それは、これから取り壊して「無くなってしまう」建物の名義を、わざわざ費用と時間をかけて相続人に変更することに実益がないためです。

不動産登記は、不動産の現在の状況と権利関係を公示するための制度です。建物の滅失登記は、建物が物理的に存在しなくなったという「事実」を登記記録に反映させる手続き(表示に関する登記)です。

そして、この建物滅失登記は、相続人のうちの一人から申請することができます。相続人全員で手続きをする必要はありません。そのため、亡くなった方の名義のままでも、相続人の一人として「所有者が亡くなり、建物も取り壊したので登記をなくしてください」と法務局に申請できるのです。

注意!土地の売却予定があるなら相続登記は必須

建物の相続登記は不要ですが、一つだけ重要な注意点があります。それは、建物を解体した後の土地を売却したり、担保に入れて融資を受けたりするご予定がある場合です。

この場合、土地については必ず相続登記を済ませ、名義を相続人に変更しておく必要があります。亡くなった方の名義のままでは、土地の売買契約を結んだり、所有権を買い主に移転したりすることはできないからです。

つまり、「建物は滅失登記のみ、土地は相続登記が必要」と、それぞれの手続きを分けて考える必要があります。相続登記は2024年4月1日から義務化されていますので、土地をどうするか未定の場合でも相続登記の検討をお勧めします。

【3ステップ】名義人が死亡した建物の解体・滅失登記手続き

ここからは、実際に手続きを進めるための具体的な流れを3つのステップに分けて解説します。この通りに進めれば、迷うことなく手続きを完了させることができます。

名義人死亡時の建物解体・滅失登記の3ステップを示した図解。ステップ1:相続人全員の同意、ステップ2:建物の解体、ステップ3:滅失登記の申請。

ステップ1:解体前の準備【相続人全員の同意が必須】

手続きを進める上で、最も重要なのがこの最初のステップです。建物を解体するという行為は、法律上、財産を処分する「処分行為」にあたります。そのため、必ず相続人全員の同意を得なければなりません。

原則として相続人全員の同意を得るべきですが、相続人不在・不明や紛争がある場合は家庭裁判所で遺産管理人を選任するなどの手続で対応することになります。争いが予想される場合は事前に専門家に相談してください。

正式な遺産分割協議書を作成するのが理想ですが、少なくとも「建物の解体に全員が同意している」ことを証明する同意書を作成し、相続人全員で署名・捺印をしておくことを強くお勧めします。後々のトラブルを防ぐための、何より大切な「お守り」になります。

ステップ2:建物の解体と「建物滅失証明書」の受領

相続人全員の同意が得られたら、解体業者を選定し、建物の解体工事を依頼します。複数の業者から見積もりを取ると、費用感を把握しやすいでしょう。

工事が無事に完了したら、業者から必ず受け取らなければならない重要書類があります。それが「建物滅失証明書(または取毀(とりこわし)証明書)」です。

これは、業者が建物を確かに取り壊したことを証明する書類で、後の滅失登記申請に不可欠です。建物滅失証明書は滅失登記で重要な証拠となりますが、業者の証明がない場合でも工事契約書・完了報告書・写真等の他の証拠により滅失事実を立証することがあります。可能な限り業者の証明書を取得してください。可能であれば解体業者の印鑑証明書や登記事項証明書を受領しておくと申請手続きがスムーズになる場合がありますが、添付書類は事案により異なります。必要書類は事前に法務局や専門家に確認してください。

ステップ3:滅失登記の申請【相続人の一人が申請可能】

建物が滅失した日は不動産登記法上の登記原因日となり、原則として滅失の日から1か月以内に滅失登記を申請する義務があります(不動産登記法等)。ただし事情によっては追加の証拠提出等が必要になる場合がありますので、不明点は管轄法務局や専門家に確認してください。これは不動産登記法で定められた義務であり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料に処せられる可能性があります。

申請は、前述の通り相続人のうちの一人から行うことができます。申請書を作成し、必要な書類を添付して法務局に提出します。申請書はご自身で作成することも可能です。

このとき、亡くなった所有者(被相続人)と、申請人となるご自身(相続人)との関係を証明するために、戸籍謄本などが必要になります。どのような書類が必要になるかは、次の章で詳しくご説明します。

参考:不動産登記の申請書様式について – 法務局

所有者死亡時の滅失登記で必要となる書類一覧

滅失登記の申請に必要な書類は、大きく分けて「解体業者から受け取るもの」と「ご自身で準備するもの」の2種類があります。いざという時に慌てないよう、事前に確認しておきましょう。

所有者死亡時の滅失登記に必要な書類のチェックリスト。解体業者から受け取る書類と、自分で準備する書類がまとめられている。

解体業者から受け取る書類

  • 建物滅失証明書(取毀証明書)
    業者が建物を解体したことを証明する書類です。法務局所定の様式でなくても、必要事項が記載されていれば問題ありません。
  • 解体業者の印鑑証明書
    建物滅失証明書に押印された印鑑が、業者の実印であることを証明するために必要です。
  • 解体業者の代表者事項証明書(または履歴事項全部証明書)
    法人の場合、誰が代表者であるかを証明する書類です。印鑑証明書とあわせて、代表者の資格を証明します。

ご自身(相続人)で準備する書類

  • 建物滅失登記申請書
    法務局の窓口やウェブサイトで書式を入手できます。
  • 亡くなった所有者の死亡の記載がある戸籍謄本(または除籍謄本)
    登記簿上の所有者が亡くなっていることを証明するために必要です。
  • 申請する相続人の現在の戸籍謄本
    ご自身が相続人であることを証明するために必要です。
  • 申請する相続人の住民票
    申請書に記載する住所を証明します。
  • (場合によって)亡くなった所有者の住民票の除票や戸籍の附票
    登記簿に記載されている所有者の住所と、亡くなった時の最後の住所が異なる場合に、住所の変遷を証明するために必要となります。

