中国人売主の不動産売買|必要書類・海外送金・契約リスク回避策

なぜ中国人売主との取引は特に注意が必要なのか?

近年、国際的な不動産取引は増加傾向にありますが、中でも中国人オーナーが所有する日本の不動産を売買するケースは、特に慎重な対応が求められます。日本人同士の取引と同じ感覚で進めてしまうと、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があるからです。

では、具体的に何が違うのでしょうか。中国人売主との不動産売買には、主に3つの注意すべき点が存在します。

  1. 本人確認・必要書類の特殊性:売主が海外に住んでいる場合、日本の印鑑証明書や住民票がありません。それに代わる公的な書類を、現地の制度に則って準備してもらう必要があります。
  2. 海外送金の問題:売買代金の送金は、国内送金のように簡単にはいきません。中国特有の送金規制や、着金までのタイムラグ、為替変動など、決済を阻む複数のハードルが存在します。
  3. 言語・文化の壁による契約リスク:契約内容の解釈の違いや、商習慣の差が、後々の紛争の火種になることも少なくありません。

これらのポイントを聞くと、「なんだか難しそうだ…」と不安に感じられるかもしれません。しかし、ご安心ください。一つひとつの課題に対して、適切な知識と手順をもって臨めば、安全に取引を完了させることは十分可能です。

この記事では、司法書士の視点から、中国人売主との不動産売買を成功させるための具体的なステップとリスク回避策を徹底的に解説します。このテーマの全体像については、不動産個人間売買の完全ガイド|必要書類・費用・流れを専門家が解説で体系的に解説しています。

【ステップ1】中国人売主との取引で必須となる書類リスト

不動産の所有権を移転する登記手続きには、法律で定められた書類が不可欠です。売主が中国人である場合、その居住状況によって必要となる書類が大きく異なります。ここでは、それぞれのケースで具体的にどのような書類が必要になるのか、その理由と合わせて詳しく見ていきましょう。

売主が日本在住の中国人の場合

売主が日本に住み、有効な在留資格を持っている場合は、比較的日本人との取引に近い形で手続きを進めることができます。基本となる必要書類は以下の通りです。

日本在住と海外在住の中国人売主から不動産を購入する際の必要書類の違いを比較した図解。日本在住者は住民票や印鑑証明書が必要なのに対し、海外在住者は公証書が必要となる。
  • 在留カードまたは特別永住者証明書:本人確認の基本となる書類です。在留資格の種類や有効期限を必ず確認します。
  • 住民票:現在の住所を証明するために必要です。不動産を取得した際の住所から変更がある場合は、住所の変遷を証明する「住民票の除票」や「戸籍の附票」が別途必要になる点に注意が必要です。
  • 印鑑証明書:実印を登録している場合は、印鑑証明書が必要です。発行から3ヶ月以内のものを用意してもらいます。
  • 登記済権利証または登記識別情報通知:不動産の所有者であることを証明する最も重要な書類です。

これらの書類は、日本人との取引でもお馴染みのものですが、在留カードの有効期限切れなど、外国人特有のチェックポイントを怠らないようにしましょう。

売主が海外(中国本土など)在住の中国人の場合

このケースが最も手続きが複雑になり、専門的な知識が求められます。売主が海外に居住しているため、日本の住民票や印鑑証明書を取得できません。そのため、これらの書類に代わるものを、中国現地の公的機関で作成してもらう必要があります。

具体的には、以下の書類が登記手続きに必須となります。

  • 宣誓供述書に類する公証書:売主の氏名、生年月日、現住所、そして売却する不動産の表示などを記載した書面に、本人が中国の公証人の面前で署名し、その内容が真実であることを宣言(供述)したことを証明してもらう書類です。これらは主に、日本の住民票(住所証明)や印鑑証明書(本人の押印の証明)に代わる書類として扱われます。なお、売買による所有権移転登記では、登記識別情報通知(または登記済証(権利証))は原則として別途必要です。
  • サイン証明書に類する公証書:売買契約書や委任状などの書類になされた署名が、間違いなく本人のものであることを公証人に証明してもらう書類です。日本の印鑑証明書に相当します。

これらの公証書は、中国の「公証処」という役所で発行されます。取得には一定の時間がかかるため、売買契約を結ぶ前の段階で、準備状況を確認しておくことが極めて重要です。また、登記申請の際には、全ての書類に日本語の翻訳文を添付する必要があります。

こうした海外在住者との取引における署名証明書などの特別な必要書類は、相続登記など他の手続きでも応用される知識です。

【ステップ2】海外送金における最大のリスクと対策

書類の準備と並行して、買主が最も注意すべきなのが売買代金の支払いです。特に、売主の銀行口座が海外にある場合、海外送金特有のリスクを理解し、万全の対策を講じなければ、決済日当日に取引が頓挫しかねません。

注意点1:中国の送金規制(年間5万ドル相当)を理解する

これは多くの人が見落としがちな、しかし極めて重要なポイントです。中国では、個人の結售汇(外貨の購入・売却)について、原則として年度総額(1人あたり年等値5万米ドル)が設けられています。

この規制は、高額な不動産売買代金の決済に直接的な影響を及ぼします。例えば、3,000万円の物件を売却した代金を一度に中国へ送金しようとしても、この規制に抵触してしまうのです。結果として、売主側では、(適法な範囲で)送金・両替の時期や方法を調整するなど、事前の準備が必要になる場合があります。

買主としては、この事実を前提に、契約前に売主や仲介業者と「どのようにして代金を受け取るのか」という具体的な計画を綿密に協議し、合意しておく必要があります。これを怠ると、決済日になってから「送金できない」という事態に陥るリスクがあります。