【ケース別】こんな時はどうする?解体・滅失登記の注意点

基本的な手続きは上記のとおりですが、中には少し注意が必要なケースもあります。ここでは、実務でよくご相談いただく3つのケースについて解説します。

借地上の建物を解体する場合

えなみ司法書士事務所では、借地上の建物の名義人が死亡し、その相続人の方から「建物が古くなったので解体したいのですが、相続登記は必要ですか?」といったご相談をいただくことがあります。

借地、つまり他人から借りている土地の上に建っている建物を解体する場合、ご自身の判断だけで進めてはいけません。必ず、事前に地主さんの承諾を得る必要があります。

借地契約書には、契約終了時に土地を更地にして返す「原状回復義務」が定められていることがほとんどです。しかし、地主さんによっては「まだ使える建物を壊さないでほしい」「解体するなら承諾料が欲しい」と考える方もいらっしゃいます。まずは借地契約の内容をよく確認し、地主さんとしっかりと話し合いの場を持つことが、後のトラブルを防ぐために不可欠です。

建物に住宅ローン(抵当権)が残っている場合

亡くなった方が建てた家に住宅ローンが残っており、抵当権(借金の担保)が設定されている場合も注意が必要です。

抵当権が付いている建物は、債権者である金融機関の「財産」でもあります。そのため、金融機関に無断で建物を解体することは絶対にできません。もし勝手に解体してしまうと契約違反となり、残っているローンの一括返済を求められる可能性があります。

まずはローンを組んでいる金融機関に連絡し、「相続が発生し、建物を解体したい」と相談してください。通常は、残っているローンの返済計画などを話し合った上で、解体の承諾を得る流れになります。

建物が未登記だった場合

ご親族の家を調べてみたら、登記がされていない「未登記建物」だった、というケースも稀にあります。この場合、そもそも法務局に登記記録が存在しないため、「建物滅失登記」を申請することはできません。

では何もしなくて良いかというと、そうではありません。市区町村の役所(資産税課など)に対して「家屋滅失届」を提出する必要があります。これを怠ると、実際にはもう存在しない建物に対して、固定資産税の納税通知が届き続けてしまうことになります。

建物を管理している役所の担当部署に連絡し、必要な手続きを確認しましょう。

滅失登記は自分でできる?専門家への依頼も検討しよう

滅失登記の手続きは、ご自身で行うことも不可能ではありません。費用を抑えられるのが最大のメリットですが、平日の日中に役所や法務局へ何度も足を運んだり、慣れない書類の作成に時間がかかったりするデメリットもあります。

特に相続が絡む場合は、戸籍謄本の収集が思いのほか大変だったり、前述のような複雑なケースに該当したりすることもあります。そんな時は、専門家への依頼も選択肢の一つです。

司法書士事務所で専門家に相談している夫婦。相続手続きの不安を専門家が親身に聞いている様子。

土地家屋調査士と司法書士の役割の違い

専門家といっても、誰に相談すれば良いか迷われるかもしれません。ここで、それぞれの専門家の役割を簡単にご説明します。

  • 土地家屋調査士
    不動産の「表示に関する登記」の専門家です。建物の物理的な状況(どこに、どんな建物があるか)を調査・測量し、登記申請を代理します。建物滅失登記の申請代理は、まさに土地家屋調査士の専門業務です。
  • 司法書士
    不動産の「権利に関する登記」の専門家です。所有権の移転(売買、相続)や抵当権の設定・抹消など、権利関係の登記を代理します。

今回のケースでは、滅失登記そのものは土地家屋調査士の業務ですが、「相続人の調査(戸籍収集)」「相続人全員の同意取り付けのサポート」「解体後の土地の相続登記や売却」といった周辺手続きには、司法書士が深く関わります。どちらに相談すれば良いか分からない場合は、まず司法書士にご相談いただければ、状況に応じて適切な専門家と連携して対応することも可能です。

専門家に依頼した場合の費用相場

土地家屋調査士に建物滅失登記を依頼した場合の報酬は、一般的に4万円~5万円程度が相場とされています。ただし、建物の状況や必要書類の収集状況など、事案の複雑さによって費用は変動します。

費用はかかりますが、専門家に依頼することで、煩雑な手続きから解放され、時間的・精神的なご負担を大きく軽減できるというメリットがあります。何より、正確かつ迅速に手続きを完了できる「安心感」が得られるはずです。

まとめ|複雑な手続きは専門家へ相談を

今回は、亡くなった方の名義の建物を解体する際の手続きについて解説しました。最後に、大切なポイントをもう一度確認しましょう。

  • 建物を解体するだけなら、相続登記は原則不要。
  • ただし、解体するには相続人全員の同意が絶対に必要。
  • 建物を取り壊したら、1ヶ月以内に滅失登記を申請する義務がある。

もし手続きにご不安を感じたり、お仕事などで時間が取れなかったりする場合は、一人で抱え込まずに専門家にご相談ください。えなみ司法書士事務所では、横浜市・川崎市を中心に、相続に関する様々なお悩みに対応しております。初回のご相談は無料です(要予約)。平日はもちろん、土日祝も21時までご予約にて対応しており、ご自宅などへの訪問相談も無料で承っております(対応エリア等、詳細はお問い合わせください)。まずはお話をお聞かせいただくことから始められればと思います。

【事務所情報】
えなみ司法書士事務所
代表 司法書士 榎並 慶太
神奈川県司法書士会所属 第2554号
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