注意点2:着金までの日数と手数料・為替変動リスク

海外送金は、国内の振込のように即時に完了するわけではありません。送金手続きから実際に相手の口座に着金するまで、数日間のタイムラグが発生するのが通常です。また、送金銀行や経由銀行で手数料が差し引かれ、最終的な着金額が送金額よりも少なくなる「目減り」も起こり得ます。

さらに見過ごせないのが為替変動リスクです。契約から決済までの間に為替レートが変動し、売主の手取り額が変わってしまう可能性があります。

不動産売買における海外送金の3つのリスク(着金までの日数、手数料による目減り、為替変動)をアイコンで分かりやすく示した図解。

これらのリスクを回避するためには、以下の対策が不可欠です。

  • 売買契約書で、取引価格を「日本円建て」であることを明確に定める。
  • 決済日当日に慌てないよう、かなり余裕を持ったスケジュールで送金手続きを開始してもらう。
  • 手数料による目減りも考慮し、少し多めの金額を送金するなどの調整について事前に合意する。

【ステップ3】契約前に!売買契約書のチェックポイント3選

書類や送金の準備と並行し、売買契約書の内容を精査することも極めて重要です。言語や商習慣の違いが思わぬ落とし穴とならないよう、買主の権利を守るための条項を盛り込んでおきましょう。

本人確認の徹底と代理人取引の注意点

取引の安全性の根幹は、売主が真の所有者であることの確認、すなわち「本人確認」です。原則として、売主本人と直接面談することが望ましいでしょう。

特に売主が海外在住で、日本にいる親族などが代理人として手続きを進める場合は、細心の注意が必要です。その代理人が正当な権限を持っているかを確認するため、中国の公証処で認証を受けた「委任状」を必ず提出してもらいます。委任状には、どの不動産を、いくらで、誰に売却する権限を委任するのかが具体的に記載されている必要があります。

近年では、司法書士がテレビ会議システム(Zoomなど)を利用して、海外にいる売主本人と直接顔を合わせ、パスポートなどで本人確認を行うオンライン面談も有効な手段です。万が一のなりすまし等の詐欺リスクを回避するため、権利証がない場合などでも用いられる厳格な本人確認プロセスが、こうした国際取引では不可欠です。

買主の「源泉徴収義務」を正しく理解する

これは買主にとって非常に重要な税務上の義務です。売主が海外在住者(非居住者)である場合、買主は売買代金の10.21%を源泉徴収し、代金を支払った翌月10日までに税務署へ納税する義務があります。

例えば、5,000万円の物件を購入した場合、買主は売主へ4,489万5,000円を支払い、残りの510万5,000円を国に納めなければなりません。この義務を知らずに代金の全額を売主に支払ってしまうと、後日、税務署から納税するよう求められ、買主が二重払いのリスクを負うことになります。

ただし、この源泉徴収義務には例外もあります。

  • 売買代金が1億円以下であること
  • 買主が自己またはその親族の居住用として購入すること

この両方の条件を満たす場合に限り、源泉徴収は不要となります。事業用の物件や投資用マンションなどを購入する場合は、ほぼ全てのケースで源泉徴収義務が発生すると考えてよいでしょう。この税務処理は複雑なため、契約前に必ず専門家に相談することをお勧めします。なお、不動産登記における国籍情報の取扱いなど、外国人との取引に関する制度は変化し続けています。

より詳しい情報については、国税庁のウェブサイトもご参照ください。
参照:国税庁「No.2879 非居住者等から土地等を購入したとき」

契約不適合責任や解除に関する条項の明確化

購入後に、雨漏りやシロアリ被害といった物件の隠れた欠陥(契約不適合)が見つかった場合、買主は売主に対して修補や代金減額などを請求できます。しかし、売主が海外にいると、事実上その責任を追及することが非常に困難になります。

そのため、契約段階で以下の点を明確に定めておくことが、買主の自己防衛につながります。

  • 契約不適合責任の期間や範囲を具体的に定める。(例:引渡しから一定期間内に発見された特定の欠陥についてのみ責任を負う、など)
  • 手付解除や違反解除の条件を明確にする。
  • この契約に関する紛争が生じた場合の準拠法を日本法とし、管轄裁判所を日本の裁判所(例:物件所在地の地方裁判所)とすることを合意する。

特に、紛争解決のルールを日本の法律と裁判所に指定しておくことは、万が一のトラブル解決において、買主が不利な立場に置かれるのを防ぐために不可欠な条項です。

まとめ|複雑な手続きは専門家への相談が安全です

ここまで見てきたように、中国人売主、特に海外在住者との不動産売買は、日本人同士の取引とは比較にならないほど多くの専門的な論点を含んでいます。

【重要ポイントの再確認】

  • 必要書類:海外在住の売主からは「宣誓供述書」や「サイン証明書」といった公証書類の取得が必須。
  • 海外送金:中国の年間5万ドル送金規制を念頭に、決済方法を事前に確立する。司法書士の預かり金口座活用が安全。
  • 契約内容:本人確認の徹底、買主の源泉徴収義務の確認、契約不適合責任の明確化が不可欠。

これらの手続きは、一つでも不備があれば、取引全体が頓挫してしまうリスクをはらんでいます。書類の準備に時間がかかりすぎて契約が白紙になったり、決済日にお金が届かず違約になったりといった事態は、絶対に避けなければなりません。

安全かつスムーズに取引を完了させるためには、国際取引の実務に精通した司法書士のサポートが不可欠です。えなみ司法書士事務所では、中国人売主との不動産取引に関するご相談を承っております。初回のご相談は無料ですので、少しでもご不安な点がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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